マエバ・セイボスキー
2025-09-06 20:27:56
23897文字
Public
 

# ふぁぼくださった絵描きのイラストに字書きがSSを沿える

①デート日和(パーバソ) 現実さんありがとうございました。
②夏に消える(パーバソ) 横川さんありがとうございました。
③冬にあそぶ(かねこりゅ) 壮真さんありがとうございました。
➃きれいな男(パーバソ) ほととさんありがとうございました。
⑤蝶よ花よと(パーバソ) 本条さんありがとうございました。
⑥迷子の子猫(パーバソ) やまみちさんありがとうございました。
⑦世界一甘く(パーバソ) はんちょーさんありがとうございました。
⑧帝王の憂鬱(パーバソ) 藍田さんありがとうございました。


⑧帝王の憂鬱


バーソロミューは憂鬱な気持ちで スマホの画面を明るくしたり暗くしたりを繰り返していた。
表示されているのは一通のメッセージ。
QRコードと、この時間にアクセスして欲しい、との一言。説明は一切無い。
メッセージアプリの前後の会話には、挨拶と気候の話くらいしか残っていなかった。
何が送られてきたのか、まったく検討がつかない。送り主は恋人。現時点では。もしかしたらすぐに『元』になるかもしれないけれど。
場合によっては、このQRコードを開いたら『そう』なるのかもしれない。
彼とは、先週喧嘩をした。
初めての喧嘩だった。
そして最後になるのだろう。
ため息をついて、深くソファに腰掛ける。
背中を沈み込ませ、クッションの上にスマホを放り目を瞑る。
喧嘩なんか、するのではなかった。
バーソロミューは40年に満たない短い人生を、後悔をしないで生きてきた。
後悔なんてするだけ無駄だ。したところで不快感以外に得るものは何もない。自分の行動には責任を持つべきだし、必要なモノは努力と運と才能でつかみ取ってきた。そこに、一つの後悔もなかった。
先週までは。
理由は、些細な出来事。
彼が、嘘をついていた。
重大な嘘なのか、些細な誤魔化し程度のものなのかは、わからない。
わかる前に、距離を置こうと言葉の銃口を突きつけてしまったから。
今思えば、浅慮だったと言わざるを得ないだろう。こんなに、後悔をしている。
彼に理由を問えばよかったのだ。
彼は、バーソロミューの知る中でも、最も誠実な男だ。何か理由があったに決まっている。
けれども同時に、そんなにも誠実な男が些細な嘘をついたりするはずがないとも思っている。つまりは、バーソロミューにとって良くない嘘に違いない。
だからこそ、その場で問い詰めるべきだった。
けれど、そうはしなかった。
頭にきてしまったのだ。カッとなった。
二人の関係の始まりは、彼のアプローチにバーソロミューが絆されたようなものだった。
最初は、本当にいやだった。あんな正道を進み、輝きを煮詰めてつくったような人間の隣にたつのは耐えられない。必死でたえたのは、惹かれないわけがないからだ。ハマってあとで辛い目にあうのはごめんだった。リスクは避けるべきだ。バーソロミューはそうやって、器用に生きてきた。
そんな生き方を曲げてまであの手をとったというのに、人の決意と勇気を踏みにじって、嘘をつかれて激昂してしまった。
何もかも、思った通りにいかない男でいやになる。
「はー……
バーソロミューにも、秘密はある。秘密というよりは、あえて言っていないこと。けれど、今現在『隠している』ことはなにもない。
彼は、パーシヴァルは明らかに何かバーソロミューに隠している。それも、恐らくあまりポジティブな秘密ではない。
例えば何かのお祝いを企画しているとか、誕生日のサプライズを企てているとか……プロポーズをしようとしているとか、そういったことであれば、彼があんな態度をとるとは思えない。
ひとつき程前から、パーシヴァルは仕事が忙しくなったと言って、度々バーソロミューとの予定を変更することが増えた。お互い働き盛りだし、繁忙期には一ヶ月会えないことも過去にはあった。だから最初は、なんとも思ってはいなかったのだ。
疑い出したのは、2週間ほど前だ。頬や腕に青あざをつくり、耳にテープを貼っていた。聞けば、会社で転んだという。一瞬、おや、と思った。けれど、真実を告げるのが恥ずかしいのだろうとスルーした。それから治る前に新しい傷が出来るようになった。小さなものが殆どだったけれど、今までそんなことはなかったし、バーソロミューにはわかった。わかってしまった。それが、事故で出来た傷ではないということが。あれは。故意でないと出来ない怪我だ。例えば、喧嘩だとか。バーソロミューにはそれが良くわかる。
そして先週。
久々に仲良く夜を過ごしていたのに、ベッドの中で、彼は言った。跡をつけないように、と。
冷や水をかけられたとは、このことだろう。
一瞬で熱は引いて、バーソロミューはシーツを引ったくって腰に巻き付け、ベッドから降りて言った。
『少し距離を置こう』
心が離れつつあるのだろうと、そう思えた。今でも、思っている。
そうでなければあんな、あんな酷く困ったような声で言ったりしないはずだ。
そのことを考えるだけで、鳩尾がじんと痛んで、バーソロミューはなんとかそれを吐き出そうとおおきく息を吐いた。
もちろんそんなものは何の役にもたたない。
ぐうと唸って横を見る。
時計は、指定の時間を随分と過ぎていた。
以前であれば、愛だ恋だとうじうじ悩む者の気持ちがさっぱりわからなかった。そういうことがあるとは知っていても、実感として認識はできなかったものに、こんなにも容易く振り回されている。
いいとしをして、みっともない。
飽きられて当然だ。
ならばせめて、最後くらい。
のろのろとスマホに手を伸ばす。
いやだいやだと思いながら、コードにアクセスした。

