真九龍
2026-03-06 19:54:09
42542文字
Public 小説
 

【鳴ライ】Sweet and Crisis 2

鳴海×ライドウで、”二人で女装”して潜入捜査するお話。まさかの続編です。
前作は此方→Sweet and Crisis
注1:両想いな鳴ライになっています。
注2:ライドウremaster版をプレイ及びクリア済み。ゲーム本編のネタバレを含みます。
注3:攻めの女装表現が含まれます(勿論ライドウも女装します)。
注4:当時の時代背景(明治期~大正期)における女性軽視表現が含まれます(※性的な表現は含みません)。
注5::流血、暴力、首絞表現を含みます。


─ 肆 ─

 午後十一時三十五分。
 噂の展示会会場である空き店舗へ近付くにつれ、大中小様々な大きさの風呂敷を抱えた女性達とすれ違う。噂が噂を呼び広まり、展示会に足を運ぶ女性が急増したと窺える。皆が皆好みに叶う美術品を購入出来たのか、実に御機嫌で御満悦な表情を浮かべていた。

「(──本当に極僅かだが、彼女達が抱えている風呂敷から”呪い”のようなものを感じる……)……鳴海さん……可能性が濃厚になってきました」
……ッ!そうか……気を引き締めておかないとな」
 
 ライドウはタヱに聞こえないよう鳴海に耳打ちし、共に警戒態勢へと入った。其れは、件の展示会が益々怪しいことを意味する──。
 蛇足になるが、鳴海の予想通り、移動中複数の男達に絡まれた。
 特にライドウの衣装は物珍しい所為か、彼に対し実に厭らしい視線が向けられる。腸が煮えくり返る鳴海を他所に、タヱは「構うだけ時間の無駄だから行きましょう」と素通り一択ですたすたと前進するも、其れでも男達は執拗に声を掛けてくるではにか。鳴海は埒が明かないと呆れた様子で、絡んでくる男達の前に立ちはだかり、彼等を本気で投げ飛ばし、ではなく、

「此れは正当防衛よッ!オラァッ!」

 と叫びながら男達の急所を容赦なく蹴り上げ、制裁を与えた。手加減一切無しの強烈な蹴り──しかも元軍人の蹴力──を直に受けた男達はあまりの激痛に悶絶し、路上に蹲り撃沈する。

「俺の大切な……じゃなくて……あたし達の可愛い末妹を厭らしい目で見た罰よ」
「海鳥御姉様、警察に通報しました」
「有難う狐鳥ちゃん」

 鳴海が男達を撃退中、ライドウは公衆電話で警察に通報した。程無くして、近くの交番から警察官が駆け付け、痛みで中心を抑える男達を連行していった。一部始終を目撃した男性達は怖れ慄き一目散に退散し、女性達からは其の雄姿に歓声が上がる。

「もう、海鳥さんたら……でも、正当防衛ならセーフね」

 タヱも許してくれたので、実質問題無し。
 さて、数十分前の出来事を回想するうちに、夜中の不思議な展示会会場こと空き店舗に辿り着いた。空き家や空き店舗は、電気の供給が停止し、スイッチをどれだけ押そうが点灯しない。しかし、窓から煌々とした光は、電力が通っている証拠。此の付近に発電機でも設置したのだろうか。

「此処よ。元レストランで、外国人が経営してたみたいなの」
……レストランにしては規模が大きいような……あ、ホールレストランていうやつかしら?」
「そう、ホールレストラン!第一ホールと第二ホールがあって、大繁盛だったとか」

 レストランにしてはやや大きめの建造だが、此の規模はホールレストランだと鳴海は見抜く。パーティーを開催するには打って付けで、ダンス会場を併設する店舗とホテルが一定数存在している。西洋のパーティー形式が、鎖国解除後の日本に上手く浸透した証拠だ。

「でも国に帰らないといけない事情が急遽出来たとかで、日本から撤退せざるを得なくなったみたいよ」
(……日本での成功を全て手放して帰国しなければならない、か……経営者もさぞ悩みに悩み抜いただろう……)

 抱える事情と苦悩は、人それぞれ。
 どう判断を下すのかも、人それぞれ。

……?狐鳥ちゃん、どうかしたの?顔が少し強張っているように見えるけど……まさか……怖い、とか?」
……!?済みません、大丈夫です(霊視していましたなんて言えない……)」
「(帝都の守護者として──デビルサマナーとしての捜査は既に始まってるようなもんだからな……)御姉様……狐鳥ちゃんに対して”怖いの?”は無いと思うわ……
……!あたしったら、愚問だったわね……御免ね、狐鳥ちゃん(怖がってるのはあたしの方でしょ……気をしっかり持ちなさいッ!朝倉葵鳥ッ!)……さあ、いよいよよ……!」

 ライドウはホールレストラン外観の霊視を試みていた。鳴海が心の中で呟いた通り、ライドウの捜査は既に開始している。そして、彼の様子を察するに、何か”視”えたに違いない。
 が、タヱはライドウの険しい表情が怖がっているように見えたのか、怖いのかとつい口にしてしまう。しかし、あのライドウに限ってそんなことなどありえない、と鳴海から指摘されると、彼女は直ぐに謝罪する。
 そう、怖がっているのはタヱ自身の方。タヱは怖がりな己に喝を入れて奮い立たせ、展示会場入り口へと歩みを進めた。

