マエバ・セイボスキー
2025-09-06 20:27:56
23897文字
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# ふぁぼくださった絵描きのイラストに字書きがSSを沿える

①デート日和(パーバソ) 現実さんありがとうございました。
②夏に消える(パーバソ) 横川さんありがとうございました。
③冬にあそぶ(かねこりゅ) 壮真さんありがとうございました。
➃きれいな男(パーバソ) ほととさんありがとうございました。
⑤蝶よ花よと(パーバソ) 本条さんありがとうございました。
⑥迷子の子猫(パーバソ) やまみちさんありがとうございました。
⑦世界一甘く(パーバソ) はんちょーさんありがとうございました。
⑧帝王の憂鬱(パーバソ) 藍田さんありがとうございました。


⑤蝶よ花よと


熱風の唸る音を子守歌に、バーソロミューはとろける意識のなかゆっくりとまばたきを繰り返した。
風のせいか眠気のせいか、はたまた泣きはらしたせいか、瞼の裏がしょぼつく。
くっとあくびをかみ殺し、すぐ横にある膝頭に額をよせた。
「バーソロミュー、もうすこしがんばって」
風の音を隔てて、声が微かに降ってくる。
うん、と曖昧な返事をしながらも、瞼は殆どくっつきかけていた。

ほんの数十分前まで、セックスをしていた。
出張だなんだとお互いに忙しく、ここ2,3週間は電話で声を聞くだけの日々。なにがなんでも次の休みは合わせようと調整したのが明日の土曜日。なんと日曜も休みだ。
久々の逢瀬は食事に始まったけれど、正直なところ、お互いろくに料理の味も覚えていないと思う。少なくとも、バーソロミューは。不味くはなかった。美味しい……たしかシェパードパイを食べた。
空腹よりも、目の前の男へ意識が奪われ、上の空。
久々に会えた喜びと恋しさに、テーブルひとつ分でさえ遠く、食事の間中、どうして家で食べようと言い出さなかったのかとそればかり考えていたのだった。
彼は、待ち合わせにうつくしい季節の花を持ってきてくれた。
青いアネモネとスイートピーのシンプルなブーケ。待ち合わせ場所へ、ブーケを片手に、品の良いスプリングコートでやってきた恋人をみて、溢れそうになる感情を抑えるのは至難のわざだった。
寂しかった会いたかったと抱きついてめちゃくちゃにキスしたいのをぐっと堪え、穏やかに近況を話しながらする食事はほとんど試練だ。
パーシヴァルは、そんなバーソロミューに気づいているのかいないのか、笑顔でローストビーフを切り分けていた。ような、気がする。
マナーの完璧な彼にしては珍しく、一度フォークを落としていたけれど、誰にだってそんなミスはあるだろう。それに、純粋に我々は酷く疲れてもいたのだ。なにせ、会うことも出来ないほどに忙しかったのだから。
バーソロミューの家の前でタクシーを降りて、いつも通り鍵を開け、部屋に入りそしてやっと、キスをした。もう、そこからは言葉はいらなかった。いらないというよりも、使えなかった。お互いに、全然、全く、足りていなかったのだ。
後ろ手に部屋の調度を探りブーケを置いて、何度か蹴躓きながら乱暴に靴をぬいだ。ソファの上にコートを放り、タイを引き抜く。絡みつくシャツから身を捩るようにして腕を抜く間も、唇は離せない。
パーシヴァルの柔らかな唇が、そっと額に触れ骨格を辿るように眼窩を滑り、鼻先を擦って、唇を食む。
薄暗い部屋の中には、窓から入り込んだ銀色の月光が床におちていて、ガタガタという雑な物音と、荒い息だけが響いていた。
久しぶりのパーシヴァルからは、彼の香水と微かな汗が混ざってかおり、泣き出しそうなほどにバーソロミューの愛しさを刺激した。
