冬暁
2025-12-01 23:58:27
7783文字
Public 鳴保
 

NRHS Calendar2025 No.1

12/01〜12/07に投稿した鳴保SSまとめ。2025だけど、2026があるかは謎。
タイトルがない代わりに日付+お題。


12/05 『風邪』


 コホッ、と耐えきれずに咳が出る。喉の違和感がついに症状として出てしまった。
 口元は押さえたものの、音までは殺しきれない。そばにいた亜白隊長が徐ろに顔を上げた。
「風邪か?」
「んん、ッ……かもしれません」
「最近は一気に冷え込んだからな。隊内でも流行ってるようだ。あまり無理はしないように」
「気をつけます」
 一度咳として出てしまったからか、喉のざらついた感覚が鮮明になる。それが益々咳を呼び込んで、一度出るとなかなか落ち着かない。。
 マスクをしてのど飴を舐める。多少楽にはなるものの、舐めすぎると虫歯になりかねないのが難点だ。
 今日は早めに休もうか。亜白隊長に移してしまわんようにさっさと治さな。移すようなことがあったら最悪や。
 そのためにも鳴海隊長に見つかるわけにはいかなかった。見つかればいつものように難癖をつけに来るだろう。
 あの人も懲りんよなぁ。……あ、見つかった。
「おいオカッパァ、まぁたボクの許可もなしに入ってきた…………?」
 輩のように近づいてきたかと思えば、勢いが谷のように落ちていく。珍し、なんて思いながらもいつものように返した。
「ちゃんと許可はもらってます。鳴海隊長と違って、仕事はきっちりしとりますから」
「ボクはボクがやるべき仕事しかやらんだけだ。書類仕事などボクじゃなくても出来るだろ」
「鳴海隊長にしか出来へん書類仕事もあると——ッゲホ、けほ、……ッは、すみません」
 せめて鳴海隊長の前では堪えようと思ってたのに。これはチクチク言われるなぁ、と謝罪と共に目を向ければ意外にも大人しかった。
「風邪、引いてるのか……
「僕やって人間なんで、体調崩すこともありますよ。自己管理ができんで情けない限りです」
 先んじて言ってみれば、鳴海隊長は言葉を探すように視線を彷徨かせた。
「まぁ、自己管理がきちんとできていれば風邪なんて引かないからな! ボクなんてここ数年、病気にかかってない」
「さすが鳴海隊長ですね」
 ふふん、と胸を張る姿に特に感情のない賞賛を返す。その態度に鳴海隊長がムッとしたように眉を寄せた。
「防衛隊員は体が資本だ。仮にもボクから近接戦闘部門の冠を奪ったんだ。相応しい態度を示してみせろ。ま、次は必ずボクが一位になるから一時の栄光に過ぎんだろうがな」
 叱咤されてるのか、それとも実は心配されてるのか……
 ついついその本心を伺うように見つめていれば、その表情がさらに険しくなる。
「なんだよ」
「いや、鳴海隊長がそんなこと言うなんて、鳴海隊長こそ風邪引いてます?」
「人がせっかく……!」
 そう言いながらもやっぱり勢いがなくなる。マスクを着けてるのが効果的なのかもしれない。
「もういい。付き合ってられるか!」
 鳴海隊長はポケットに手を突っ込むと、不意に何かを投げた。反射的にそれを掴む。手のひらに収まるくらい小さなものだった。
 鳴海隊長は鼻を鳴らすと立ち去っていく。
 その背を見送りながら手のひらを覗けば、そこにはミルクキャンディーがあった。
「あの人、ミルクキャンディーなんて食べるんやな」
 随分と珍しい人に心配されたらしい。
「たまには風邪引いてみるもんやなぁ」

Posted by 冬暁/薄明