真九龍
2026-03-06 19:54:09
42542文字
Public 小説
 

【鳴ライ】Sweet and Crisis 2

鳴海×ライドウで、”二人で女装”して潜入捜査するお話。まさかの続編です。
前作は此方→Sweet and Crisis
注1:両想いな鳴ライになっています。
注2:ライドウremaster版をプレイ及びクリア済み。ゲーム本編のネタバレを含みます。
注3:攻めの女装表現が含まれます(勿論ライドウも女装します)。
注4:当時の時代背景(明治期~大正期)における女性軽視表現が含まれます(※性的な表現は含みません)。
注5::流血、暴力、首絞表現を含みます。

─壱─

 魅入られた時、何が何でも手に入れたいと思うのは人間の性か──。

 大正二十年、太陽が天空の頂点に昇る午後の水曜日。
 連続女性変死事件から一ヶ月。新たな事件が幕を開けようとしていた──。

「夜中の不思議な展示会だぁ~?」
「そうそう!夜中の不思議な展示会!其れも、何処で開催されるかは全く分からない……謎に満ちた展示会よ!」

 筑土町は銀楼閣の一角に構える鳴海探偵社を訪れていたタヱは目を輝かせ、興奮気味な様子で鳴海に語った。
 夜中の不思議な展示会。
 如何にもタヱ好みらしい用語が口から飛び出て来たな、と、鳴海は頬杖を付き、怪訝な表情を浮かべる。

……んで、其の展示会について、何か仕入れているの?」
「勿論よ!帝都新報敏腕記者・朝倉葵鳥……展示会に関する情報はバッチリ仕入れているわッ!」
(おっ……?タヱちゃんにしては中々珍しいパターンだな……じゃあ何で此処に来たんだ?)

 えっへんと自慢げに仁王立ちするタヱを前に、鳴海は思わず瞠目する。
 タヱが鳴海探偵社に来る理由は、大方二つに分けられる。一つは、怪異が絡んでいそうな事件の情報を得る為。もう一つは、

「鳴海さん、タヱさん。お待たせしました」
……!其の前に、ライドウ君が淹れた珈琲を堪能しましょ」

 ライドウが淹れた美味しい珈琲を飲むことだ。
 タヱはうきうき気分で応接椅子に着席すると、ライドウは彼女の前に珈琲カップが乗ったソーサーを置く。次に、此処の所長たる鳴海の許まで移動し、執務テーブルの上にソーサーを置いた。

「何時もありがとな、ライドウ」

 鳴海はライドウに向かってウィンクすると、彼の頬がほんのりと紅く染まる。ライドウは学生帽を摘まみ、目深に被った。照れた顔をタヱに覗かれないよう隠したようだが、ゴウトにはしっかりバレていたのは此処だけの話。

「はぁ~……ライドウ君の珈琲、ホントに美味しいわねぇ……身に滲みるわぁ……
「おばさん臭いぞ……
「だぁ~れがおばさんですってぇッ!?──……こほん!鳴海さん。何故”夜中の不思議な展示会”なのか……其れはね、金曜日の午後十一時から午前零時のたった一時間しか開催していなくて、しかも開催場所がころころ変わるから、そう呼ばれているみたいなのよ」

 ライドウの珈琲で一息ついたタヱが、件の展示会について語る。
 金曜日の夜中、帝都の何処かで展示会が開催されているという。展示品である美術品はどれも無名の作家が製作したものだが、其の造りは魅入ってしまう程秀逸かつ美麗らしい。
但し、そう簡単に入場は出来ず、少々特殊な条件を満たさなくてはならないのだとか。

「其の条件はね……展示品を必ず購入しないといけないのよ」
「えぇ……?ちょっと狡くないか……?下手したら贋作を掴まされ……あ、だから無名の作家が製作しした品々、て訳か」

 入場条件は、展示品の購入。しかも、絶対に必須と来た。其れは展示会と言うより即売会ではないか。鳴海は胡散臭い条件に顔を顰めるも、無名の作家という点に着目する。
 無名。
 其れ則ち、未だ世に知れ渡っていない、知名度が低いことを意味している。低さ故に、彼等の美術品の贋作が意図的に製作された可能性はほぼ無いと言えよう。

(出展した美術品が人の目に留る……其の美術品が高く評価されると、世に知れ渡る……無名の作家にとって、展示会は絶好の機会だが……──必ず購入、ねぇ……)

 だがしかし、きな臭過ぎる。
 腕を組み訝しむ鳴海を他所に、タヱは展示会について彼是語る。

「美術品の価格は、自由に決めてもいいんですって」
「はは~ん……必ず購入の条件を快く呑める理由がちゃんと有るって訳か」

 美術品は著名な作家であればあるほど値が張る。歴史に名を残す偉人の古美術品なら、一般人は所有することすら叶わない。しかし、其処は無名の作家の美術品。値打ちは決まっていないようなもの。顧客自身が値を自由に付ける条件を出し、美術品を購入し易くしているのだろう。

