冬暁
2025-12-01 23:58:27
7783文字
Public 鳴保
 

NRHS Calendar2025 No.1

12/01〜12/07に投稿した鳴保SSまとめ。2025だけど、2026があるかは謎。
タイトルがない代わりに日付+お題。


12/02 『スーツ』


 ひんやりとした空気が足元をすり抜ける。寒さに意識がゆるりと浮上して、隣にある温もりを求めて手を伸ばした。ぱた、ぱたと叩くのはシーツばかりで、仕方なく瞼を持ち上げる。
……そう、しろ?」
 寝起きに朝日が眩しい。何度か瞬いて部屋を見渡した。いつの間にかカーテンが開いている。
「ふ、ぁ…………仕事か?」
 リビングへ向かえば宗四郎がネクタイを手にしていた。
「おはよう。今日は早いんやな」
「はよ……。珍しいな、スーツなんて」
 そんな仕事あったか? と首を傾げれば宗四郎は呆れたような顔をした。
「やっぱり聞いてへんかったな? 今日は親戚の結婚式に参列して来るって言うたやん」
「関西の方でやるのか?」
「そんなら昨日の夜から行っとるわ。親戚言うても遠縁でな。こっちに住んどる人やねん」
 ネクタイを手に洗面所に向かう後ろ姿を追う。ワックスを手に取って髪に馴染ませると、あのオカッパ頭が綺麗に整えられていった。
「夕方には帰って来る」
 手を洗って襟を立てると、慣れた手つきでネクタイが結ばれていく。こうして見ると随分と印象が違う。
…………
「弦くんも今日は休みやろ? ゆっくりして……って!?」
 首筋にポツンと咲いた花に満足する。そんなボクに手刀が落ちた。
「ふぐッ!」
「何すんねんドアホ!」
「少しは手加減しろ!頭がかち割れるかと思ったわ!」
「誰かさんが余計なことするからや!」
 襟を下ろした宗四郎は鏡と睨み合う。ギリギリ見えない位置ではあるな。お前からは。
「虫除けだ、虫除け」
「はぁ?」
「結婚式で出会いがあった……、なんて珍しくない話だろ。お前にはボク様という最高のパートナーがいることを知らしめんとな」
「考え過ぎや。そんなことあるわけないやろ。あぁもう、最悪。全然見えん。絶対見える位置にしたやろ!」
 襟の位置を調整してどうにか隠そうとしているが、見えていないからどうにもなってない。そもそもそんなことしたところで動けば見えるだろ。
「お前がそんなこと考えてるから必要なんだ。自分の魅力を甘く見過ぎ。お前はこのボク様が選んだ男なんだぞ? そこらの男とは比べものにならん良い男に決まってるやろがい」
 頤を引き寄せて、薄く開いた唇に噛みつく。
「大人しく見せびらかしてこい」
「それとは、話が別や……アホ」
「そんな顔で言われても可愛いだけだが?」
 真っ赤になった頬を突けば顔を押し除けられた。
「っさい!」
 バタバタと洗面所を出た宗四郎は、結局絆創膏を貼ることにしたらしい。全身をビシリと整えた宗四郎の、その首筋からチラリと覗く絆創膏は妙に艶かしい。その下にあるのがキスマークだと知ってるからかもしれない。
 首を動かすたびに違和感を覚えるのか、絆創膏をなぞる仕草がまた良い。その度に宗四郎がハッとしてボクを睨みつける。これで万が一声をかけられたとしても、その度にボクがこうしたことを思い出すことだろう。
 
 満足しながら送り出したボクは、帰ってきた宗四郎の機嫌取りに奔走することになるとまだ知らない。

Posted by 冬暁/薄明