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ねぶくろ
2025-12-24 20:00:00
12149文字
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クリスマス企画2025
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キャンドルライトの追憶
揺らめくキャンドルの炎に、記憶の底が刺激を受ける。──どこかでこんな景色を見たことがあるような。そんな予感に、クロウ・ニン=ソウは棚の中身を整頓していた手を止めた。
吸血鬼であるクロウや、クロウの主人は陽光を嫌う。したがって、主人の根城は常に薄暗く、光源はか弱い蝋燭の火だけである。手元がぼんやりと照らし出される程度の光だが、夜目の利く吸血鬼にとってみれば十分な明るさだ。クロウは、黙ってキャンドルに見入った。
廃墟のようにも思える石造りの一室では、クロウと共に、先輩に当たる吸血鬼、──〝冥土さん〟が立ち働いている。彼女は炎に釘づけになっているクロウを一瞥すると、大雑把に箒をかけていた手を止めて、「考え事ですか」と声をかけた。
「え、
……
あ、すみません」
「怒っているわけではありません。何を考えていたんですか」
彼女は掃除に飽きたのか、クロウを見つめて問いかける。休憩がてらの雑談ということだろう。意を汲んで、彼女を見返す。クロウは自分の中の感覚を整理するような間を置いてから、「キャンドルが並ぶ光景を、見たことがあるような気がして」と言葉を紡ぎ出した。
「僕は、人間だったころの記憶が欠落しています。そのことを改めて考えていました。
……
僕は、何を失ったのだろう、と」
吸血鬼として目覚めて、初めての冬が来た。雪と氷に閉ざされる闇の季節。それは、多くの生き物にとって死を身近に感じる脅威の期間だ。まさか、日照時間の短い季節が来て喜ぶ日が来るとは、生前の自分は思っていなかっただろう。そのことが少し、寂しいような気がする。
忘れてしまった記憶がどんなものだったのか、自分が一体『誰』だったのか、知りたくないといえば嘘になる。そんな感傷を唇に乗せれば、冥土さんは表情をピクリとも動かさずに言葉を返した。
「あなたは何も失っていないでしょう」
無感動で平坦な声音に目を瞬く。彼女は淡々と言葉を重ねた。
「ご主人様はボケナスチビ助ですが、弱いものから何かを奪うようなことはしません。あなたは、クロウ・ニン=ソウとしての時間を得たのですよ。あのボケナスチビ助もたまにはましなことをしますね」
ボケナスチビ助は言い過ぎだろう、と思うが彼女に楯突く勇気はない。クロウは主人に対する暴言は聞かなかったことにして、冥土さんの言を頭の中で反芻した。
人間として生きた時間を失ったのではなく、吸血鬼として生きる時間を新しく得たのだ。
考えてみれば、確かにそうかもしれない。失ったものを惜しむよりも、いまこの手の中にある物を慈しむ方が、幾分か生産的だろう。未練を抱いたところで記憶が戻るわけでもない。
キャンドルの炎が並び、揺らめく幻想的な光景。それがいつ、どこで目にした景色かは忘れてしまったが、自分はこれから先の不死に等しい長い時間の中で、その答えに新しく出会い直せるかもしれないのだ。
「そうですね、僕は新しく名前と生を得たのでしょう。
……
そう考えることにします」
「ええ、そうしてください」
彼女はにこりともしないまま頷きを返す。クロウはその顔から視線を外すと、揺らめく炎を見上げた。いつか見た幻想的な景色の正体は、もう気にかからなくなっていた。
【あとがきのようなもの】
この度は企画にご参加くださりありがとうございました!
吸血鬼的な聖夜、ということで「そもそも吸血鬼に聖夜の概念はあるのかな?」という疑問から出発してこのようなお話を書かせていただきました。(クロウさんが思い返した光景は、降臨祭のミサを想定しています)
重ねてになりますが、この度は企画にご参加くださりありがとうございました。楽しんでいただければ幸いです。
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