すだ
2025-08-30 21:23:09
26599文字
Public 主スバカグ
 

離れていても 繋がる心

交際前。舞手スバルのケガレ浄化のお手伝いをしたいと申し出た嫁カグヤが、
何故かマウロ、ひなと共にアズマを巡る旅に出る話。
25,000字ほどありますので、お時間のあるときにどうぞ。
離れ離れで行動することが多いですがスバカグです。
スバルとカグヤの考えと関係も少しずつ変わっていきます。
注意書きは1ページ目に続きます。
#スバカグ



1.

 春の里の気候は、この地を見守る神の名の通り常にうららかだ。柔らかい陽射しと、ほどよい降雨が植物をすくすくと育てる。
 穏やかな気性の人たちが多く、道端で世間話をしては笑い合うような和やかな雰囲気がある。
 そんなのんびりとした里の一角――春の社の境内は今、その牧歌的な集落とは似つかわしくない不穏な空気に包まれていた。
「その話、オレは賛成できない」
 日頃、柔和な態度を崩さないスバルだが、いつになく固い表情で幼馴染に言い放つ。彼の反応を予想していたのかカグヤは嘆息し、スバルに向き合った。
「何も死地に赴こうとしているのではないのですよ。そこまで頑なに反対しなくてもいいじゃありませんか」
「危険なことには変わりない。魔物退治ならともかく、オレはキミに危ないことはして欲しくない」
「まあなぁ……。これは黒竜が関わっていることだし、カグヤに影響がないとはオイラも言い切れないぞ」
「さっきから何をそんなに深刻な話をしているんだい?」
 突然ふってわいた明るい声に、他に誰もいないと思っていたふたりと1匹はぎょっとして振り返った。
「チャオ!」
「マウロさん!?」
 驚くスバルの隣で、モコロンがやれやれと肩をすくめた。
「まーた自慢のトレジャーイヤーか?」
「まあね! 分かってきたじゃないかモコローン」
「分かりたくなかったよ!」


「なるほど、カグーヤさんはケガレ浄化のお手伝いをしたいんだね」
 事情を理解した様子のマウロにカグヤは頷いた。
「はい。私ではケガレを浄化することはできませんが、場所を探すことはできます。探し出したケガレの位置を地図に記しておけば浄化の効率が上がると思ったんです」
「でも、それをスバールが止めたと」
「はい。危険すぎますよ。カグヤは黒竜の乗り手だったんです。ケガレへ必要以上に近づいたら何か悪いことが起きるかもしれない」
「なるほど。どちらの言い分もわかるよ。そうだなあ……
 腕を組んで考えるマウロに、ふたりと1匹の視線が集中する。突如乱入してきたこの冒険者が、あっと驚く解決策を思いついてくれないものか。
「じゃあこうしよう! オレが一緒に着いていくよ!」
 名案だ! とばかりにマウロが高らかに宣言した。
「何の解決にもなってない……!」
 スバルはがくりと肩を落とした。


