マエバ・セイボスキー
2025-09-06 20:27:56
23897文字
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# ふぁぼくださった絵描きのイラストに字書きがSSを沿える

①デート日和(パーバソ) 現実さんありがとうございました。
②夏に消える(パーバソ) 横川さんありがとうございました。
③冬にあそぶ(かねこりゅ) 壮真さんありがとうございました。
➃きれいな男(パーバソ) ほととさんありがとうございました。
⑤蝶よ花よと(パーバソ) 本条さんありがとうございました。
⑥迷子の子猫(パーバソ) やまみちさんありがとうございました。
⑦世界一甘く(パーバソ) はんちょーさんありがとうございました。
⑧帝王の憂鬱(パーバソ) 藍田さんありがとうございました。

①デート日和


「でかけませんか」

そう、提案されたのは先週末のこと。
この一週間バーソロミューは何を着ていこうか、どこにつれていかれるのかとそればかり考えていた。
誘ってきたのは目下、付き合うのかどうなのか、お互い友情だけだと言い逃れするのは若干厳しいんじゃないのか、というそわついた関係を続けていた相手。
おそらく、気がある。はず。
とは思うものの、違ったらどうする?一歩間違えたら海に真っ逆さま。頼りない一枚板は歩む度にゆわゆわと弾み、不安定そのものだ。もしかしたらそれは堅牢な石橋かもしれないが、目隠しされていれば、なんだかわかりっこない。
倒れ込んだベッドの上でごろりと寝返りを打った。
部屋は、クローゼットの中身をぶちまけたかのような状態になっている。
うんうん唸る耳元で、スマホまでううんと唸りだした。
通知は、バーソロミューを悩ませているその人。
出掛ける先は、買い物に付き合って欲しい、とのことだ。
念のため、ドレスコードがありそうな場所に行くかどうかだけ確認したが、その心配はないとの返事と予定の場所は車で1時間ほどの海沿いにあるモールだと分かった。
彼とは些か生活環境が違うので驚く事もあるが、今回は問題無いようだ。
スマホを持った腕をぼふっとベッドに沈ませて、目を瞑る。
……
暫く考えて、勢いよく起き上がった。

