葵@はなれ
2026-02-23 14:34:12
15158文字
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「僕目見」で福島光忠を食い散らかしてきた実休が盲目の福島に出会う話(未完成ダイジェスト版)

いつまでも書き終わらないので、尻叩きの為に途中まで上げてます。
1〜2ページ目は過去の再掲、3ページ目からが未発表部分になります。

※未完成、(中略)部分あり。
※オリジナル審神者が喋ります。


(中略)
※初対面から一ヶ月後くらい。例の広場にて。



実休と会うのは、これが五度目だった。
そろそろと近付いてきては、福島が声を掛けると、律儀に許可を求めて隣に座り、他愛もない会話を交わす。いつしか、そんな事がお決まりになっていた。
光忠に知られたら「無警戒すぎる」と叱られそうだが、拳ふたつ分ほどの距離を空けて腰掛ける実休から、初めて会った日の、まとわりつくような色と欲は感じられない。
此方を懐柔する為の手管か、と疑う気持ちも拭いきれないが、今の所、口説いてくる素振りはなく、であれば警戒する理由もない。無体な振る舞いに出るようなら、叩きのめすまでだ。顕現したのは同じ頃で、此方の方が練度が少し上である事は、以前の会話で知っている。
だから話の流れで、ふと頼んでみる気にもなったのだ。

「なぁ。お前に触らせてもらってもいいか?」
「触るって?」
「目で見る代わりに、指で触れて、顔の形を知るんだ。うちには『実休光忠』が居ないから。俺はまだ『見た』事がないんだ」
「あぁ、そういう事なら構わないよ」

了承するなり、はい、と頭ごと差し出してきた気配。此方から言い出した事とはいえ、もう少し躊躇されるかと思ったが。
遠慮なく、と手袋を外して手を伸ばすと、もふ、と指が毛に沈んだ。同じ『光忠』でも、自分や燭台切とは違う、ふわふわと繊細な手触り。長さは不揃いで、指の間からはらはらと零れる。
耳にはピアスが、右に三つ。左にひとつ。耳朶に触れるとくすぐったかったのか、ぴくりと肩が震えた。存外、可愛い反応に、つい笑みがこぼれる。
左の頬に、肌の質感が他と違う部分があった。すっと通った鼻筋まで伸びる其れを不思議に思いながら辿っていると、「火傷の痕なんだ」と控えめな声が教えた。

「っ悪い。痛くなかったか?」
「大丈夫。痛みはないんだ」

左頬以外にはないという言葉を信じて、右側から改めて顔面に触れる。
目を閉じた瞼から、長い睫毛に触れる。眦の切れ上がった形は燭台切に似ているかもしれない。鼻筋の通った鼻梁。指の背で辿った唇の形。指先が読み取った情報を、頭の中に思い描く。

こんな顔してたんだな、お前。ははっ。話に聞いてたより、ずっと男前だ」
「それはありがとう

照れているのだろうか。珍しくぶっきらぼうな言い方から、そんな風に思って、可笑しくなった。

「『実休光忠』が居ない、という事はそちらは、まだ新しい本丸なのかい?」
「今年で三年目、かな。主が、太刀以上の刀種を上手く顕現させられない人でね。霊力との相性とか、何とか……俺は政府の交換所に居た『福島光忠』だよ」

福島が顕現した当時、本丸に居たのは、短刀が五振りと脇差が二振り、打刀が六振り。薙刀と槍、大太刀は居らず、太刀に至っては燭台切だけ。その偏りは、今もあまり変わっていない。
先の戦局の難化を見越した主が、年に一度の褒賞の機会に、新たな太刀を所望した。福島に白羽の矢が立ったのは、燭台切の兄弟という縁での事だったと、後から聞いた。

「せっかく戦力を期待されたのに、蓋を開けてみれば、俺はこんなで。申し訳ないやら情けないやら。捨てられたって文句は言えなかったのに、主は俺を手放さなかった。見えなくても不自由ないように、刀として戦えるように、育ててくれた。彼女の為に、出来るだけの働きはするつもりだよ」
「そうか。いい主なんだね」
「あぁ。優しい人だよ。刀達も、みんな俺を気遣って優しくしてくれる」

『私が選んだ貴方が、私の刀です』――まともな『俺』と交換しないのかと尋ねて、そう返された時の、不意に匂い立った桜の香と、泣きたくなるような気持ちを憶えている。
この人の元でよかったと、心から思った。

「お前のとこの主は? どんな人なんだ?」
「僕の主?」

じわりと目頭が熱を帯びたのを誤魔化すように、尋ねた。そういえば実休の本丸について、彼が話すのを聞いた事がない。
しばし考え込むような沈黙の後、ふっとやわらかく息をつくのが聞こえた。

「とても、いい人だよ。もう八年、本丸を率いている」
「おお、ベテランだな。本丸もにぎやかだろうな」
「そうだね。顕現が確認されている男士は、みんな迎えて、よく采配している。刀からも慕われている、と思うよ。少し、思い詰めやすい所はあるけれど真面目な人、だ」
「そっか。お互い、主に恵まれてよかったな」
「うん。そう思う」

頷く実休の声には、主への深い情愛が滲んでいた。彼も優しい本丸に迎えられている。その事が、兄弟として嬉しくなる。同時に、弟刀に見境なく誘いを掛けるような遊び刃の主が、そんな人格者だというのは意外にも思えた。主の人柄と刀は別、という事だろうか。
自然、会話は互いの本丸の話になり、福島の本丸に主が手ずから植えてくれた薔薇の話を、実休は穏やかに相槌を打ち、楽しげに聞いてくれた。
彼の菫の瞳が物憂げに陰っていた事を、福島は知らない。