すだ
2025-08-30 21:23:09
26599文字
Public 主スバカグ
 

離れていても 繋がる心

交際前。舞手スバルのケガレ浄化のお手伝いをしたいと申し出た嫁カグヤが、
何故かマウロ、ひなと共にアズマを巡る旅に出る話。
25,000字ほどありますので、お時間のあるときにどうぞ。
離れ離れで行動することが多いですがスバカグです。
スバルとカグヤの考えと関係も少しずつ変わっていきます。
注意書きは1ページ目に続きます。
#スバカグ


5.

 あの意気込みはどこへやら。あれから何日も経つのに想いは告げられず。
 今日も今日とて仲良さそうに秋の里でカグヤと茶をすするひなを、恨めしそうに眺めている自分にスバルはうんざりした。
 ひなが得意げにこちらを見ている気がして更に腹立たしい。
 モコロンは人間たちのやりとりに興味がないらしく、スバルが作った焼き芋を頬張っている。
「まだ話し足りないよー。カグヤさん、今日はうちに泊まっていきなよ」
「え? でもご迷惑じゃないですか?」
「全然へーき! ね? いいでしょ?」
「では、お言葉に甘えて」
「やったー! パジャマパーティだ!」
 ひながカグヤの手を取りくるくる回る。困ったように笑いながらされるがままの幼馴染。仲が良い。
 じとっと見ていると、ひなに「スバルくん、顔が怖い」と指摘されてしまった。
「ずいぶん仲が良くなりましたよね……
 羨望を隠さずぼやくと、ひなはそりゃあね、とカグヤに寄り添った。
「ふた月以上も毎日一緒にいたんだもん。たくさんお話しして楽しかったよね」
「そうですね。ひなさんは色々なことを知っていて、お話を聞くだけで楽しいです」
 よほど羨ましそうな顔をしていたのだろうか、カグヤは仕方ないと腰に手を当てながら口を開いた。
「スバルは私と交流を深めたいのですか?」
「え、まあ……そう、だね」
 思わず素直に頷いてしまった。
「では今度、スバルのところへ泊まりに行きますか? 共に過ごすと仲が深まると分かりましたし」
「無理!」
「えっ」
 顔を手で覆い全力で拒否するスバルを、カグヤは呆然と見た。
 ショックを受けたように口を開ける幼馴染が可愛い。可愛いけどお泊まりなんて流石に色々耐えられない。絶対に無理だ。
 隣でやり取りを聞いていたひながけらけらと笑う。
「スバルくんも苦労するねえ」
「え? え?」
 全く分かっていない様子のカグヤに、今に見ていろと闘志を燃やすスバルである。
「カグヤさん、仕方ないよ。スバルくんはもう大人なんだし、カグヤさんが泊まりに行ったらお付き合いしてるんじゃ? って思われちゃうよ」
 すかさずひなが助け舟を出してくれた。ありがたい。
「それもそうですね……。スバルに迷惑をかけるわけにはいきません。軽率なことを言ってすみませんでした、スバル」
 スバルとしては軽率なカグヤを懐柔したい気持ちでいっぱいであるが、ここはぐっとこらえる。そうでないと何のために今まで努力してきたのか分からない。


