葵@はなれ
2026-02-23 14:34:12
15158文字
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「僕目見」で福島光忠を食い散らかしてきた実休が盲目の福島に出会う話(未完成ダイジェスト版)

いつまでも書き終わらないので、尻叩きの為に途中まで上げてます。
1〜2ページ目は過去の再掲、3ページ目からが未発表部分になります。

※未完成、(中略)部分あり。
※オリジナル審神者が喋ります。


(中略)
※演練場で福島を見つけた実休。
※夏白菊城=福島の本丸の名前。


戦闘開始の合図が響くや、乱が先陣を切った。
短刀の初撃で戦いの流れは大半が決まる。紺色のスカートを軽やかに翻す姿は小鳥か蝶を思わせ、けれど、その切っ先は迷いなく相手の脇差を討ち取った。すかさず飛び出した兄弟刀と切り結び、互いに見交わした不敵な笑みは、もののふの其れ。
隊長に続き、仲間が次々と自陣を飛び出していった後も、福島は腰の刀に手を掛け、軽く腰を落としたまま、動かない。
実休の知る『福島光忠』であれば、太刀の中では高い機動を生かした先制を得意とするが、盲目の彼に、それは難しいだろう。赤い瞳は中空に据えられ、周囲の音や気配を注意深く探っている事が分かる。
彼が刀を抜くのを見るのは、これが初めてだ。知らず実休は、手に汗握る心持ちで見入っていた。

「福島さん!」

不意に雲生の緊迫した声が飛んだ。
孫六を下した打刀が混戦から突出し、福島へと真っ直ぐに向かっていく。咄嗟に燭台切が振り向きかけ、それを隙と見た相手方の太刀が斬りかかり、鍔迫り合いとなる。視界の端にそれらを捉えながら、実休は福島の動きから目を離さなかった。
斬り込んだ打刀は練度こそ低いが、極個体だ。自陣に留まる福島の姿に、当然、何らかの作為を警戒はしているだろう。無闇に真正面から挑むのは悪手、むしろ捨て置いてもいい場面だ。
だが、これは演練。純粋な殺し合いよりも、采配の妙、戦略の上手が評価され、数値化されて勝敗が決する。
見た限り、両軍は刀種こそばらばらだが、練度は概ね拮抗している。互いの損傷も同程度。このまま終われば、刀装含めて無傷の福島を残している夏白菊城の判定勝ちが濃厚だ。
試合に負けて勝負に勝つ、というのも考え方のひとつ。だが、おめおめと敗北の文字を負って主の元へ帰りたがる刀剣男士はない。
そして福島の仲間達が、そんな姑息な意図で彼を自陣に留めているとも思わない。
相手が間合いに触れた刹那、福島が動いた。限界まで引き絞られ、たわんだ弓から矢が放たれるような、迷いない一閃。からくも受け止めた打刀が体勢を立て直すより早く、踏み込み、追い、攻め立てる。
閃く刃の軌跡は形勢の立て直しを許さない。一瞬でも気を緩めれば勝負の決まる猛攻。間合いの外へ脱する隙も与えない。
だが、打刀も易々と討たれはしなかった。防戦一方の形勢を打破するべく、あえて体勢を崩し、破れかぶれの反撃に転じた。斜め下からのすくい上げるような斬撃を、福島は仰け反って躱した。わずかに届いた切っ先が頬を裂き、一文字に鮮血が流れる。その赤よりも鮮烈な双眸がきらめき、唇が不敵に、獰猛に笑みを引く。
苛烈で、傲然たる、戦場の薔薇。

――きれいだ)

試合終了の合図が響く。殺気も闘志も、たちどころに霧散し、仲間同士相手同士が笑顔で健闘を称え合う。
共に居る仲間達の事も忘れて、実休はただ福島の姿だけを見ていた。



「こんにちは」

いつものように声を掛ければ、「あれっ?」と目を瞠った福島が破顔した。
一緒に居た仲間へ断り、此方へ歩いてくる。

「よう。奇遇だな。もしかして、何処かの試合に出てたか?」
「今日は近侍で来ているから。僕の出番はないんだ」
「残念。一度、立ち会ってみたかったな」

にやりと笑う顔は、まだ戦場に立っていた時の気配を残していた。
模擬とはいえ刀を交えた後だ。多少、好戦的な気分が冷めない事は実休にも経験がある。その時と同じような高揚を感じながら、言葉を続けた。

