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燈 ともしび
2026-03-01 21:16:18
22196文字
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ぎゆさね【偽装恋愛】
とある事情のために偽装結婚することになったぎゆさねのお話です。
キ学軸。
嘘から始めた恋が本物になるまで。
ハピエンです。
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衝動的に引き寄せて抱きしめてしまった。
相手の了承を得ずに抱きしめるなんて人として最低の行為だ。そんなの分かっている。
でも、触れたかった。抱きしめたかった。この胸の痛みを教えてくれたのは不死川だし、この胸の痛みを和らげてくれるのも不死川だけだから。
「好きだ」
口から出た言葉は無意識だったけれど、それは間違いなく俺の本心でしかない。これが恋しいということ。俺は不死川が恋しいんだ。ずっと側に居たいし、側に居て欲しい。この世の中で唯一のひと。
俺の唐突な行為と言葉に不死川は動けなくなっていて、驚き過ぎたのか目がまん丸でこぼれ落ちそうだった。
いつも釣り上がっているから気付かれにくいが、不死川はとても目が大きい。まつ毛も長いし、笑うとふにゃっとするから赤ちゃんのようになる。だから驚き過ぎると本当にこぼれ落ちそうに見えるのだ。
抵抗されないのを良いことに両腕の力を強くした。抱きしめているつもりでいたが、不死川に縋りついている、というのが正解かもしれない。初めての自分の感情が大き過ぎてどうしたら良いのか分からない。
でも不死川を抱きしめているととても幸せだった。離したくなかった。
しばらく家の中は沈黙が続いて。流石にこの腕を離さなければと思い始めたころ。
「冨岡」
「
……
はい」
不意打ちで腹に強烈なボディーブローを受ける。
まがりなりにも体育教師なのに、この一発は避けられなった。それくらい二人共に余裕がなかったのだろう。
吐くのはなんとか踏みとどまって、でも咳き込むのは止められずに無様にしゃがみ込むと
「目ェ覚めたか?」
頭上から地獄の鬼のような低い声が聞こえてくる。
「ぐ、げほ、目、が覚める、とは?」
咳き込みを耐えつつなんとか返せば
「今の発言だよ!」
と怒鳴り返された。
今の発言
……
俺が不死川を好きだと言ったことだろうか。もしかして気持ち悪く思われてしまったが故のこの拒絶なのか。それならこの一撃も仕方がない。全部、俺の身勝手な行動と発言のせいだから。不死川の気持ちを思いやれていなかった。
謝らなければ。
偽物だけれど不死川の伴侶でいられる今の幸せを壊すのは嫌だ。嫌われていても良いんだ。ただ側に居たいだけなんだ。
顔を上げる。謝罪をしなければ。
でも今度は俺が動けなくなる番だった。きっと不死川は腕組みをして俺を睨みつけているのだと思っていたのに。そんな予想はすぐに打ち砕かれた。
「不死川」
泣いていた。そこに立っている不死川は怒りの表情ではなかった。ただはらはらと、幼子のように泣いていた。
なんで。分からなくて動けない。名前を呼ぶことしか出来ない。
「不死川」
もう一度名前を呼ぶ。今度は意思を込めて。
このまま泣かせたくない。この涙は悲しい涙だと分かって余計に泣かせたくなかった。
両腕を伸ばす。腹が少し痛んだけれど構うものか。好きな人が泣いているのに何もしない、出来ないのは嫌だった。
膝立ちをして両腕を広げると上から降るように不死川が飛び込んでくる。ぎゅっと抱きしめる。今度は不死川も俺の背中に腕を回してくれた。
天使かな。天使だ。そう思った。
「お前はバカだろ」
珍しく涙声の不死川が、むずがるように俺の首筋辺りで頭を振るから少しくすぐったい。