吐息まで大きな口に食べられてしまえば、もう悦びにすすり泣くしかない。
あっという間にむき出しになったのは、身体であって心であった。
二人でベッドになだれ込んで、遮二無二抱き合った。
火がつきそうな程に互いの肌を擦り合って、ぶつけ合う。
パーシヴァルは低く唸り、高貴な獣のようにバーソロミューを骨まで残さず丁寧に食べてしまった。
夢中でそうして、気づけばとっくに朝の方が近い時間。
労働ですり減った心はこれ以上無く満たされて、反対に体力は限界を迎えようとしていた。
呼吸はなかなか整わず、ぐったりとしたバーソロミューの身体をパーシヴァルが抱え上げて、風呂に入れてくれた。
同じ時間セックスをしていたし、なんならパーシヴァルの運動量の方が多かったはずなのに、どうしてそんなに体力があるのか。うつらうつらしながらバーソロミューは微かな悔しさに唸り声を上げたが、そんなものパーシヴァルにとっては子猫の威嚇程度のものなのだろう。バーソロミューを抱えたままバスタブに沈み、濡れた髪をかき上げてお疲れ様、とキスするだけだった。
丁寧に身体を洗い清められ、バスローブに覆われる。着替えを手渡され、子猫の唸りを上げてしまったバーソロミューは、慣れの恐ろしさを噛みしめた。
寝室に戻ると、タイルとドライヤーをもったパーシヴァルが待っていた。
もちろん、リネンはとっくに交換されている。
パーシヴァルは、とことんバーソロミューを甘やかすつもりでいるらしい。いつものこととはいえこんなことに慣れてしまっては、もとに戻れないのではないか。
微かな不安にため息をつき、ベッドサイドに敷いてあるラグに腰を下ろした。
大きな手が頭皮を撫でる。
熊手のようにした指で髪を梳かれるのは心地よい。
温風が髪の間を抜けていき、頭が徐々に軽くなっていく。パーシヴァルの手は時折強く頭を揉むように動いて、心地よさに更に眠気が増してくる。
「もう少し頑張って」
指先が、こしこしと側頭部を撫でる。
「ぅ、ん……
もう殆ど目は開いていない。
「乾かさないと傷むと教えてくれたのは貴方だよ、もうすこしだけ」
「ん」
手遅れかも知れない。
髪の傷みのことではない。こんな風に、甘やかされることについてだ。
とっくに慣れてしまった。
以前のバーソロミューであれば、どんなにねむくたって髪を乾かす位苦も無くやってのけた。それを、恋人に髪を乾かされて眠たい眠たいと駄々をこねている。それも恥ずかしげも無く、まるで当然の権利のように。
「パーシヴァル」
「うん?」
ごつんと、膝に額をぶつける。
もう瞼はしっかりくっついてしまっている。
「もうだめ、かも」
「あと少しだよ」
いいこだから、と髪にキスされている。
もうだめかもしれない。
とっくに、後戻りできないところまで来てしまっているのかもしれなかった。
「うー……ん」
パーシヴァルの声が遠い。ドライヤーの音が止まって、項に軟らかな唇が触れた。
「さあできた」
パーシヴァルがドライヤーを片付けに去り、バーソロミューはぐらりと身体が傾ぐまま、しなだれ掛かるように清潔なシーツに顔を押し付ける。
「バート、ベッドに入ろう」
「ん」
ほら、とそのまま脇に腕を回され抱えあげられた。かと思うと、腕の中に仕舞われて毛布をかけられる。
鼻先が柔らかな胸元に埋まって、さっきまで裸だった彼の上半身がシャツに包まれたのに気付く。
頬を押しつけ、唇のほんの表面だけでコットンの柔らかさに触れる。
「おやすみ」
「おやすみ、良く休んで」
パーシヴァルの声が振動となって響いてくる。
微かに瞼を押し上げると、ベッドサイドにきちんと生けられたブーケが見えた。
バーソロミューは、言い様のない充足感に満足の息を吐いて、今度こそ瞼を落ちるままに任せるのだった。