真九龍
2026-03-06 19:54:09
42542文字
Public 小説
 

【鳴ライ】Sweet and Crisis 2

鳴海×ライドウで、”二人で女装”して潜入捜査するお話。まさかの続編です。
前作は此方→Sweet and Crisis
注1:両想いな鳴ライになっています。
注2:ライドウremaster版をプレイ及びクリア済み。ゲーム本編のネタバレを含みます。
注3:攻めの女装表現が含まれます(勿論ライドウも女装します)。
注4:当時の時代背景(明治期~大正期)における女性軽視表現が含まれます(※性的な表現は含みません)。
注5::流血、暴力、首絞表現を含みます。


─ 参 ─

「あ……展示会で取材交渉するから、鳴海さんとライドウ君の筆名を付けないといけないわね」
「筆名……?ああ、偽名のことか」
「鳴海さん……記者設定なんだから筆名と言って頂戴……

 展示会の開場まで時間はある為、三人で夕食を兼ねての軽い腹ごしらえをする最中、タヱは鳴海とライドウの筆名を提案する。取材するにあたり、記者は所属社名と名前、若しくは筆名を取材相手に名乗らなくてはならない。美人記者と謳う以上、鳴海とライドウにも筆名が必要だ。

「あたしの筆名”葵鳥”に倣って、鳥の付く名前がいいと思うわ。益々三姉妹っぽくなるじゃない」
「鳥が付く名前ねぇ……まあ、悪くは無いけど……

 一から考えるのが面倒くさい為、”なる子”と”ライ子”でいいじゃないか。いや、流石に直球過ぎるか。此処はもうタヱの閃き力に任せるしかない。鳴海は「良い感じの名前が思い付かないから、命名はタヱちゃんにお任せで~」と抜けた台詞を発しながら命名権を放棄し、新世界主人お手製本日のブレンドソーダ──口紅が落ちないよう新世界主人の計らいで貴重なストロー付き──を飲む。

「(さては鳴海さん……自分で考えるのが面倒くさくなって、あたしに丸投げしたわね……?でも、言い出しっぺはあたしだから、あたしが責任を持って考えないと……!)鳥──ちょう──……鳥──とり──……──!そうだわッ!…………よしッ!此れでどうかしら!」

 二人の筆名が閃いたタヱは、鞄からペンと紙を取り出し書き記した後、自信満々気に掲げた。
 
鳴海さん 海鳥と書いてみどり
ライドウ君 狐鳥と書いてことり

「俺は海鳥(みどり)、ライドウは狐鳥(ことり)か」
「小の字で小鳥でも良かったんだけど、ライドウ君を見ていたら小より狐の方が当て嵌まると思ったのよ。ほら、葛葉と狐は、昔から繋がりが深いでしょ?」
(……!成程……民俗学に造詣が深い、タヱさんらしい命名だ)

 葛葉と言えば葛葉稲荷、稲荷と言えば狐。タヱは其の関連性の深さから紐付け、狐の字を取ったようだ。ライドウは自分の筆名の由来に納得し、「有難う御座います」と礼を述べた。
 因みに鳴海の筆名たる海鳥だが、見ての通り、鳴海の海の字から其のまま拝借したものだろう。
 此の”鳴海”という名も実は偽名であるということを、彼女は知らない。真実を既知しているのは自身の身を保護したヤタガラスと、己の秘密を打ち明けたライドウとゴウトだけ。そして真の名は、未だ誰にも知られていない。
 愛しき想い人の前で、己の本名を名乗る刻は来るのだろうか──其れは、ライドウも同じで……──。

「あら。展示会の開場まであと三十分ね」
「おっと……腹ごしらえと筆名の命名をしてたらもうこんな時間か。なぁ、タヱちゃ」
「”海鳥”さん……あたしのことは葵鳥と呼ぶのよ」
「お、おう(以降筆名で絶対に呼べってやつだな……ま、練習も兼ねて呼んでいくか……)……ごほん……葵鳥御姉様、取材交渉は展示会の最中に取るの?其れとも終了後かしら?」

