拝田さんの話

『HAM』の夢(※広義)小説

記憶と記録

 今どき紙のメモ帳に鉛筆でメモをとる、時代錯誤な男に出会った。
「時代錯誤と言うけど、この紙切れが金にも勝る価値を持つ日がいずれ来るよ」
 男はニヤニヤ笑って言った。
「君は平安時代を知っているかな?およそ千年前の出来事を、どこまで正確かは知らないけど、我々は知っている。当時を伝える資料が残っているからね。
 でも今の時代の資料は、千年後に残っているかな?」
 言われて初めてゾッとした。
「デジタルデータの寿命は案外短い。技術は日々進歩しているけれど。デジカメで撮ったデータよりフィルムの方が寿命は長い。……フィルム写真を知らない?ああそう……
 男はつまらなさそうな表情を見せたが、すぐにまた意地の悪そうな笑顔に戻る。
HAMこれは恐ろしいものだよ。便利だけど、大事なものを見失わせる。
 君、思い出せる最古の記憶ってどんなものだい?初めて自転車に乗れた日を覚えている?春の匂い、夏の眩しさ、秋の音、冬の空気……大切な人の顔を思い出せるかい?」
 HAMを見れば思い出せるはずだ、初めて自転車に乗った日のことなんか。
 HAMを見なくても思い出せるはずだ、あの人の顔ぐらい。
 そう思ったのにどうしてだか何も思い出せずに、ただ男のニヤニヤ笑う顔を呆然と見つめていた。


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 HAMに対する淡黄さんのスタンス。

 2020/02/13