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マエバ・セイボスキー
2025-09-06 20:27:56
23897文字
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# ふぁぼくださった絵描きのイラストに字書きがSSを沿える
①デート日和(パーバソ) 現実さんありがとうございました。
②夏に消える(パーバソ) 横川さんありがとうございました。
③冬にあそぶ(かねこりゅ) 壮真さんありがとうございました。
➃きれいな男(パーバソ) ほととさんありがとうございました。
⑤蝶よ花よと(パーバソ) 本条さんありがとうございました。
⑥迷子の子猫(パーバソ) やまみちさんありがとうございました。
⑦世界一甘く(パーバソ) はんちょーさんありがとうございました。
⑧帝王の憂鬱(パーバソ) 藍田さんありがとうございました。
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②夏に消える
『おとなになったら、むかえにくるよ』
美しい庭だった。遠く山々を望み、それを背景に調和した緑たち。
薔薇が咲き、石垣からたわわなブーゲンビリアが入道雲のようにその赤を沸き上がらせていた。
大きな蝶が飛んできて、彼女の髪に止まったのを覚えている。
まるで天使のように美しくて、パーシヴァルは世界の花を全てこのひとに捧げたいと思ったのだった。
少女は、エキゾチックな見た目をしていた。
濃い色の肌と、宝石のような大きな瞳。くるくるとしたくせ毛。飼っている猫に少し似ていた。
使用人の服をきていたから、見習いか自分の世話のためにメイドの子供でもつれてきていたのかもしれない。
その屋敷に滞在している間、昼間はずっと彼女と過ごしていた。
帰り際、屋敷の主人の横に立つ彼女にそっと囁いたのだ。おとなになったら
……
と。
今思うと、初恋だったのだろう。
少女は、はにかんで、けれど頷かなかったように思う。
結局、その屋敷を訪れることは二度となく、そのうちにその家は爵位を剥奪されたとだけ父から教えられた。
理由は、わからない。あのあと、少女がどこへいったのかも。
彼女は何という名前だったか。たしか
……
「バルティ」
どうして今、そんな昔のことを思い出したのだろうか。
パーシヴァルは、自分の声で意識が浮上した。
目を開けようとして、うまく動かないことに気付く。
なんとか瞼をこじ開ける。はりついた睫がべりべりと剥がれる感覚は不快だ。
薄く開いた視界で辺りを見回す。ぼやけてよく見えない。
「っ」
顔の半分が痛む。腫れて熱をもっているようだった。
ただ、今もこうして見えるだけ御の字なのかもしれない。
パーシヴァルは、縛り上げられて船倉に転がされていた。周囲に人の気配はない。
船員達は解放されたのか殺されたのか。心配だが調べる術はなかった。
周囲はやけに静かだった。
暗い部屋の中は、海水の湿気た生臭い匂いと、松脂の鼻を突くにおいがした。
ギイギイと木の軋む音と、船体を叩く波の音だけが響いている。
誰も、船の中にいないのかも知れない。
ぐっと腕に力を入れてみるが、きつく縛られていて解けそうにはなかった。
腐った魚のにおいを肺一杯に吸い込んで、吐き出す。
冷静に、状況を整理すべきだ。
パーシヴァルは、貿易のための船に乗っていた。新しい国と取引を始めるところで、その足がかりとして父の名代での渡航だ。
話し合いはうまくまとまり、様々なものを積み込んで国に帰る所だった。
そこを襲われた。
海賊だ。
この海域は安全だと言われてきたのだが、その情報が嘘だったのか海賊が海域を広げたのかはわからない。
あっという間だった。
鮮やかと言って良い程に。
男達はパーシヴァルに狙いを定め取り囲み、積み荷は全て渡すから船員には手を出さないで欲しいというパーシヴァルの願いを、嬉々として踏みにじった。
集団は、頭を潰されると弱い。
パーシヴァルの船は戦うための船ではない。貿易船だ。
ぱっと見ただけでも海賊船はこちらを取り囲めるだけの規模であり、勝てる見込みなど少しも無かった。
殺されるものだとばかり思っていたが、どうやらこうして生きている。
周囲を見回しても、なにもわからない。小さな部屋は、数歩で一周出来るほどに狭い。
ここは食料庫だったような気がするが、今は底の抜けた樽が一つと、粘ついた魚が隅に落ちているだけだ。
このまま死ぬのか、それとも解放されるのか、あれからどのくらいたったのか、外はどうなっているのか。
なにも分からない。
さてどうしたものか、とじっと天井を見つめていたパーシヴァルの背後で、がちゃり、とドアが開いた。
「やあ、お目覚めかな」
急に明かりが差し込んで眩しい。逆光になって黒い人影しか見ることが出来ない。
ご、ご、と重たい足音が近づいてくる。
何度が瞬きを繰り返し、やっと目が慣れてくると、目の前には美しい男が立っていた。
太陽を舐めた肌、波打つ黒髪、涼しげな瞳の中には、海原が煌めいている。
「あ、なたは」
「すまないね、うちのクルーは少々荒っぽくて。まあでも思ったよりは元気そうでよかったよ」
丈夫だね、と笑う。
その笑顔は穏やかそのもので、まさか船を襲い略奪を働いたものの顔ではない。
「さて、君を生かしておいたのは、他でも
……
ん?なんだ、私の顔になにか?」
彼は、浮かべていた笑顔のままくっと首を傾げた。
「ああ、まあ私の美しさに見蕩れるのも無理はない、が、なんだかそういう感じでもないな、どこかで会ったかな」
「え、ああ
……
」
この海を知っている。
煌めく宝石のような色。
黒く長い睫にかこまれて、まるで飴玉のようで美味しそうだと密かに思っていた。
蘇る、あの夏の日々。
濃い緑の影、ひらめく蝶、噎せるほどの花の香り、『パース!』名前を呼ぶ少女の笑顔。
「
……
バルティ」
自然と口から出ていた。
考えがあった訳ではない、ただ、頭のなかで靄がかっていた何かがぱちりと明確になったのを感じていた。
「
……
オマエ」
途端、男から笑顔が消える。
輝く海は、冬の荒んだ灰色の海面となり、造り物の冷たさでパーシヴァルを見た。
「何処で知ったかしらないが、二度と、その名前を口にするな」
「ああ、君」
「もう少し利口な男かと思ったが、そうでもないようだ」
重たい音を立てて、硬い踵がパーシヴァルのこめかみを蹴りつける。
散々殴られて、もはや殴られていない場所などないような状態の身体に、その一撃は重たかった。
頭が揺れる。視界がチカチカと明滅する。バランスが取れない。船が揺れたのか身体が揺れたのかわからない。
ぐらっと体重が後ろに流れて、パーシヴァルはそのまま倒れ込んだ。
薄れていく意識のなか、湿った床板に響く重たい足音だけが聞こえたのだった。
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