「まあ聞きなよスバール」
 マウロの言い分はこうだ。彼は自分の飛空挺を持っている。他の移動手段より早く各地を回れるはずだ。更にマウロは腕の立つ冒険者である。解毒や回復の技を持つため、ドクケガレ花やネツケガレ花から受けた傷を癒すことができる。
 カグヤひとりで行くよりも、危険は少ないはずだ。
「確かにそうですけど……
「スバールはカグーヤさんの性格をよく知ってるんだから分かるはずだよ」
 カグーヤさんは、いくらこっちが反対しても家出してでも実行するってね! と断言するマウロ。
「そこまではしませんよ。スバルが首を縦に振るまで諦めませんが」
「どっちにしても厄介だなあオイ」
 モコロンが不服そうに鼻を鳴らす。マウロの言うことがあまりにも的を射ていたので、スバルは頭を抱えた。
「そもそも、基本的に無茶なことを言わないカグーヤさんが、どうしてそんなことを言い出したのか、スバールは確認してみたのかい?」
「え?」
 マウロの言葉に、スバルはカグヤを見る。彼女は余計なことを、とでも言いたげにマウロを見ていたが、幼馴染の視線に気づくと観念したように息を吐いた。
「どうして? カグヤ」
 言いにくそうに逡巡した後、彼女はゆっくり口を開く。
……私なりの、罪滅ぼしのつもりで」
「罪滅ぼし?」
「私と黒竜がばら撒いてしまったケガレは、今もアズマ中に点在しています。ルーンの流れを正すためにスバルだって一刻も早く浄化したいと考えている筈です。ですが、あなたには沢山やらねばならないことがある。それならせめて私の体を使って、その手助けをできればと思ったんです」
「カグヤ……
 淀みない澄んだ瞳でカグヤは言う。
「たとえ己が傷つこうとも、それ以上の厄災を私は呼び込みました。そのくらいのことは当然のことと受け入れています」
「受け入れないでよ……。オレは、キミがこれ以上傷つくのは嫌だ」
 スバルを見るカグヤの表情が曇る。きっと自分は酷い顔をしているのだろう。
「そんな顔しないで、スバル。そもそもあなた、怪我をする前提で話をしていますけど、私は別に好き好んで怪我をしようなんて思っていませんからね?」
「いやぁ、今までの行動から考えるとそれは信用できないぞ……
「モコロンは黙って」
「事実を言ったまでだろー!」
 カグヤにぴしゃりとはねつけられたモコロンが抗議する。話がややこしくなりそうだったので、スバルが後を引き継いだ。
「カグヤの覚悟は伝わったよ。本当は行かせたくないけど、反対してもキミは聞かないだろうから」
「それじゃあ」
 パッとカグヤの表情が明るくなった。
「うん、行っておいで」
 彼女に頷いてから、スバルはマウロに向き合う。
「マウロさん、提案はありがたいです。ご存知の通り、カグヤは少し道に迷いやすいですし無茶をしがちなので。力を貸してください」
「スバル」
 カグヤからの鋭い視線を感じるが、あえてスバルは無視した。
「勿論だよ! オレに任せてくれ」
「ただ、マウロさんひとりに任せてしまっていいのかなあ、と一抹の不安が……
「確かに……
「ん?」
 きょとんとした顔のマウロを、スバルとモコロンは不安げに見るのであった。


「無理無理無理無理! マロさんだけに任せるなんて危ないにも程があるよ!」
 真っ青な顔でひなに反対され、やはりとスバルとモコロンは顔を見合わせた。
「前に教えたかもしれないけど、この人すごい確率で罠にかかるんだよ! 危なかろうが何だろうが興味のあるものに突撃するし! ひながいなければ命を落としそうなことが沢山あったの!」
「そんなことないよひーなちゃん。ひーなちゃんに会う前はひとりで旅をしていたんだから」
「絶対運が良かっただけだから!」
 ここまでひなに言われるのだから、マウロが今まで危ない橋を渡り続けていたのは間違いない。それが冒険の醍醐味と言われればそれまでなのだが。
「なあ相棒。やっぱりカグヤとマウロだけで送り出すのは危険なんじゃねえかな」
「モコロンもそう思う?」
 ヒソヒソと話し合う舞手と白竜を見兼ねたのか、ひなが口を開いた。
「仕方ないなあ……。それならひなも着いていくよ」
「え? いいんですか?」
 渡りに船と顔を輝かせたスバルに、ひなは苦笑する。
「だってスバルくん、カグヤさんのことを心配しすぎてお仕事に支障が出そうなんだもの」
「うっ……
 図星をさされ胸を押さえるスバルに、追い打ちをかけるようにマウロとカグヤが続ける。
「ダメだよスバール、ちゃんと仕事しなくちゃ」
「そうですよ。心配してくれるのは嬉しいですが、公私混同はいけません」
「正論だけど、なんかこいつらに言われると複雑だな……
 半眼でぼやくモコロンにひなが同意する。
「あはは、そうだね。まあ、ひなの方もSeed本部からケガレについてもっと報告が欲しいって指令が出ているから、丁度良かったんだけどね」
「マウロと旅をしてきたひななら、ふたりを助けてくれそうだな。どうだ? スバル」
 モコロンに尋ねられ、スバルは腕を組む。
「うん、確かにひなさんがいてくれれば安心だけど、もうひとりくらいいた方が良くないかな?」
 スバルの提案に、ひなは首を横に振った。
「うーん。短期間で達成したい任務だから、3人より多い人数はお勧めできないかな」
「そうですか……なら仕方ないか。カグヤ、頼むから無茶して大怪我なんてしないでよ」
 スバルに懇願されたカグヤは黙り込んだ。
「ちょっとカグヤ……
「善処します。大丈夫、生きてさえいれば何とかなりますよ」
「本当に大丈夫!?」
「そうそう、生きていれば全てオッケーさ!」
「こんな考えのヤツがふたりもいて大丈夫なのか? オイラ頭痛くなってきた……
「くれぐれも頼みますよ、ひなさん」
 眼光鋭くひなを見るスバルに、彼女は頬を引きつらせた。
「スバルくん顔が怖い! うーん、ちょっと荷が重いけど、がんばるよ」
「大丈夫だよ、スバールは心配性だな!」
「一番心配かけそうなお前が言うな!」
 モコロンの指摘に、全くこたえていない様子のマウロは朗らかに笑った。