快晴。
バーソロミューは、まぶしさに目を細め、胸ポケットに差していたサングラスをかけた。
テンプルに髪が引っかかって跳ねていないかも、しっかりチェックする。去年のクリスマスに買ったD&Gのグログラン・サングラス。サングラスはいくつあっても良い。ほぼ毎日するものだから消耗品だ。セルフレームを買いがちだから、今回は細いメタルフレームにした。控えめなゴールドが肌の色に馴染んで良いと、我ながら思う。
フラット前のガードレールに腰掛けて、ぼんやりと通りすぎる車を眺める。少し早すぎたかも知れない。今日は彼の車でピックアップされて、目的地に行く予定だった。
目の前を車が通りすぎていく。この辺りは狭い道が多い、どの車もどこかしらにぶつけた後がある。そんななか、ぴかぴかの国産車がその性能を存分に発揮しながら滑らかに停止した。
ゆっくりと窓が開く。
「やあ、おはよう」
今日も、パーシヴァルの顔はとても整っていた。
そのまま、小一時間のドライブを経て二人は予定通りのモールに辿り着いた。海岸沿いにあるショッピングモールは揃わないものは無い程に巨大だ。
駐車場からは、鱗のように煌めく海原がよく見えた。砂浜にはパラソルが飴玉のように散らばっている。
「さて、何処へ行こうか」
隣に立つパーシヴァルを見上げる。ちかり、と耳元のカフに陽射しが反射する。
今日、彼は珍しくアクセサリーを身につけている。今まで見たことがあるのは小指のリングくらいのもので、あとは飾りっ気のないタイプだと思っていた。とはいえ、今日のカジュアルにまとめた装いはセンス良く纏められていて、端的に言えば『バーソロミュー好み』だった。バーソロミューはどちらかというと普段はノーブルな服装を好むのだが、くだけた場でカジュアルウェアを着こなすところが好ましい。それに、いつもとのギャップが、非常に目を楽しませてくれる。
パーシヴァルはシンプルな濃紺のシャツ、アンクル丈のチノパンにモカシンシューズというカジュアルな出で立ちだ。けれど、Tシャツはしっかりとした生地と無駄な皺のなさから少なくとも安価な大量生産品でないことは明白だし、シューズだってちらりと見えるタグにトリッカーズのマークが見える。イヤカフにしたって、ニッケルメッキの質感ではない。間違いなく十八金だろう。バーソロミューには見る目がある。価格帯だけみたら超高級という程ではないものの、確かな品質を身につけている手抜きではないその軽装が大変、好ましい。
「パーシヴァル」
「はい?」
「ひとまず、腹ごしらえしようか?」
ひとしきり彼の姿を眺めたバーソロミューは満足して、食事の提案をした。二人とも、食べることが好きだ。折角カジュアルにやってきたのだから、カジュアルなものを食べた方が良い。なにか買ってその辺のベンチで食べよう。彼とはそんな風に過ごしたことはない。パーシヴァルは嬉しそうに了承してくれた。
それから、見つけたファストフード店でバーガーを5つ買った。パーシヴァルが3つ、バーソロミューが2つ。一つは同じ種類を選んだけれど、他はバラバラでお互いに食べさせ合ったりした。
(まるで、カップルじゃないか……
うっすら気恥ずかしくも思いながら、それでもその日常の非日常を満喫していた。
こころが沸き立つような、柔らかな羽で擽られているような感覚。
久しく感じたことのないそれに、言葉に出来ない感情がわき上がる。
年甲斐もなく、彼に、恋をしている。
「さて、それじゃあ目的を果たしに行こうか」
「目的?」
「買い物があるって言ってただろう?」
パーシヴァルははっとして、頷いた。
「ああ、そう、そうなんです。知り合いの──」
パーシヴァルのはにかむ笑顔が止まって見える。冷えた石を飲み込んだかのようだ。聞きたくなかった、夢を見ていたかった。先ほどまでの楽しい気持ちは一瞬で消え去り、いまはただ、己の愚かな勘違いがあまりにも恥ずかしい。
けれどその今にも走り去りたくなるような感情は、きっと隠し通せたはずだ。せめてもの矜持として、彼の前でなにも変わらない自分でありたい。
パーシヴァルはいずれかのご令嬢への贈り物を選ぶのに、バーソロミューの助けが欲しいと言ってきたのだ。
パーシヴァルはセンスが良いし、同じハイクラス同士であれば自分などいなくとも問題無いのではないかと言うと、どうやら『普通の』贈り物にするよう怒られたというのだ。
その顔に浮かぶ気恥ずかしそうな、照れたような笑みを、バーソロミューは見たことがない。
勝手に、同じなのだと思っていた。それは、大きな間違いだった。
どうしてそんな恥ずかしい思い違いをしたのだろう。
人から向けられる感情には敏い方だ。こんな勘違いをしたことはないのに。
理由は、簡単に思いつく。
バーソロミューが、彼を好きだったからだ。
だから、そうであってほしい、という願いが目を曇らせた。
