拝田さんの話

『HAM』の夢(※広義)小説

エンディングノート


「そういや終わりの活動って書いて終活だとか、エンディングノートだとかってあったけど、今でもあんのかね」
 煙草の煙を吐き出して、隣人はポツリと呟いた。
「HAMのご時世といえど、一般人が他人の記録を覗けることは早々ないですから。遺言書もエンディングノートも現役ですよ」
 そう返して、深々と煙を吸い込み、ゆっくり吐き出す。
「淡黄さんは書いてないんですか?アナログ派でしょう」
「いやー、生きてるうちに書き残したいことが多すぎて、自分のことは後回しになってるんで」
 そういえばこの人は今はもう跡形もないとある町の記録を書き綴ってる人だった。
「何かしらちゃんと遺しておいた方がいいんじゃないですか?人間いつ死ぬかわからないですし」
「それは俺も身にしみてよく知ってる」
 うんうん頷いてる隣人を横目に、短くなった煙草を携帯灰皿に押し付ける。
「私も念の為書いてるんですけどね」
「エンディングノートを?」
「連れ合いもいない独り身ですから」
「そう言われると俺も書いとかなきゃなーって気になってくるね」
「父が亡くなった時はまだ学生の身だったし、事情が事情だからそれどころじゃなかったんですけど、結構大変ですよ。お金は母も管理してたからまだなんとかなったけど、あれ暗証番号わからないとかなってたらほんとどうしようもなかったと思います」
「俺が書くより親に書いてほしくなってきたわ、エンディングノート」
 一応長男だしなーと、ぼやきつつ、淡黄さんもまた煙草を灰皿へ押し込んだようだ。
「しかし暗証番号だのパスワードだのメモするの嫌だな。なんのための暗証番号でパスワードだと思ってるんだ」
「それはそうなんですけどね」
 身も蓋もないオチだ。……これオチっていうのか?


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 2020/07/24