冬暁
2025-12-15 20:40:05
6792文字
Public 鳴保
 

NRHS Calendar 2025 No.3

12/15〜12/20、12/25の鳴保カレンダーまとめ。


12/16 『読書』

「これ、どうしたんだ?」
 ひどく不思議そうな顔をした鳴海さんの手には、ボロボロになった一冊の本。
 懐かしい、と目を細める。
「これ、僕が出動する時に読んでた本なんや」
「出動する時? 集中できなさそうだな」
「集中するってより落ち着かせるもんやねん。せやからこれしか読んでへんかったな」
「ルーティンか」
 頷いたところでふと気づく。これを最後に開いたのはいつだっただろう。
 小隊長になる前かもしれない。役職が当てられてからは、移動中も人と話す事が多かったから読む暇もなくなった。
 紙は変色しているし、表紙は草臥れて端の方が少し切れている。こうなるくらい持ち歩いてたのかと、妙な感慨を感じながら手を伸ばす。受け取るつもりだったが、鳴海さんは面白そうに本を眺めると開いた。
 斜め読みもいいところで、開いたのは中間だし、少し読んでは数ページ飛ばしている。
「ふーん」
「なに」
「いや、討伐前にこんな本読んでたんだなと思って」
「こんなってなんや。別に変なもんではないやろ」
「貶したわけじゃねぇよ」
 ただ、と鳴海さんは本を閉じた。捲れた表紙を親指で直すと、僕の方へと差し出す。
「普通だなって」
「はぁ……
「討伐前にこれ読んだら確かに緊張もなくなりそうだわ」
「やっぱり貶してます?」
「してないって」
 僕が本を受け取ると、鳴海さんはどさりと隣に腰を下ろした。
「自分の普通を思い出させてくれるものは必要なもんだろう」
 僕に肩を預けると、ゲーム機を取り出す。
「鳴海さんにとって、普通を思い出させてくれるんはそれなん?」
…………、そうかもしれないな? あまり意識したことはなかったが」
「鳴海さんでも必要なもんなんですね」
 くすりと笑えば、肩を強く押された。
「僕を何だと思ってるんだ」
「日本最強の隊長様?」
「最強だって一人の人間だからな。僕だって普通は必要だ」
 ぐぐぐ、と背中で押した鳴海さんは、そのまま僕の膝に滑り落ちる。ぺしりと額を叩けば、逃げるように僕の腹に顔を押し付けた。
「甘えたやん」
「うん」
 甘やかして、なんてぐりぐり顔を押しつける鳴海さんはごく普通の男の人で。
 そんな可愛い恋人を甘やかすのは僕も満更じゃなかった。

Posted by 冬暁/薄明