葵月
2026-04-04 22:18:15
9347文字
Public
 

十五夜とラーメン

・平和軸
・王最
・二次創作
・ラーメンが食べたかった
・王馬くんのもういいよが見たかった
・なんでも許せる人向け





『今日夜ご飯どうするの?』
『どうって。いつも通り外だけど?』
『着いて行ってもいいかな』
『ラーメンだよ』
『いいよ』


よし……

王馬くんが自炊をしている姿は見たことがない。かと言ってきっちり毎食食べているかと言われると、多分食べていないだろうけど。

王馬くんが食べに行くタイミングで着いていくことができれば、王馬くんからしたら僕との時間をわざわざ捻出する訳では無いし、僕というオプションが少し付いた上で食事をするだけだ。本当に嫌なら無理と言うだろうが、良くも悪くも無関心。“勝手にすれば”と言ってくれるのではないかと推察していた。


同じ食卓を囲むことで和む空気もあるだろう。
その空気に背中を押してもらい、全てに対しての謝罪と、もう一度傍にいて貰えないか頼み直すんだ。

はやる足をそのままに進め王馬くんの指定した場所にたどり着くと、そこはとんこつラーメン専門店だった。夜風が冷たくなった店舗前で王馬くんを待っていると約束の一分前に現れる。

一緒に中に入ると、ここで食券を買ってから中に入るのだと教えてくれた。

王馬くんの指は迷いなくいくつかのボタンを押す。
僕はどうしたらいいのか分からず、とりあえず一番大きく表示された王道メニューであろうボタンを押した。

店内に入ると見慣れないレイアウトに足が止まった。ディスプレイに表示された赤い点滅が示す席は奥から二席。……あれ?

「ねぇ、王馬く……いてっ」

顔面に押し付けられた木の板には“周囲の声が気になる”と書かれていた。喋るなと言いたいんだろうか。
食事中に話せたらと思っていたが、これだと会話どころか、声を出すことすら憚られる雰囲気だ。

作戦失敗。
というより、王馬くんには計画すら読み取られていたことを悟り、無力な僕はすぐ運ばれてきたラーメンと向き合うことしかできなかった。


『どこにいるの?』
『食べ終わったから帰った』


……次は、この店以外で。



◇◆◇◆◇


あの日から何度か連絡をしてみたが、『今日は行かない』という連絡が続き彼の食生活が少し心配になった。
今日も一通のメッセージを送る。


『今日は?』
『ラーメンだよ』
『何ラーメン?』
『野菜たっぷりなやつ』


シンプルなラーメンだった前回とは違う店だろう。今回こそ話ができるかもしれないと、早急に書類整理を終わらせる。
着いた先では少しの列があり、外れたところで王馬くんを待った。中からは前と変わらずとんこつの独特な匂いが漂っている。
王馬くん豚足は嫌いだって泣き喚くのに、とんこつラーメンは好きなのか。トマトとケチャップみたいなものなのかな。

僕の服に強い匂いが付き始めた頃。また約束の一分前に王馬くんはひょこっと顔を出す。
二人で最後尾に並ぶと、何も言わずスマホを操作し始めた王馬くんの後ろで形のいい後頭部を眺めていたが、この時間すら今の僕は無駄にできないのではないかと気付き、恐る恐る口を開く。


「あの……、王馬くん」

「なに?」

「今更だけどキミに謝りたいことと伝えたいことがたくさんあって。まず、キミを……

「最原ちゃん、その話後でもいい?」


後で聞いてくれるんだと弾かれたように顔をあげると王馬くんが一枚の“ラーメン(ハーフ)”と書かれた小さな紙をこちらに差し出してきていた。……いつの間にか食券機の前まで来ていたのだろう。

そのままカウンター席に流れるように進む。隣り合わせでは座れたが、何となく店内は殺伐としているように感じて、ここでも話は出来ないのだなと悟った。


「ニンニクは?」
「野菜マシマシ、ニンニクカラメ多め」

この呪文、僕も噂では聞いたことがある。王馬くん、これを野菜たっぷりラーメンと呼ぶのは一種の詐欺じゃないかな。

「ニンニクは?」

僕の番が来た。事前知識も何もない、何を言えばいいのか分からない。ただ、テンポよく唱えないとタブーに当たるということだけは知っていたので、先ほど耳に入った呪文を同じように口に出した。

「ヤサイマシマシニンニクカラメオオメ……?」




大量の野菜に負けないくらい、味のしっかりとついたスープ。一人前より少し少ない麺の量で助かった。これなら何とか食べきれそうだ。


「先に出るから」


ラーメン(大)の食券を持っていたはずの王馬くんは、自分の周りの机を拭きながら僕に声をかけてさっと姿を消した。



……結局、今日もだめだった。


頬に流れるものは、蒸された空気と暑いラーメンによる汗だと思い込むことにした。