「展示会は美術品の購入も必須だけど……入場出来るのは女性だけで、合言葉が必要みたいなのよ」
…………女性限定に合言葉ねぇ……な~んか、色々と面倒くさい展示会だな……
「あら、面倒くさい条件だからこそ、逆に引き込まれるんじゃない?其れに、今の女性は様々な物を自分自身の目で見て、手を触れて買っているわ。美術品も誰かから与えられるものじゃなくて、自分で買うことに意味が有ると思うの」

 条件其の一に続き、条件其の二及び其の三を聞いた鳴海は、眉間に益々皺を寄せ、頬杖をつく。
 購入必須、女性のみ、合言葉。
 此処まで手順を踏まないと入場不可能な展示会は、今まで有っただろうか。いや、だからこそ夜中の不思議な展示会と言われている所以なのだろう。そして此の大正の世は、女性の社会進出が急増している。女性に対する差別は未だに根強く残っているが、挫けず前進するのは、自分らしく生きる為なのだ。欲しいものを自分の手で入手することは、何ら悪い事ではない。寧ろ誇りと言えよう。

「んで、タヱちゃん。合言葉はもう知っているのか?」
「葵鳥よ!鳴海さん!展示会で展示品を購入した女性が取材に応じてくれて教えてくれたのよ。合言葉は──」

──金の林檎は不老不死の果実──

 彼女の口から出た合言葉に、トレイを抱えているライドウの手がピクリと動く。

「金の林檎…………
「金の林檎に纏わる神話は色々とあるけど、由来は北欧神話だと思うの」

 北欧神話に登場する金の林檎は不老不死の源と言われ、其の樹木と果実は女神イズンが管理している。民俗学や世界各地の神話に造詣が深いタヱは、金の林檎の由縁を直ぐ導き出したようだ。

「主催者もどんな人物なのか気になるし、取材を兼ねて噂の展示会に行こうと思っているの。会場の目星も付いているんだけど……──」
……?タヱ、さん……?」

 タヱの視線が、ライドウに注がれる。彼女は何か言いたげな様子でライドウをじっと見詰めているが、首を横に振り、カップに残った珈琲を一気に飲み干す。

「いえ、駄目よ葵鳥……ライドウ君にそんなことさせちゃいけないわ……でも……う~ん……見てみたい気も……て、あたしの私情は置いといて……やっぱり、此処は思い切って頼んでみるのも……いやいやいや……──」

 タヱは応接テーブルに両肘を付き、組んだ両手で口元を隠すという何処かで見たことあるかもしれない姿勢を取りながらぶつぶつと呟いているようだが、声音は囁き並みに小さく、上手く聞き取れない。仲魔の読心術で彼女の思考を覗くことは可能だが、残念ながらデビルサマナーの装備一式は封魔の管も含め、部屋に置いてきてしまった。

(ははぁ~ん……成程、そういうことか……

 だがしかし、鳴海はライドウの力を借りずとも、タヱの魂胆を既に見抜いていた。特殊過ぎる入場条件故、非常に打診しづらいのだろう。

「なぁタヱちゃん、話すことは未だ有るのか?」
「えッ!?あ……そ、そうね……もう何も無いわ。取り敢えず、件の展示会が世の女性達の間で噂になっているっていうことを、鳴海さん達に伝えたくて……因みに、次の会場は銀座町から少し離れた空き店舗みたいよ。じゃ、あたしは此れで失礼するわね。ライドウ君、美味しい珈琲、御馳走様!」

 独り言という名の躊躇いを延々と呟いていたタヱだが、鳴海の言葉で我に返り、ライドウに珈琲の礼を述べつつ、探偵社を後にした。

……夜中の不思議な展示会──ライドウ、俺達は”アレ”から逃れられない運命のようだ。今のうちに腹を括っておけよ」
「──ッ!!…………はい……

 彼女が去った探偵社で、所長たる鳴海の目がキラリ、否、ギラギラギンギンに光る。
 彼の目は愛しき想い人ことライドウを捉え、”アレ”という実に意味深な台詞を発した瞬間、ライドウは其の一言で全てを察し、顔を真っ赤っかにしながら小さく答え、項垂れる。
 タヱから情報を聞いた時から薄々感じてはいたが、やはり、”アレ”はどうしても不可避のようだ。

「あの事件から一ヶ月しか経っていないというのに、”アレ”が再び必要になるとはな……

 ゴウトもやれやれといった様子で、夜中の不思議な展示会に関する情報の整理を始めた鳴海とライドウを静かに注視する。