葵@はなれ
2026-02-23 14:34:12
15158文字
Public
 

「僕目見」で福島光忠を食い散らかしてきた実休が盲目の福島に出会う話(未完成ダイジェスト版)

いつまでも書き終わらないので、尻叩きの為に途中まで上げてます。
1〜2ページ目は過去の再掲、3ページ目からが未発表部分になります。

※未完成、(中略)部分あり。
※オリジナル審神者が喋ります。


行き交う人と刀の向こうに、あの日と同じように腰掛ける姿を見とめて、実休の胸が跳ねた。
此処に来た事を、偶然、と言い張るのは、欺瞞だ。毎回、あの石のベンチへ真っ先に目を向けておいて、そんな言い訳は通るまい。
先日よりも数を増し、ふくよかな芳香を振りまく梔子の灌木の前で、件の福島は日向ぼっこを楽しむように目を閉じている。一見して、他の『福島光忠』と変わった様子はない。傍らに立てかけられた白い杖に気付かなければ、きっと、見分ける事は出来なかった。
もう一度、彼と会ってどうしようという考えがあった訳ではなかった。あれだけはっきりと拒絶されて尚、遊びの誘いを掛けるつもりはない。遊ぶのは合意の相手だけ、というくらいの弁えはある。
ならば何の為に、彼と会った場所に何度も足を運んだのか。こうして見つけた今も分からない。
決めあぐねたまま、そっとベンチに近付いた。彼は盲目、此方から話しかけなければ気取られる事はない。そう思ったのに、一馬身ほどの距離まで近付いた所で、福島が、ぱちりと眼を開けた。
物を映さないという瞳がふらりと彷徨い、立ち竦んだ実休の上で留まる。その視線がほんの少し、実休の顔から外れているのも、前と同じ。

あぁ。この間の、探し物の実休か」
「えど、どうして」
「足音」
「えっ」
「冗談だよ。何? 探し物の役には立てないって、前にも言ったよな」

思いの外、険のない声で、しかし先んじて釘を刺された。
訊ねられて黙っているのも失礼だろう。何か言わなければ、と焦る気持ちのまま、口を開いた。

……こ、こんにちは」
……はぁ。こんにちは」

明らかにタイミングを誤った挨拶は間抜けに響き、その場で頭を抱えたくなった実休だった。
怪訝そうに、それでも律儀に挨拶を返した福島が、ふと口元をゆるめた。

「そっちの本丸、今日の昼餉はミートソースだった?」
「!? どうして、」
「トマトソースの匂いがする。服にでもこぼしてるんじゃないのか」

視覚を失うと他の感覚が鋭敏になるとは聞くが、耳に加えて鼻も利くらしい。足音で判別したというのも、あながち冗談ではないかもしれない。
もっとも、言い訳するなら、食べこぼした訳ではない。

「今日は昼餉当番だったから匂いが移ったんじゃないかな」
「昼餉当番? お前が?」
「そりゃあ、僕だって、厨当番くらいするよ」

大量の玉ねぎを刻んで飴色に炒めるのは大変だったんだから、と。
むきになって言えば、あからさまに意外そうな表情を浮かべていた福島が、ふっ、と吹き出した。

「悪い悪い。『俺』に見境なしに手を出しまくるどクズ野郎かと思ってたら、案外普通の『実休光忠』なんだな」
「どクズ

ひどい言われようだが、心証が悪いのは仕方ない。自分の素行が褒められたものではない事も、事実。
それでも、彼の警戒心がほどけたのを感じて、改めて話しかけた。

「君はいつも、ひとりで?」
「顕現した時から、こうだからな。二年は経つし、もう慣れたよ」
「前にも、此処に居たね」
「此処、香りのある花がたくさん咲いてるからな。其処の百合は、この間はつぼみだったが、今日来たら咲いてた。次はチューベローズが楽しみだよ」
「君の好きな場所、なんだね。じゃあ、この間は邪魔をしてしまって、ごめんね」

知らなかったとはいえ、せっかく楽しんでいた所に、無粋な声掛けをしたものだ。
眉を下げた実休を、福島は少し面白そうな顔付きで見上げた。

「遊び相手を探してるんだったよな。俺に構ってるって事は、まだ今日の相手は見つかってない?」
「あ、うん
「ふぅん……手」
「手?」

言われるがままに、差し出された掌に、自分の手を重ねる。まるで犬の「お手」のようだと気付いて引っ込める前に、ぐっと掴まれた。

「ちょっと付き合えよ」
「え、えっ? あっ、杖は」

立ち上がった福島が杖を無造作に掴んだまま歩き出したので、半ば引っ張られながら、慌てて指摘する。

「あぁ、別になくてもいいんだ。この辺りは慣れた道だし、周りの音や声を聞いてれば距離感も掴める。これを持ち歩いてるのはお互いの為の、ちょっとした円滑ツール、ってやつかな」

福島の言う事はよく分からなかったが、ぐいぐいと引っ張られて、それ以上は訊けなかった。



 * * *



実休が本丸へ帰ると、玄関先に福島が居た。花鋏を手に、アレンジメントから散りかけの花を取り除いていた所だったらしい。
帰ってきたのが実休だと知って、あからさまに意外そうな顔になる。

「何だ、早かったんだな。また、どっかの『俺』と遊んできたんじゃないのか」
「遊……遊んできた、のかな………遊ん、で……?」

歯切れの悪い物言いに、今度は怪訝な顔をされたが、実休にもどう説明していいのか分からないのだ。
あの後、盲目の福島に連れていかれたのは庭園が見事なカフェで、店員の心得た振舞いからして、彼は常連らしい。
促されるがまま席に着き、これも言われるがまま焼き菓子の盛り合わせを頼み、気付けば香り高い紅茶と共に突然のティータイムを過ごす運びになっていた。
皿に乗った菓子の種類と数を実休に説明させた以外、福島の挙動は洗練されて、盲である事を感じさせるものはなかった。フォークを扱うのもカップを手に取るのも、まごつく素振りすらなく、周りの客も彼の目が見えていないとは気付かなかっただろう。
そのまま他愛もない話――主にお菓子の感想や、咲いている花について――をして、これまた気付けばふたり分のお茶代を奢らされて、颯爽と立ち去る彼の背中を見送っていた。結局、何故お茶に誘われたのかも分からず仕舞いだ。
狐につままれた気分で、しかし、其処から改めて遊び相手を探す気にもなれず、しおしおと帰ってきたのだった。

「まぁ、何でもいいけどさ。初めて見たよ、お前のそんな顔」

ぱちん、と最後の茎を切り落とし、花がらをまとめた福島が、笑って背を向ける。
鼻歌混じりに遠ざかる、その背中に、そっくり同じ姿が重なった気がして――瞬きした時には、白昼夢のような幻影は消えていた。