「まぁ、否定はしない」
色々やらかしてばかりだから。
「ちげえっての。そういう事じゃなくて」
「うん」
バカって罵倒語だというのに不死川は可愛いなとか思ってしまっているから俺は本当にバカなんだろう。
「前にも言ったけどなァ、この結婚は俺にしかメリットがない。冨岡には何にもメリットがない。デメリットしかない。でも俺は冨岡に頼んだんだ。結婚してくれって。最低で酷いやつだろう。それなのになんで」
「うん」
分かってる。分かっていたよ。でも、俺はそれでもこの選択は間違ってなかったと感謝したいんだ、不死川。
先を促すように不死川の背中をとん、とん、と軽く叩く。よく俺にしてくれる仕草なのだが、これはやっている方も落ち着く感じがする。
「なのに
……
なんで俺なんかのことを好き、だなんて言うんだよ。冨岡、お前は本当にバカだ」
「うん」
だって仕方ないんだ。好きになってしまった。
こんなに愛おしい存在が近くにいて好きにならないほうがおかしいんだ。
「不死川が好きだ」
だから、もう一度想いを込めて伝える。空っぽで何にもなかったのに、俺の中に恋心を芽吹かせてくれたのは不死川だから。
ぎゅうっと、俺の背中に回された不死川の腕の力が強まった。
「俺だって、冨岡が好きだよ。でも俺にそんな権利なんて無いと思ってた」
だから一生言うつもりなんてなかったのに。
バカ。バカ冨岡。
言葉と行動が一致していない。不死川のほうが赤ちゃんみたいだ。
恋は愛おしくて、でも怖くて痛い。
それも全部不死川が教えてくれたんだ。
抱きしめていた腕を解いて、首元にある不死川の頬に触れる。温かい。柔らかい。泣いていたから目が赤い。それすらも可愛くてどうしようか。
首を軽く傾けて寄せると不死川が目を閉じる。そのまま距離が無くなって、唇に柔らかな感触が触れた。
離す。目が合う。今度は不死川のほうから顔を寄せてきたので俺も目を閉じて受け止めた。
「好きだ」
合間に聞こえたのはどっちの発した言葉だったか。でも、どっちでも良かった。二人ともそう思っていたからどちらでも構わなかった。
「おはよう」
「
……
はよ」
不死川が朝寝坊していたので、先に目覚めていた俺の方が不死川を起こしに行った。いつもきっちりとした姿の不死川しか見たことがなかったから寝癖がある無防備なこの姿はとても愛おしい。可愛い。
「
……
やめろよ」
「え?」
「だからァ! お前は心の声が全部口に出てんだよ!」
「まあ、本心だからな」
ほら、今だって顔を赤く染めてこちらを涙目で睨んでいるのだ。これが可愛いじゃないとしたら何を可愛いと言うのだ。
「可愛い」
ちゅ、と頬にキスすれば、くそったれが! と叫んだ後に両頬を掴まれて唇にキスされた。朝から幸せだ。嬉しい。こんな可愛いことをされたら仕事なんて行けない。今日が休みで本当に良かった。
「支度、するんだから離せ」
「うん」
離したくないけれど渋々腕を離す。今日は仕事は休みだけれど予定がある。待っていた物がやっと完成したので取りに行くのだ。
離れる前にそっと不死川の左手薬指を握る。不死川も笑って俺の左手薬指を握り返してくれた。
今日、ここに誓いの証を。それがとても待ち遠しい。
「冨岡」
「うん」
「ありがとなァ」
それは俺の台詞だ。空っぽでなにもなかった俺に恋しいという気持ちを教えてくれた。家族をくれた。ずっと、側にいてくれると誓いをくれた。
「実弥、愛してる」
泣いてしまいそうで早口で伝えた。
不死川はまた顔を真っ赤にした。
可愛い。
幸せだ、とても。
嘘から始めた恋が、本物の恋になった。
そして、永遠の愛になった。
それはこれからも続いていく。終わらずに。ずっと。
いつまでも。
-おしまい-
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