拝田さんの話

『HAM』の夢(※広義)小説

坊っちゃん


※本編よりちょこっと前、木兆先輩がまだ新人だった頃の話。

----


「木兆!」
「すみません!」
 先輩にどやされて部屋を駆け足で出ていく姿を見送り、入れ替わりに拝田が入ってくる。
「おーおー、また怒鳴られてんだね、あの坊っちゃん」
 拝田は勝手知ったるなんとやら、慣れた手付きでコーヒーメーカーから自前のカップにコーヒーを注ぐ。
「なかなか慣れないみたいだねぇ」
「拝田さん、座るなら向こうのイス使ってください。机にもたれかからないで」
 はいはいと言いつつ、拝田は示された椅子に腰掛け、入れたばかりのコーヒーを一口。
……今さっき私、あの子のこと『坊っちゃん』って言った?」
「言いましたね」
 僅かな沈黙を挟んで神妙に問いかける拝田に、あっさりと三鳥は一言で返す。
「うわ、マジか……完全に無意識だった……
「ついでに今『あの子』って言いましたよ、新人のこと」
 顔を覆う拝田に容赦なく三鳥は追い打ちをかける。
「あー……やだな、もう。二十代を子ども扱いとか、私は何歳だよ……あ、もう三十過ぎてるんだった」
 コーヒーを飲みつつ指折り数え、拝田は嘆息する。
「嫌だねぇ、歳は取りたくないもんだ。ねぇ、ミドリちゃん」
「サトリです」
 歳の差を嘆くならまずその呼び方をどうにかしてくれ、とは思う三鳥だが、なんとか飲み込んだ。
「でもまああれか、三十路から見りゃ小学生も大学生もだいたい子どもか。そんなもんだな」
「いや、そこは一括りにしちゃ駄目でしょ」
 自分のコーヒーを入れながら三鳥が投げかけたツッコミに返事はなく、拝田はカップを一気に傾けた。


----

 特にオチない。

 2021/02/07