ねぶくろ
2025-12-24 20:00:00
12149文字
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クリスマス企画2025




ヘイゼルナッツのジャンドゥーヤ


 家主がなかなか帰ってこないので、ヘイゼル・マーロウは庭先に出したお茶会用のテーブルに突っ伏した。雪がちらちらと視界を横切り、肩と言わず頭と言わず、ヘイゼルの体に積もっていく。寒さに意識がとろとろと、蜂蜜のように蕩け始めて、目を瞑る。暗闇を見つめていれば、眠りに落ちるのはあっという間だった。
 ヘイゼルがすやすやと寝息を立てていれば、「こんなところで眠っていたら風邪を引くよ、ヘイゼル」と深い男性の声が聞こえた。瞼を持ち上げれば、見知った顔がこちらを覗いでいる。心配そうな色の瞳を見返して、ヘイゼルは「おはよう~、ようやく帰ったのね~?」とこの家の家主──サンタクロースに笑いかけた。
「随分待ったのよ~? お茶会を~、しましょ~う」
 雪が積もらないように逆さまにしていたカップをひっくり返す。すっかり冷え切った紅茶のポットへ手を伸ばせば、サンタクロースは「外では寒いだろう。家に入りなさい」とヘイゼルの手を止めた。大きな手のひらがヘイゼルの肩に積もった雪を払って、赤い鼻先が視界に迫る。彼は目を細めて、痛みを堪えるように「ヘイゼル」と呼ばわった。
「私を待つ必要なんてないんだよ。今日はクリスマスイヴだ。こんな寒いところで、独りで過ごす必要はない」
 その言葉に首をかしげて、ヘイゼルはさっさと彼の家のドアを開けた。
「お言葉に甘えて、お邪魔するわ~」
 暖炉に火を灯して、勝手にキッチンを借りる。紅茶を淹れ直し、お茶菓子を皿に盛ると、ヘイゼルはサンタクロースの食卓にそれらを並べた。諦め顔をして、彼が席に着く。彼はヘイゼルが用意したお茶菓子と紅茶を前に、どこか悲しそうな顔をしていた。不思議に思って、首を傾げる。
「サンタちゃんは~、お腹が痛~いのかしら~? どうしてそんな~に、悲しいお顔をしているの~?」
 歌うように尋ねて、彼のカップに紅茶を注ぐ。綺麗な皿の上にはチョコチップクッキーやアイスボックスクッキー、フィナンシェ、ジャンドゥーヤ、パウンドケーキなどが盛り付けられて、艶やかなカップには琥珀のように美しい紅茶がたっぷりと注がれているのに、何を悲しむ必要があるのだろう。ヘイゼルは、ふと気が付いて、「そうだわ~。サンタちゃんは~、一人暮らしだったわね~」と笑った。
「悲しいお顔の原因は~、おしゃべりが足りていな~いからなのね~?」
 ヘイゼルの言葉に、サンタクロースは首を横に振った。
「そういうわけではないよ、ヘイゼル。私は君がこうしてクリスマスの日に独りでいることが悲しいのさ。クリスマスはすべての人が幸せに、笑顔で過ごすべき日だ」
 諭すような言葉に、思わず笑う。ヘイゼルは自慢のジャンドゥーヤを手に取って、齧りながら言葉を返した。
「サンタちゃ~んは、おかしなことを言うのね~。わたしは、あなたといるわよ~?」
 なみなみと注がれ、湯気を立てる紅茶で喉を湿す。ヘイゼルは返事を待たずに言葉を重ねた。
「紅茶を飲めば~、昨日と今日に違いはないわ~。今日だって、『何でもない日』なのよ~」
 たとえあなたがサンタクロースだとしても~、と歌うような言葉に彼が目を瞬く。サンタクロースは目の前のお茶菓子を眺めて、紅茶のカップを手に取ると、小さく苦笑した。
「そうだね、ヘイゼル。昨日も今日も、世界はおんなじだ。良い子にとっても、悪い子にとっても、君にとっても、私にとっても」
 紅茶のカップを掲げて、彼が言う。
「それでも、……君がお茶会に誘ってくれたことを祝わせてくれ。『何でもない日』おめでとう」
 カチン、と触れ合わせた陶器の音に、二人のお茶会が幕を開けた。




【あとがきのようなもの】
 「ヘイゼルさんの、謎なクリスマスの過ごし方」ということで、ヘイゼルさんがクリスマスという日をどのように過ごすかを考えた時に、「そもそもクリスマスを『特別な日』にカウントするのかな?」と思ったので、「何でもない日」をキーワードに書かせていただきました。
 サンタさんと交友関係があったり、クリスマスを意識しているのかしていないのかわからないタイミングでお茶会を催したり、ヘイゼルさんの持つ世界観が表現できていれば幸いです。
 企画にご参加くださりありがとうございました!