葵@はなれ
2026-02-23 14:34:12
15158文字
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「僕目見」で福島光忠を食い散らかしてきた実休が盲目の福島に出会う話(未完成ダイジェスト版)

いつまでも書き終わらないので、尻叩きの為に途中まで上げてます。
1〜2ページ目は過去の再掲、3ページ目からが未発表部分になります。

※未完成、(中略)部分あり。
※オリジナル審神者が喋ります。


玄関で靴を脱いでいる福島の耳に、奥から急ぎ足に近付いてくる足音が聞こえた。
向こうが声を掛けてくる前に、振り向いて、笑いかける。

「よう、光忠。ただいま」
「おかえり。出掛けてたんだってね」

朗らかな出迎えの言葉と、ほんのわずかな言いよどみ。「大丈夫だった?」と続けるのを呑み込んだ、一瞬の間。
そのぎこちなさには気付かないふりで、福島は明るく答える。可愛い、優しい弟の心配を晴らせるように。

「西通りの広場に梔子が咲いてたよ。ピオニーも。チューベローズは、少し遅れてるみたいだ」
「あぁ、あの花壇。これから花の種類も増える季節だから、楽しみだね」
「そう。ぼーっと日向ぼっこしてたら、ずいぶん時間が経ってて、びっくりしたよ」
「あまり遅くなるようなら、迎えに行くよ。慌てて転んだら大変だ」
「おいおい。転んだって泣きやしないぞ?」

大袈裟に眉を下げて応えれば、あはは、と屈託のない笑い声が返ってくる。耳に心地よい響きに、福島の頬も緩む。

「今夜はカレーか? 門の所まで匂いが届いてた」
「あぁ。今日はスパイスの配合を少し変えてみたんだ。ぜひ、感想を聞かせてほしいな」

料理の話になった途端に声を弾ませる弟に、楽しみだ、と笑って立ち上がる。杖は三和土の隅に立てかけておいた。
顕現して二年になる今、本丸の中を歩くのには不自由しない。廊下から転げ落ち、襖や障子を突き破り、他刃にぶつかり躓き、手の当たるものを片っ端からなぎ倒していた頃を思えば、成長したものだ。
福島の手を取って本丸内を連れ歩き、間取りや距離感を覚えるまで根気よく付き合ってくれた主や仲間には、感謝してもし足りない。ひと一倍、気遣って寄り添ってくれた弟は、未だに当時の感覚が抜けきらないようだけれど。それもまた、愛、だ。
母屋から刀剣男士の居住棟へ向かう間にも、すれ違う仲間が口々に福島へ声を掛けていく。顔を見た事こそないけれど、声の聞こえる位置で背丈が、歩き方や話す調子で人柄が分かる。彼等がどんな姿をしているのか思い描くのも、楽しい。

「福島光忠」

自室の前の廊下で呼び止められた。張りのあるテノールは聞き取りやすく、距離があってもよく通る。生真面目な人柄を表す落ち着いた足音と、清々しい晴天の空を思わせる爽やかな香り。

「総務番長から言伝が……あ、私は」
「雲生くん、だね。大丈夫、もう覚えたよ」
「こ、れは申し訳ありません。失礼を

軽い狼狽の後、穏やかな声に恐縮が混じった。余計な事を言った、と福島は内心で臍を噛む。
新参の雲生が福島と話した事は、初対面を含めても、まだ数回。目の見えない福島が自分の声を聞き分けられたものかと迷い、気を回してくれたのだろうに。

「いや、俺はこうだからね。気に掛けてもらえるのは嬉しいよ」

ありがとう、と笑いかければ、相対する空気がほっと和らいだ。案外、この太刀は気にしいだ。ふわふわの巻毛を撫でてあげたい気持ちになるような。
新しく来た仲間には福島の事情を話した上で、本刃の許可を得て、顔や身体に触れさせてもらう。指で姿をなぞり、顔かたちを知る手助けとするのだという説明に、快く応じてくれた鵜飼派の太刀は、コットンフラワーに似たやわらかな巻毛と、ぱんと張った立派な胸周りを持つ偉丈夫だった。その内面に抱く細やかな優しさを、とても好ましく思う。
総務番長からの内番交代の連絡を受け取り、雲生を見送って部屋に入る。戸を閉めると同時に、ふぅと、ため息がこぼれた。

此処は優しい本丸だ。主も、刀剣も。
欠陥品として顕現した福島を当たり前のように仲間として受け入れ、気遣い、遇してくれる。
憐れまれ、お飾り扱いされている訳ではない。福島は遠征にも行けば、内番だってみんなと同じにこなす。見えない目で戦う術を掴むまで手合わせに付き合ってくれた仲間のおかげで、演練に出ても他の男士に引けを取る事はない。
実際の戦場には出た事がないが、その分、政府の催しには優先的に名前を入れてもらえるから、練度は自力で上限まで到達した。
これ以上など望むべくもない。贅沢を言ったら罰が当たる。主も仲間も大好きで、心から満足しているのだけど。

何故だろう――時々、ほんの少しだけ、息がしづらい。