ろに
2026-01-07 20:00:00
7331文字
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お祭り騒ぎと夜来の雨

文章:「彷徨う魚の意味と意図」の手前の話。じめじめしている玄野の話その0。(過去のオンラインイベントにて無料配布していた小説の再掲)


「式じい。掃除終わったわよ」
「りっちゃん、お疲れ様なのじゃ」
 2人を見送ったちび式じいがお茶を飲み終えた頃、共有スペースに燃えるような長髪の人物、波音なみねリツが入ってきた。貴族令嬢のような恰好をしたリツは、山のように掃除道具が入ったカゴを2つ抱えても尚平気な顔をしている。それからやや間を置いて、同じく寮の掃除をしていたらしい玄野も疲れた顔で入ってきた。
「つかれた
「何よ、だらしないわね」
「お前が頑丈すぎるんだろ
 玄野が運んでいたカゴは1つだけだが、それでも飲料ボトルの詰まった段ボールと同じ位の重さがある。一番体格の良さそうな龍星でさえ2つ同時に運ぶ事は難しいだろう。
「筋肉が足りないわね。1トンくらい増やしなさいよ」
「まず人間の重量はトン単位じゃないからな?」
 リツの体重は約25トン。人間の比にならないどころか、地盤が心配になるレベルの重量をしている。当人曰く、必要な重さ以外は別の空間に収納しているらしい。仕組みはまるで見当もつかないが、人間離れした存在であることは間違いない。
「たけひろさんもお疲れ様なのじゃ」
「おう。買い出しだけど、今日のメニューは焼き魚だったよな」
「それについてなんじゃが
 掃除道具をあるべき場所へと戻しながら買い出しリストの確認をする玄野に、ちび式じいから待ったがかけられる。
「みこみこや小夜ちゃんから聞いたのじゃが、祭りの屋台には沢山のジャガイモ料理が並んでいるらしいのじゃ」
「そうなのか?」
「くろの、知らないの?」
 ちび式じいの発言にいまいちピンと来ていない様子の玄野に、リツは「じゃがバターとかトルネードポテトとか色々あるじゃない」と補足する。ちび式じいはそれらの料理名に反応し、そうじゃそうじゃと相槌を打った。
「話を聞いている内にわしも食べたくなってしまってのぅ。じゃがいも料理を見かけたら買ってきて欲しいのじゃ」
「屋台料理かあ
 じゃがいも好きなちび式じいのお願いに、玄野はどうしたものかと考え込む。普段買い出しに行くスーパーと祭りが行われている商店街とは結構な距離があり、夏場である事も相まって徒歩で移動するには厳しい。特に屋台が並ぶ商店街方面はテレビ越しでも毎年道路全面が人で溢れている様子が見て取れるから、自転車での移動も現実的ではないだろう。
「それならいい方法があるわよ」
「本当かのぅりっちゃん」
 中々答えが出せずにいる玄野とは対照的に、リツはあっさりと答えを提示した。
「あたしが式じいと一緒に買いに行けば良いじゃない」
 あっけらかんと言ったその顔は、悪だくみをする6歳児そのものだった。