 そしてあっという間に出立の日がやってきた。
 夏の里にあるマウロの飛空挺前には、スバルを始めとする四季の里の面々が揃って見送りに来てくれた。
 六神も見送りを望んでいたのだが、里を無防備にするのは良くないとカグヤに諭され諦めたのだ。
「カグヤさん、ほんっとうに気をつけてね! お腹が空いたからってそこら辺のキノコを食べちゃダメだよ」
「い、いろはさん。流石に懲りたのでもうしませんよ」
「カグヤちゃん、ぶじに帰ってきてね!」
「ありがとう、すずちゃん」
 そんなことをしていたのか……と後ろから何か言いたそうにしているスバルに気づいているのかいないのか、カグヤはひとりひとり丁寧に挨拶をしていく。
 最後に、スバルとモコロンに向き合った。
「行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい」
「お前の旅の無事を祈ってるぞ!」
「ありがとう、モコロン」
 そうして彼女は旅立った。


「良かったのか? 別れの言葉があれだけで」
「良い訳ないだろ……!」
「あー、やっぱそうか」
 モコロンに尋ねられたスバルが拳を握りしめながら身悶える。
「言いたいことは沢山あるけど、あんまりくどくど言うと嫌われちゃうってヤチヨさんが」
「そうよスバルくん。そういうのは野暮ってものよ。過保護はほどほどに。親しき仲にも礼儀あり、なんだから。それが好きな子」
「わー! わー!」
……大切にしたい人なら尚更、でしょ?」
「ハイ……
 ヤチヨからお茶目に目配せされ、赤面するしかないスバルだった。頼むから大声で好きとか言わないで欲しい。
 というか、カグヤのことが好きだって誰かに公言した訳でもないのに、どうしてこの人には知られているのか。
 マウロの飛空挺が、夏の里の強い日差しを受けながら遠ざかっていく。
「まあでも、無事に帰ってきてくれれば、それだけでいいや」
「だな!」
 飛空挺を見送るスバルの隣で、モコロンがくるりと回った。


 遠ざかる夏の里を見ながら、ひながため息を吐いた。
「あっという間に見えなくなっちゃった」
「そうですね……
「よし、じゃあケガレ探索ミッションのおさらいしよ! カグヤさん、神様達にもらったお札は?」
「はい、ここに」
 カグヤは荷物袋から束ねられた札を取り出した。
「よし、ちゃんとあるね。ええと、ケガレ花の根本にこのお札を貼ると、ルーンの吸収を抑えて毒や炎を撒き散らさなくなるんだよね?」
「はい、クラマさんからそう聞きました」
「力を封印した後、地図にケガレ花の位置を書き込むまでが一連の流れだね。その作業を確認できるかぎり全部終わらせたらミッション終了、と」
 ひなの任務に対する認識は完璧だ。カグヤは頷いた。
 何故こんなものがあるかというと、時は旅立ちの前に遡る。
 旅の準備に忙しかったカグヤの元に、秋の神クラマが訪ねて来たのだ。
 彼はあまり外出する神ではなく、ましてカグヤの元にわざわざやって来ることはなかった。
 何の用かと驚くカグヤに、彼は紙の束を差し出した。
『これは?』
『俺の力を込めた札だ。イカルガに手伝ってもらって作った。ケガレを祓うまではいかないが、力を抑えることはできる筈だ』
『こんなに沢山……
 秋の神から札を受け取ると、カグヤは礼を言った。
『クラマさん、ありがとうございます』
『すまないな、このくらいしか手伝えなくて』
『いえ、充分ですよ。被害が広がらないだけでもありがたいです』
 クラマは本当に優しい神だ。カグヤの旅のことをひなから聞き、心配になったのだろう。
 聞けば、マツリやフブキの所にも赴き同じ効果の札を作ってくれたのだとか。
 そして、その3種の札はカグヤの手の中にある。
「こんなにも沢山の人たちに助けていただいているんだな、と身が引き締まる思いです」
 クラマ達の札以外にも、四季の里の皆から旅に役立ちそうなものを貰い、飛空挺に乗せている。
「そうだね、こんなに応援してくれる人たちがいるんだよ」
「皆さんのためにも、目的を果たしたいです」
「うん、がんばろーね!」
「はい!」
「おー!」
 ひなの掛け声を合図に、カグヤと操縦中のマウロの声が重なった。