葵@はなれ
2026-02-23 14:34:12
15158文字
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「僕目見」で福島光忠を食い散らかしてきた実休が盲目の福島に出会う話(未完成ダイジェスト版)

いつまでも書き終わらないので、尻叩きの為に途中まで上げてます。
1〜2ページ目は過去の再掲、3ページ目からが未発表部分になります。

※未完成、(中略)部分あり。
※オリジナル審神者が喋ります。

――梔子の芳香に誘われた、と感じた。

濃い緑色の葉の間に、無造作にまき散らしたように咲く一重咲きの白い花は、それを背景に石造りのベンチに腰を下ろした刀の、深い色味の髪や装束によく映えた。
濃い睫毛を伏せて花に顔を寄せる様を、一幅の絵の如、と人の子は表現するのかもしれない。もっとも、どんな名匠が、どれほどの絵の具を費やせば、この一瞬を描き留める事が叶うのかは疑問だ、と実休は思った。
心惹かれたのは余刃も同じと見え、正面から歩いてきた何処かの大般若長光が、実休と同じように足を止めた。ほころんだ微笑は、美術品を愛する彼らしい、純粋な賛嘆の気持ちからだっただろう。
だが、先に見つけたのは自分だ。
内心で呟くと、罪のない後代の視線を遮るように、実休は大足に梔子の元へ歩み寄った。

「こんにちは、何処かの福島。ひとりかい?」

近付いても此方を見向きもしない、つれない横顔へ呼びかける。
名指しされては黙殺もしかねたのか、知らぬ霊力の気配をまとった福島光忠は面倒そうに、ゆっくりと実休を見上げた。
苦み走った華やかな造形は、自分の本丸で見慣れた其れと寸分違わず美しい。違うのは、実休を見上げる眼差しが無感情に凪いでいる事と、眉間に寄る皺が、わずかに深い事。
不躾な他刃に対する警戒、にしても過剰な反感の理由は、すぐに知れた。

さっきから、そこらの『俺』に声掛けて回ってる実休だよな。何か用か?」

見られていたのか、と実休は少し驚いた。実際、彼を見つける前に、広場を通りかかった三振りの『福島光忠』に声を掛けている。
二振りにはにべもなくあしらわれ、一振りは連れの日本号が物凄い勢いで回収していった。去り際に此方を睨みつけた眼光の剣呑さからすると、ひょっとしたら好い仲だったのかもしれない。
まずい所に手を出したと肩を竦め、尚も懲りずに物色していた矢先に飛び込んできたのが、この梔子の福島だった。
そんな内心の思いは、表情にはちらとも出さないまま、笑いかける。

「僕を気に掛けてくれたのか。嬉しいな」
「聞こえただけだよ。他より耳がいいもんでね」

素っ気なく言う声は低く抑えられ、擦れるような響きが、ぞくりとするほど色っぽい。

「揉め事は起こさない方がいいんじゃないのか。あの号ちゃん、相当怒ってたぞ」
「そのようだね。僕は、探しているだけなのだけど」
探してる?」
「僕と遊んでくれる福島を」

注ぎ込むように、情感たっぷりに囁く。黄昏色の瞳を細めれば、長い睫毛が影を落とし、隠微な夜の気配を帯びる。
望んで持って生まれた訳ではないが、自分の容姿に、そうした表情がひどく馴染む事も、そうした『実休光忠』に惹かれる『福島光忠』が多い事も知っている。
易々と手玉に取らせてくれずとも、呆れるでも眉をひそめるでも、何らかの反応を引き出せればいい。糸口さえ掴めば、やりようはいくらでもある。そんなろくでもない経験則を積むほどには、この悪い遊びを繰り返していた。
仕掛けに対し、梔子の福島はつまらなそうに鼻を鳴らしたきり、表情は小ゆるぎもしなかった。その視線は気のなさをあからさまに示すように、実休の顔からは少し逸れた辺りへ投げられている。

「生憎、お役に立てそうにないな」
「そんな、つれない事を言わないで。――ねぇ、僕の目を見て?」

冷ややかな瞳を覗き込み、其れを溶かさんと熱を込めた声で、甘く、甘く。
おとがいに指を触れると、少し大袈裟なくらいに肩が跳ねた。存外うぶな反応。くす、と吐息混じりに笑えば、不機嫌に眉が吊り上がる。
それでも振り払ったり声を上げたりしないのは、矜持か、単純に気が強いのか。
さっきの二振りは取りつく島もなかったが、少々手強い相手を、時間を掛けて落とすのも嫌いではない。そうやって迫った結果、逆鱗に触れてぶん殴られて終わる事もないではないが。それも一興、だ。
心を込めて口説き落とそうと、口を開きかけた実休と、吐息が掛かるほどの距離で向き合ったまま、梔子の福島が、は、と短く息を吐いた。

「見えないよ」
え?」
「見えないんだ、俺」

どういうと訊き返そうとした時、不意に雲が晴れた。虚を突かれた実休の肩を押しのけるように立ち上がった福島の顔を、陽射しが照らす。
薔薇の花弁を溶かした、濃く深い赤に、螺鈿のようなきらめきが散る双眸は、昼下がりの強い光を浴びて、眇めも瞬きもしない。作り物めいて眼窩に嵌まったまま、焦点の合わない視線を虚空へ向けている。
あ、と咄嗟に実休は言葉を失い――同時に彼が手に取った白い杖の存在に気付いて――その意味を、理解した。