ねぶくろ
2025-12-24 20:00:00
12149文字
Public
 

クリスマス企画2025




姫の気まぐれ


 十二月も後半に差し掛かり、クリスマス商戦もいよいよ大詰めを迎えた二十二日。平日にもかかわらず、午後三時の公園内は人で溢れかえっていた。人々の目的は、園内に立ち並んだ出店の隊列、──クリスマスマーケットだ。
 浅沼南桐は飲食スペースの一角に腰を下ろし、プラスチック製のテーブルに頬杖をついてマーケットを散策する人々を眺めていた。視線の先には雑貨を扱う出店があり、店先では真剣な面持ちをした知り合いが、棚に並んだスノードームを吟味している。
 ホットワインの入った紙コップを手に、暖を取りながら彼の横顔を眺める。浅沼をクリスマスマーケットに誘った張本人、阿倍陽太郎は中学生になった娘に贈るプレゼントを探している真っ最中だ。浅沼さんはセンスがいいので、と審美眼を当てにされたものの、五十も過ぎたおじさんに女子中学生の生態など分かるはずもない。浅沼は早々に「分からん」と彼の期待を放り出して、買い物から離脱していた。
 眺めていれば、店主に何事か質問をしていた阿倍が、何も買わずに踵を返した。お眼鏡にかなうものがなかったのだろう。彼は飲食スペースを眺めると、すぐに浅沼を見つけたらしく、真っすぐにこちらに近づいて来た。
 対面の席に座って、「お待たせしました」と疲れたような顔で彼が言う。浅沼は、「陽ちゃんもなんか買って来たら?」と手元の紙コップを揺らして見せた。それを漠然と眺めて、彼がゆるく首を振る。ずっと歩き回って店を見ていたせいか、顔色が冴えない。体が冷えているのだろう。
 浅沼が近くの店でホットココアを買って渡せば、彼はいつになく弱った様子で「すみません」と俯いた。珍しいものを眺める気分で頬杖をつき、「プレゼントは決まった?」と水を向ける。阿倍は頭を振ると、「なかなか……、難しいですね」と小さく息を吐き出した。
「みーちゃん本人が欲しいものは把握してないの? そもそもクリスマスプレゼントって本人の希望を聞くものでしょ。勝手に選んでいいの?」
 誘われた時から気になっていたことを尋ねれば、彼はココアの入った紙コップを両手で包んで、「本人は、もうサンタさんは卒業すると言ってます」と応じた。
「中学生になったし、他の子はもう卒業するから、と。……何かしたいのは、俺の勝手な気持ちなので、何を買っても、多分、独り善がりだと思うんです」
 いつになく弱った様子なのはそれが原因か、と口には出さずに納得する。浅沼は「そう」と相槌を打って、紙コップを傾けた。蜂蜜入りのワインは甘く、あたたかい。熱によって立ち上ったアルコールの香りに誘われたのか、阿倍が視線を持ち上げた。視線が交わり、──戯れに口角を持ち上げる。浅沼は目を細めると、テーブルに頬杖をついた格好のまま口を開いた。
「ところで、俺もみーちゃんなんだけど。俺には何もないの?」
 尋ねれば、彼がぱちりと目を瞬いた。その目がわずかに泳いで、「なにか、欲しいものがありましたか?」と質問を返す。浅沼は軽い笑いと共に、「情緒がないな」と紙コップの中のワインを飲み干した。
「俺にも選んでよ。せっかく一緒に来たんだから」
 言い募れば、観念したのか彼が頷く。阿倍はココアのカップを空にすると、浅沼に倣って席を立った。
「一緒に見て回りましょう。……ただ、クリスマスプレゼントは本人に希望をとるもの、ですよね」
 抵抗するように告げられて、思わず頬を緩める。浅沼は「そうだな」と笑って、明かりのついた出店の群れへと歩を向けた。




【あとがきのようなもの】
 浅沼阿倍ペアのクリスマスネタということで、たまにはホテルじゃない場所の話を書こうと思った+個人的に阿倍さんは鼻先を赤くしているのが似合うと思っているので、クリスマスマーケット(屋外)を舞台にしてみました。
 個人的にみーちゃん(三日月ちゃん)が「中学生になったからサンタさんは卒業する」って言ってたら可愛いな、という願望も込めています。父子家庭だし微妙な気兼ねとかあるかもな~、とか。
 楽しんでいただければ幸いです。企画にご参加くださりありがとうございました!