冬暁
2025-12-01 23:58:27
7783文字
Public 鳴保
 

NRHS Calendar2025 No.1

12/01〜12/07に投稿した鳴保SSまとめ。2025だけど、2026があるかは謎。
タイトルがない代わりに日付+お題。


12/03 『願い』


 保科は周りが思うよりもずっと我儘だ。末っ子として甘やかされてきたからかもしれない。家族に大切にしてもらったことが節々から覗く態度は微笑ましくもあり、時にひどく腹立たしくもあった。
「僕、アレが食べたかったんやけど……
 一度そうして拗ねたら満足するまで拗ねたまま。そうしてもボクが嫌うことはないと甘えてるのかもしれない。まぁ実際、めんどくさいな……とか思うことはあっても嫌うことはないから間違いじゃない。
「今日はあそこに行きたいねん。ダメ?」
「この本だけは譲れへん……! これだけは絶対読みたいんや……!」
「鳴海さんの淹れたコーヒー飲みたいなぁ……?」
 保科のお願いは大抵些細なものばかりだ。そんな我儘な甘え方が、ボクは何だかんだ可愛くて仕方ないんだからどうしようもない。出来る限り叶えてやりたいとさえ思う。
 だが————
「鳴海さん、お願いやから……
「ヤダ」
 そう答えれば涙に濡れた声が詰る。それを無視してその背中をポンポンと叩いてやった。
 ソファに寝転んだボクの上でぐすぐすと保科が泣いている。ボクの胸は保科の涙でびちゃびちゃだ。
 保科の部下が討伐で命を落とした。入隊して間もない新人だった。
 そいつは怪獣討伐に賭ける熱意が高く、そして保科に憧れていた男だった。保科にはよく懐いていたらしい。努力を欠かさず、勤勉で真面目。しかし、それ故に融通が効かないところがあった。
 結局、その愚直さで命令を無視して討伐に挑み、そして命を落としたらしい。バカなやつだと思う。ボクでさえ、新人の頃にやった無茶で死にかけた。命令を無視して、その尻拭いをさせていた。ボクでさえ無理だったのに、他の奴が出来るわけもないだろう。
 そいつは己を見誤り、保科はそいつのフォローが不十分だった。
 保科が悪くないとは言わない。上官として、ボクたちはその命の責任を取らなきゃならんからだ。例え八割方そいつが悪かったとしても、その上で保科は対処しておかなければならなかった。
「僕のせいや……。僕が……
 普段ならそれでもここまで落ち込むことはない。ただ、ここ最近の保科には余裕がなかった。積もりに積もった疲労と責任に押し潰されそうになっている。
「情けなくてしゃあない……ッ。……せやから、見んといてや」
 ひとりにして、と縋りつきながら泣く。どうしてもと言うなら、自分から離れれば良い。ボクは泣きそうな保科を抱きしめて横にはなったけど、拘束も何もしてないんだから。離れたいなら離れられる。
「バカだなぁ……
……ッ、ぅ、……ひっ、ぐ……ぅぅ」
 苦笑と共に丸い頭を撫でれば、じわりとまた濡れた感触がした。
 保科の重さと温もりを抱きしめる。
 好きなだけ泣けば良い。苦しめば良い。どうせお前はまた立ち上がる。
「鳴海さん、ッおねがい、やから——
 ——そばにいて。
 こんな時ばかり素直に甘えられない奴だから。ボクもこればかりは叶えてやらない。

Posted by 冬暁/薄明