 ひなに部屋の片付けをするから、ふたりで散歩でもしてきたら? と送り出された。カグヤがあまりにもスバルの気持ちに気づいていないので可哀想に思ったのかもしれない。
 昼下がりの秋の里をゆっくり散策する。
「そう言えばスバル、こんなにゆっくりしていていいのですか?」
 カグヤに問われ、スバルはそういえば彼女に何も伝えていなかったことを思い出す。
「オレは午後からお休み。あとのことは頼んできたから大丈夫だよ」
 意外なことを聞いたとばかりに、カグヤの瞳が見開かれる。今日も紅藤色の瞳は美しい。ころころ変わるカグヤの表情だけで、こんなにも愛おしいと思ってしまう。
「無理をすると誰かに心配かけるって分かったから」
「スバル、最近変わりましたよね」
 カグヤの言葉に、まあそうかもねと頷くと彼女の表情が険しくなった。何故そんな顔を。変わってはいけなかったのだろうか。
「お慕いしている方のために変わろうと……?」
 聞き取れないくらいの小さい声を、しかしスバルは聞き逃さなかった。それはキミだ。言いたい言葉をぐっと飲み込む。
 とにかく、カグヤにだけは誤解されたくない。すかさず訂正する。
「ちょっと里のみんなに諭されることがあってね。もっともだと思ったから、少しずつ意識を変えようとしてる。誰かのためとかじゃないよ」
 そう告げると、明らかにカグヤの表情が安心したものに変わった。もう、どう判断すればいいか迷う。彼女が見せた安堵の表情は幼馴染への執着か、それとも別のものなのか。
 ちなみに誰かのためじゃない、というのは大嘘だ。カグヤのため、彼女に嫌われたくない一心でやっている。
 最近モコロンのふたりを見守る顔が一層生温かくなっている気がする。
 同時に、お前はいつ行動するんだ? と問いかけられているようにも。
 分かってるよ、とスバルは思う。けれど、記憶と共に取り戻しつつある恋情は生半可なものでなかった。自分でもその熱量に圧倒されるときがある。
 死が予感される過酷な使命へ赴く大切な人に、せめて慰めになればと贈った枯れない梅の枝の髪飾り。カグヤから贈られた、生涯手放すつもりのない組紐。
 まさか互いに生き残るとは想像もしていなかったから、今になって随分重いものを贈ってしまったな、と思う。
 だがカグヤは髪飾りをとても大切にしてくれているようで、先日は手入れのために布が欲しいと個人的に依頼をされた。そのときのスバルの心情ときたら。
 ここまで宝物のように扱われては、流石にスバルだってカグヤが自分のことを好いてくれているのは分かる。
 だが、相手はカグヤである。幼馴染として、兄貴分として純粋に慕っている可能性が大いにあるのだ。
 以前、カグヤが春の里の小さい子たちから「スバルくんとはこいびとなの?」と聞かれていたことを思い出し、スバルはこめかみに手を当てた。
 断じて盗み聞きではない。たまたま近くを通りかかったときに聞こえてしまったのだ。気になって立ち止まってしまったが。
 『スバルですか? 親同士が決めた許婚ですね。恋人ではなく、同志といった感じでしょうか』
 彼女は表情ひとつ変えずそう答えていた。質問した子たちは、カグヤの言葉が難しかったらしくポカンとしていた。流石にあの頃よりは進展していると思いたい。
 それに、カグヤ自身の問題もある。彼女が黒竜と犯した罪。彼女が贖罪のみに目を向け幸せになることを拒絶している限り、スバルや周囲が何を言ってもカグヤには響かないだろう。
 ただ、カグヤの気持ちを待っていると寿命が尽きてしまう可能性があるので、ここらでぶちまけてみるのもいいかもしれない。
 大丈夫、彼女がスバルのことを嫌いにでもならない限り、どんな理由をつけられても諦めるつもりはない。
「いって!」
 突然足裏に痛みが走りスバルは声を上げた。隣を歩くカグヤが驚いて彼を見上げる。
「どうしました?」
 足元を見ると落ちていた毬栗が目に入った。毬栗を踏み抜くのはスバルの恒例行事だ。またやってしまったとトゲトゲした表皮を足裏から引き抜く。幼馴染が呆れたように彼を見た。
「ぼーっとしているからですよ。何を考えていたんです?」
「うーん……キミのこと?」
「え」
 冗談混じりにそう言うと、カグヤの頬が色づいた。今度は違う意味で悲鳴を上げたくなるスバル。
「冗談を言わないでください」
 顔を逸らすカグヤの手をそっと握る。はっとこちらを見る彼女の紅藤色の瞳にスバルが映る。
「冗談じゃないよ。オレはいつも、カグヤのことばかり考えてるから」
 少しずつ、少しずつ彼女への想いを告げていく。動揺するようにさまよう視線が意識してもらえているようで嬉しい。
――ほ、ほら! そろそろひなさんのお片付けも終わったのではないですか? お待たせしてはいけませんので急ぎましょう!」
 早口で捲し立てるとカグヤがスバルの手を引いた。繋いだ手はそのままで歩き出す。解かれなかったことに喜びが増す。
 これから少しでもカグヤがスバルのことを意識してくれるようになればいい。今はまだ、それだけでいい。
 ここは秋の里。見上げれば赤、黄、茶、緑――様々な深みのある色彩が目を楽しませてくれる。
 いつかふたりの関係も色づいて欲しいと思いながら、スバルは前を歩く幼馴染を愛しげに見つめた。