『帝王パーシマ!あの技をくらってなお立ち上がったぁーー!!』

響き渡る、アナウンサーの叫びにも似た声。
映しだされているのは、一人の男。
ロープに寄りかかり。額から血を流しても、射るような視線で相手を見つめている。

『帝王の名は伊達ではなかった!!悲劇の試合から一年、引退の噂をリングに沈めるかのように、今、帝王が再び返り咲こうとしています!!』

男は、獣のようにぶるっと一度首を振ると、リングサイドに何か叫んで再びセンターに向かっていく。
その堂々とした肉体。
それを、バーソロミューはしっている。

……は」

『ここで~~~パーシマのカウントゼロが……決まったーーー!!!!!髑髏烏帽子は立ち上がれない……!』

レフェリーがマットを叩く。
そして、甲高い鐘の音が響き渡った。

『今夜!!!ここに!!!伝説の帝王パーーーーーーシマの復活だーーーーー!!!』

沸き上がる会場。
カメラを通して熱気が伝わってくるようだった。
立ち上がった『帝王』は額から血や汗が滴るのも構わず、渡されたベルトを掲げ、ロープに脚を掛けて身を乗り出した。
その顔は、さっきまで格闘をしていた男とは思えない上品さすら見える笑顔で、バーソロミューはこの笑顔をとても、よく知っている。
呆然と画面を眺めていると、いつの間にか場所を移動したカメラは、インタビュースペースでベルトを肩に掛けた『帝王』にマイクを向けていた。

『王座奪還を、伝えたい方はいますか』
『ええ、はい』

青い瞳が、さっきと同じ、否、さっきよりも熱く此方をみる。
あり得ないのに、本当に見つめられている錯覚に陥った。

『愛しい人に、私の貴方。真実を伝えたい』

嫌われても、と。
その言葉に、女性のインタビュアーは小さく悲鳴を上げた。バーソロミューは見ていられなくなって画面を消した。
そして、立ち上がる。
スマホ、財布、そして車のキー。
会場の場所は、先ほど見ながら調べ済みだ。
ここからなら30分も掛からない。バーソロミューの運転の腕であればもっと早い可能性もある。
ああいったい、君はなんなんだ!
バーソロミューは、混乱と、よくわからない歓びに似た興奮を胸に、家を飛び出した。