 現在午後十時半。 
 夜中の不思議な展示会の開場まで三十分。
 鳴海はタヱに主催者へ取材交渉する時間帯を尋ねると、にこにこ笑顔で遮れ、筆名で呼ぶよう圧を掛けられた。思わず引き攣る鳴海だが、此れもまた潜入捜査の為だと咳払いして切り替え、美人記者三姉妹の次女を演じる。

「(凄い……!もうなり切ってる……!)取材交渉は展示会が終わった後に取る予定よ。もし許可が取れたら、其のまま直ぐ取材に応じてくれるといいんだけど……日付を跨ぐ都合上、後日になる可能性も視野に入れているわ」
「(終了後か……良い流れだ……開催中に正体がダークサマナーと詐欺集団だと判明した場合、来場客を巻き込んじまうからな……)分かったわ御姉様。なら、もう少し時間が経ってから会場に行っても大丈夫そうじゃない?美術品の購入を決めないまま会場内をうろうろしてると、会場の警備みたいな人から逆に怪しまれるかもしれないし」
「鳴海さんの案に……じゃなかった……そうね、海鳥さんの案に賛成よ」

 鳴海の自然ななり切り姿勢にタヱは感心し、つい素の名前で呼んでしまう。直ぐに訂正し、鳴海の助言を快諾した。

(流石鳴海さん……本当に切り替えが早い……僕は、上手く演じる事が出来るだろうか……)
「(──ライドウのやつ……変装での潜入捜査は経験が浅い所為で、不安が大きいか……そりゃそうだよな、二回目とはいえ、今回も慣れない女装だし……フォローはまだまだ必要だな)──狐鳥ちゃんは”記者見習い”として、あたしと葵鳥御姉様をよぉ~く観察するのよ。大丈夫、貴方が話しかけられても、先ずあたし達が代わりに答えるから。ね?」
……!」

 鳴海が探偵になる前の肩書は、帝国陸軍の秘密将校。
 内情を探るべく、変装術や変声術を以って別の人間になり切り演じる──。
 自分はどうだろうか。変装による潜入捜査は二度目。前回の捜査で少しは心得ているつもりだが、恥ずかしがり屋な性格が障壁となり、三姉妹の三女役を上手く演じ切る自信を未だ持てずにいた。
 そんなライドウの未熟で不安定な心情を、所長であり恋人の鳴海はいち早く察知し、すかさずフォローに入り、彼にウインクを向ける。
 観察することも、探偵としての術を磨くもの。
 ライドウは信頼する上司であり愛しき想い人──でもイカサマだけはどうしても許せない──たる鳴海に間接的ながら励まされ、前を向く。先ずは鳴海の様に姿勢を切り替え、三女役になり切ってみよう。少し高めの声を出すよう意識して、

……宜しく、お願いします。──葵鳥御姉様、──海鳥御姉様」
「(葵鳥御姉様──やっぱり良い響きだわ……!お姉ちゃん最高ッ!!)うんうん。良い感じよ、狐鳥ちゃん」

 ライドウは少々はにかみながら、二人の”御姉様”の名を呼んだ。
 普段から呼んでほしいと何度も訴えている筆名に、”御姉様”が付け加えられたタヱは、大変満足気な様子で腕を組み、頷く。

「むふふ……葵鳥御姉様……ホントに良いわぁ……はぁ……幸せぇ……
…………タヱちゃん、本音が駄々洩れじゃねぇか……っと、こうしちゃいられねぇ……ライドウ。ちょっと耳を貸してくれ」
…………──」

 筆名足す御姉様呼びの効果は抜群なのか、歓喜の感情が周囲に漏出してしまっている。頬を紅く染め、うっとりとするタヱに鳴海はやや引きつつ、隣のライドウに耳打ちする。鳴海の囁き声を聞き、ライドウは目をすうっと細めた。
 タヱには秘密の丸秘作戦が、静かに始動する──。

「タ……あの、葵鳥御姉様」
「ふふふ……はッ!な、何かしら……?ライド、じゃなくて、狐鳥ちゃん」
「潜入捜査に向けての最終調整を海鳥御姉様とするので、少しだけ席を外させて下さい」
「分かったわ。いってらっしゃ~い」