小さなナイフで心臓のかわを剥かれるような心地を隠しながら、笑みを浮かべた。なんでもないふりをして、君が選んだものならばきっとなんでも嬉しいだろうと口にする。
結局、見も知らぬご令嬢への贈り物は、ネイルケアセットとなった。最近流行になりはじめたナチュラルテイストが売りの、ボタニカルな香りがユニセックスで人を選ばないセットだ。
パーシヴァルが、手の美しい人だ、というのでそれに決まった。
美しく華奢な手が、彼の大きな手で手入れされる様を想像しそうになって、そっと頭の隅に追いやった。
なんとはなしに見た己の手には、シルバーのごつい指輪がはまっていて、潮に荒れて乾いている。
バーソロミューの選んだ贈り物で、きっとその美しい手はさらに美しくなるのだろう。パーシヴァルの、大きな手によって。
「それじゃあ、パーシヴァル。今日は楽しかったよ」
ガードレールを乗り越えて、見送りに車を降りてきたパーシヴァルと向き合う。
朝と同じ場所。
朝と同じ相手。
朝とは違う、気持ち。
「ええ、こちらこそ。付き合って頂けて助かりました」
「いいや、何もしていないさ」
肩を竦め首を振る。
逸らした視線の本当の意味には、きっと気付かれない。
「じゃあ、また」
「また連絡します」
「OK、今度は言っていたシーフードの店にでも行こうじゃないか」
「楽しみにしています」
いつも通りだ、問題無い。手を振り、フラットに向かう。
「バーソロミュー!」
その背中を、パーシヴァルが呼び止めた。
……何か、忘れた?」
気付かれないように息を吸って、振り返る。
大きな男にとって、ガードレールの高さなんて大した障害にはならない。ひょいとまたぐと、すぐにバーソロミューの前に辿り着く。
「いえ、いいえ、けれど……
アイスブルーが困惑に揺れる。何かに悩んでいる。
「どうしたんだい? 私が何かしたかな」
「そうでは、ないのだけれど」
「そう? じゃあこの手を放して貰えるとありがたいのだが」
掴まれた手首が、燃えるように熱い。思考の端に追いやったあの大きな手が、今は可愛げのない手を捕まえていた。
一瞬、緩んだその手は、けれどすぐに再びぎゅうと手首を掴む。まるでけして離すまいとするように。
「バーソロミュー、私の、勘違いであればそう言って欲しい」
「うん?」
「私はなにか……貴方を傷つけることをしてしまっただろうか?」
……は」
『何を的外れを言うのか、君の大きな勘違いだよ、確かにほんの少し頭痛がするけれど熱さのせいかもだ、大きな問題ではないし、君が何かしたわけではないさ、さあわかったらこの手を放してくれたまえ、私はなにも、傷ついてなんていないよ』言葉が頭を駆け抜けて、その一つも口から出てこない。
見開いた目で見たパーシヴァルは、真摯に此方を見つめてくる。
「朝はいつものように笑っていた、いつからか貴方の瞳の端々に悲しみが滲んでいるような気がしてならない、考えてみても原因がわからないのです。バーソロミュー、私は貴方を悲しませたくはない」
悲しみの元凶が、縋るように言う。
バーソロミューは、口の端に引きつるような笑みを浮かべた。
「パーシヴァル、君は、なにか、勘違いを」
「バーソロミュー、そんな風に笑わないで」
「っ」
「どうか……、私が到らず貴方を傷つけたのであれば、私はなんとしても償いたい。貴方の幸せが私を幸せにするのです」
握られた手が熱い。バーソロミューは、困惑に首を振り、その手を振りほどこうともがく。
「パーシヴァル、君は、そういう、ことを」
軽々しく言わない方が良い。きっと、勘違いをしてしまう。
「バーソロミュー、どうか笑っていて欲しい、美しい貴方。そのためになら私は」
「パーシヴァル! やめてくれ、そんな」
「どうしたら貴方の憂いを取り除けますか? 私は、」
「パーシヴァル、君は、きみ、は…………?」
バーソロミューは、はた、と気付いた違和感に首を傾げた。
何かおかしくはないだろうか。
うん?と首を捻り、一度目を瞑り、再び目を開く。
すぐ間近で、美しい顔をした男が、今にも泣き出しそうに情熱的な視線を注いでくる。
……あれ?
「パーシヴァル? 君」
「はい」
「君、もしかして」
もしかして。
熱っぽいアイスブルーが溶け出しそうな温度で見つめてくる。
じわり、と顔に熱が集まってくる。
「き、きみ、きみは」
もしかして、私のことが、好き、なのか。
パーシヴァルは、少しも変わらない真剣な眼差しで微かに首を傾げた。
「ええ、勿論です」
何をいまさら、とでも言うように頷く。
……
耳が熱い、額まで、そのうちに頭の中が沸騰したみたいな心地になった。
「ぱ、ぱーし、う゛ぁる」
「はい?」
「と、とりあえず部屋でお茶でも飲んでいく?」
うれしいやらはずかしいやら。
バーソロミューは、ぐるぐると目を回しながら、どうにかこうにか、それだけを口にしたのだった。