……展示会へ入場するには、合言葉が必要だ」
 
 出入り口には、がたいのよい男が二人。恐らく警備役か。彼等は美術品目当てで足を運びにやってきた女性一人一人に合言葉を要求し、周囲に言葉が漏れないよう金属製の筒を介して答える形式だ。噂と同時に合言葉も知れ渡っているのか、言い間違える女性は誰一人おらず、浮き足立てながら展示会場へと踏み入れる。
 時刻は午後十一時四十分。


「あたし達、三姉妹で一組なの。あたしが代表として答えても大丈夫かしら?」
……いいだろう」

 警備役はタヱの後ろで控える長身の鳴海とライドウを一度見るも、特に気に留めることはなく、筒を耳に宛がう。其れは、合言葉を答えろという合図。タヱは意を決し、筒に口を当てた。

──金の林檎は不老不死の果実──

……通れ」

 淡々と告げ、タヱ達を会場へと通す。

……!!わあ、素敵な美術品ねッ!」
「へぇ~……結構しっかりしたものが置いてあるじゃねぇか……──あるわね」
……──……──?」

 美人記者三姉妹の眼前に広がるは、絵画、工芸品、彫刻や剥製等の展示品。
 風景画、抽象絵画、漆器、陶磁器、硝子細工、木製の動物彫刻、象牙彫刻──。

「凄いわねぇ……よく此処まで集まったというかなんというか……あら、此れは江戸切子じゃないの」
「(……此の硝子細工からは何も感じない……あの皿は……”掛けられて”いる……──)葵鳥御姉様、会場を見回ってみてもいいですか?」
「そうね。色々な美術品を一通り見て回りましょうか」

 美麗な展示品に女性達は目を奪われ、惹き込まれ、魅了されていく。自分好みやお気に召した展示品を発見すると、巡回中の美術商に交渉し、此の値で購入したいと価格を伝え、美術商にお金を手渡せば交渉成立、即購入完了となる。雪渓画を購入した女性は、満面の笑みで風呂敷に包まれた絵画を抱え、退場していく。
 そして、雪渓画の跡に桜絵画を美術商が飾り、新たな展示品となる。

(美術品にこんな言葉を使うのもどうかと思うが……まるで、”補充”だな……)

 売れたら飾り、其れが売れたらまた別の展示品を飾る。
 多種多様な美術品を、此の美術商達はどうやって調達したのか、と、鳴海は疑問を抱く。
 三人で展示会場を歩き回り、展示品を見物した限りでは、どの作品も無名の美術家ながら素晴らしい出来だ。女性好みのデザインが多いのは、気軽に美術品を手に取ってほしいという主催者の魂胆が有るだろう。
 帝都に潜伏中のダークサマナーと詐欺集団が絡んでいるとなれば、話は別だが──。

……海鳥御姉様……此れを」
……ん?……──そうか」

 ライドウから手帳を手渡され、目を通してみると、其処にはデビルサマナーとしての捜査結果──霊視の結果──が記されていた。

一、展示品から悪魔の残滓が視えました。
きっと偽物です。
物質を全く違う物に作り変える技、匠の技を持つ技芸属の悪魔が関わっていると思います。
そして、一部の展示品にはやはり”呪い”が掛けられています。
直接危害を加える類の呪いではないのですが、放置しておく訳にはいきません。
二、悪魔の声を聞き取りました。
とても弱々しい声で助けを求めているようです。
悪魔の中には中立の立場を貫く者が一定数存在します。
偽りの美術品を製造させる目的で捕らえ、無理矢理従わせているのかもしれません。

「先ずは会場の様子や雰囲気を書いてみました」
「(──完全にクロ…………)内容を上手く纏めたわね、狐鳥ちゃん」

 鳴海は手帳を”開いたまま”、大きな鞄に仕舞う。
 変装による潜入捜査の都合上、ライドウに不利な制約が幾つも掛かってくる。
 一つ目は、悪魔やダークサマナーの潜伏が濃厚な場所の場合、仲魔を召喚すれば其の気配を察知され、逃亡を図られる、或いは戦闘に発展し、一般人を巻き込む可能性が有ること。ヤタガラス側は帝都の守護の為なら多少の犠牲は付き物と答えるが、ライドウの良心が其れを許さない。
 二つ目は、封魔の管の所持可能本数が限られること。専用のホルスターが装着不可能となる以上、靴の隙間等に忍ばせるしかない。
 三つ目は、魔を祓う為の最重要武器たる退魔の刀を隠す術が無くなること。普段は外套の下に隠れる──えッ?鞘が見えているって?其処は気にしたら負けだ──退魔の刀も、変装に因って隠し処を失ってしまうのが痛い。
 だがライドウは厳しい制約の下でも、此の怪しい展示会会場を霊視だけで上手く立ち回った。鳴海とこそこそ耳打ちしながら会場を歩いていると、美術商達、いや、美術商と偽る詐欺集団に返って怪しまれる。其処で彼は美人記者三姉妹の設定を踏まえ、手帳を取り出し、”視た”ものを記したのである。先程の会話も、記者らしく振舞う為の建前だ。

……十一時五十五分か……二人とも、あと五分よ」
「はぁ~い」

 運命の刻まであと五分──。
 クロと確定した以上、大波乱の幕開けになるかもしれない。
 其の時は、帝都の守護者・十四代目葛葉ライドウとして、全力で挑むのみ。