拝田さんの話

『HAM』の夢(※広義)小説

映画の話


 まだ学生だった頃、配信サービスで見た映画のことを時々思い出す。
 私が生まれるずっと前の、国民的アニメシリーズの長編映画のひとつ。
 主人公たちが巻き込まれてたのは、便利さを求めすぎた末にロボットに支配された星を、人間の手に取り戻す戦い。
「あー、懐かしいね。俺も小学生の頃見て、結構トラウマに……生まれるずっと前って言った?そんな前だっけ?」
 ベランダの仕切り越しに、スマホの明かりが灯る。
「うわ、93年か……新しい方だと思ってたのに、全然新しくないな……
 紫煙をくゆらせながら、隣人はぼやく。
「淡黄さんはリアルタイムで?」
「劇場に行ったわけじゃないけどね。親がレンタルビデオ借りてきたのを見たなぁ……まあストーリーうろ覚えなんだけど」
 淡黄さんはスマホでそのまま映画のあらすじなどを見ているようだ。
「あー、そっか、そういう話だっけか。あの迷宮の入り口がめちゃくちゃ怖いのと、糸巻きの歌ぐらいしか覚えてないわ。あー、あと、最後の『また洞窟からやり直そう』みたいなセリフ」
 リアルタイムに子供の頃見たのと、二十年以上経ってそこそこの年で見るのとでは、記憶に残るものも大きく違うだろう。
「あの映画の頃はさ、まだスマホどころか携帯電話も一般的じゃなかったんだよ。ダイヤル式の黒電話も家によっては残ってたぐらいだ」
 一回り以上歳の離れた隣人の話に耳を傾ける。
「それでも『洞窟からやり直そう』って聞いて『そんなの無理だ』って思ったね」
 私があの映画を見たのは平成も終わる頃だった。
 平成初期の子供が見た印象とは大きく変わるところもあったと思うが、同じ印象もあったようだ。
「自分の足で歩ける私らでも、電気ある生活捨てろって言われたら無理なのに、機械に頼りきりで自分の足で歩くこともままならないような人たちが洞窟からやり直すとか、死ねって言ってるようなもんですよね」
 深く煙を吸って、吐く。
 災害で長期停電をくらった記憶もある身としては、もう一日だって勘弁してほしい経験だ。
 電気があるって素晴らしい。
「一かゼロか、みたいな極端な話だよね、あれ。便利な道具は使えるに越したことないけど、全部頼りきりにしちゃうのはどうかと思う」
「今の御時世見たらまた思うとこある話だと思うんですよ、あれ。まあ、今の若い子がどう思うかは知らんけど」
 右手を掲げて天を仰ぐ。
 曇り空のようで星は見えない。
 HAMは確かに便利であるが、全てを任せるにはあまりにも頼りない。
 そう思うのは年寄りの思考だろうか。
 きっと生まれた時からHAMがあって当たり前の世代には理解できないだろう。
「俺から見たら、拝田さんも若い子になるんだけどね」
「ははっ。私は古い考えの奴なんで、若かねーですよ。年寄りだとは言いませんけどね」


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 2020/07/03