 ライドウの申し出に対し、タヱは特に疑うこともなく快諾する。席を立ち、退室する二人の妹、と、二人の後ろを当たり前のようについて行くゴウトを笑顔で手を振り見送った。一人残されたタヱは”葵鳥御姉様”呼びの余韻に暫し浸っていたが、徐々に冷静さを取り戻し、一口カットのフルーツを頬張る。瑞々しくて甘酸っぱいフルーツの果汁が口内で弾け、昂ぶり火照った身体を冷やす。

「ん~、フレッシュなフルーツ最高ッ!……それにしてもライドウ君の衣装、随分と凝っていたわね……

 冷静に戻った思考で、今一度ライドウが纏った衣装を思い返す。
 和と洋が融合した言葉、和洋折衷。
 あのような衣装のデザインは、お洒落が揃った銀座町、ひいては、帝都中の呉服屋や洋服屋でも見かけたことが無い。となると、あの衣装は何処かの仕立て屋へと依頼し、オーダーメイドしたのだろう。ライドウが自分自身でデザインした、いや、其れは考え難い。タヱの偏見だが、ライドウならもっと質素なデザインにするだろう。

「鳴海さんしかいないわよねぇ……
  
ライドウを常日頃見守り、彼の体格を最も知る人物は──男は唯一人。
 そう、鳴海だ。
 鳴海があの和洋折衷なデザインを構想し、仕立て屋に依頼した。
 まるで──。

「自分がデザインした特別な衣装を贈るのは、好きな人に着てもらいから……其処に隠された”意図”は、確か……いえ、深追いは止めましょう……此れからの取材に集中するのよ、朝倉葵鳥ッ!」

 タヱは気を紛らわすべく、フルーツをどんどん頬張り、ソーダを飲み干す。
 彼女の推測が見事的中していることなど、鳴海は知る由も無いだろう。



 午後十一時五分。
 最終調整というものを終えた鳴海とライドウは、タヱが待つ控室に戻って来た。
 大きな鞄を右肩に担いで。

……随分と大きな鞄ね、海鳥さん」
「見た目も記者らしく、と言ったらいいかしら?葵鳥御姉様も普段から鞄を持っているでしょ?」
「成程……あら?狐鳥さん、何時もの黒猫さんは?」
「ゴウトは預けてきました。展示会に動物を連れて行くのは、流石に御法度かと思いまして……
「あぁ~……猫が美術品を壊しちゃうこともあるからね……

 タヱは二人の気になる点をそれぞれ一問し、それぞれの返答に納得する。

「よし……十五分になったら出発しましょう。展示会場は町から少し離れた空き店舗を借りてるみたいだけど、其処まで遠くは無いから徒歩で行ける筈よ」
「了解。もし御姉様と狐鳥ちゃんが変な輩に絡まれたら、あたしが思いっ切り投げ飛ばしてやるわよぉん」
「いや、其処まで大事にしなくても大丈夫よ海鳥さん……(説得力が有り過ぎてホントに投げ飛ばしちゃいそう……)無視することも一つの方法だから」
「では自ぶ……私が蹴り飛ばして、御姉様達をお護り」
「二人とも対処法が物騒過ぎるわよ(其れはもっと駄目ッ!!)ッ!!」

 あたしの妹達、脳筋過ぎでしょ──本当に強いのだから仕方がない──。
 ではなく、此の上司にして、此の部下有りとはことのことか。本音と建前がつい逆になってしまったタヱであった。
 が、女性が社会に台頭し、夜の町も気軽に出歩くようになった大正の世。”自分の身は自分で護るべし”という言葉が一層重要になった。
 一昔前の女性の護身用道具と言えば短刀だが、明治の世に発令した廃刀令に因って携帯が叶わなくなった。時代に合わせて護身手段は変化し、最近は護身術を習得する為、専門道場に通う女性が急増中だ。

(……心身を鍛える……怖がりを克服する為に、護身術を習うのも有りかしら……?)
……?どうしたの?葵鳥御姉様」
「何でもないわ、海鳥さん。さあ、夜中の不思議な展示会に出発よッ!」

 其れもまた、一つの道。