「君が戦っている所を見たよ。とても、きれいな太刀筋だった。あれが、君の戦い方、なんだね」
「そう見えたなら、そこまで仕込んでくれた仲間のおかげだよ」
「此方の福島とは何度も手合わせしているから、戦い方の癖は飲み込んでいるつもりだったけど。君と立ち会ったら、勝手が違って難儀しそうだ」
あぁ、そっちには『俺』が居るんだったな。やっぱり、違うものか」

福島の声に、わずかに屈託の響きが混ざった事に、実休は気付かなかった。

「此方の福島と燭台切も、太刀筋に似通う所があるのだけど君と、そっちの燭台切も似ているね」
「そう、か? 自分じゃ、よく分からないが
「うん。燭台切同士は、大きく違っているようには見えなかったから、不思議だと思ったよ。同じ本丸に在ると、自然と似るものなのかな」
「そう、かそう見えたなら、嬉しいよ」
「同じ部隊の仲間との連携も、見事だったよ。普段の出陣でも、よく組むのかい?」

練度はともかく、太刀と短刀の得意分野は真逆だ。短刀の本領は闇に紛れての奇襲、或いは小回りを生かした室内戦。夜の市街戦など短刀の独擅場だ。平地での騎馬戦を得意とする太刀とは、自然、主戦場は分かれる。
普段は何処の戦場を主にしているのかと尋ねた実休に、福島は一瞬、表情を強張らせた。

実戦に出た事はないよ。俺が刀を振るう事が許されてるのは、演練と、政府主催の模擬戦だけだ」
「え?」

あれだけの戦いぶりを見た後だ。疑問が声に現れたのは当然だったが、福島はひどく皮肉げな色を浮かべた。

「見てたなら分かるだろ。乱くんも、光忠も、俺を気に掛けてたら本領を発揮できないんだよ。雲生くんもだ。常に状況判断に気を張ってる彼だからこそ、俺の存在を計画の外に置けない。戦場じゃ、一瞬の判断の遅れが命取りになる。そんな所に、気を散らせる要因を置くべきじゃない」
「そ、れは」

咄嗟の反駁を、その先を続けられないまま、実休は飲み込んだ。そんな事はない、とは言えなかったのだ。
確かに、気付いていた。夏白菊城の刀剣達が、福島を気に掛け、庇えるよう動いていた事を。一瞬とはいえ燭台切が挙動を乱した一幕も、それだ。
結果的に勝ちを収めたとはいえ、実戦であったなら致命的な隙。仮に自分の本丸の燭台切が同じ事をしていれば、実休は強く叱責した筈だ。

(だけど

不得手を補い、庇い合うのは、何も福島相手に限った事ではないだろう。
燭台切の死角から迫った短刀を、素早く割って入った雲生が阻んだように。その雲生が部隊から孤立して進退を焦った時、乱が的確な指示で立て直したように。膂力の足りない乱が討ち漏らした相手を、気配を消して迫った孫六がすかさず仕留めたように。
広い視野と、仲間の長短を心得た立ち回りが、刀種の違いを越えての連携を可能にしている。仮に福島の存在がそうさせたのだとしても、間違いなく、彼等の強さだ。
そう論を立てる一方――恐らくは不変の瑕疵を負った福島に向かって、それを言う事は、出来なかった。

「あの陣形は俺の進言。後方に下がって迎撃に徹していれば、仲間に無用な手間を掛けさせずに済む。本丸にとって重要なのは、彼等が強くなる事。だから――これで、いいんだよ」

言葉に窮した実休を宥めるように福島は笑みを浮かべ、言いきった。
それは、ひどく平坦な、乾いた声音だった。