すだ
2025-08-30 21:23:09
26599文字
Public 主スバカグ
 

離れていても 繋がる心

交際前。舞手スバルのケガレ浄化のお手伝いをしたいと申し出た嫁カグヤが、
何故かマウロ、ひなと共にアズマを巡る旅に出る話。
25,000字ほどありますので、お時間のあるときにどうぞ。
離れ離れで行動することが多いですがスバカグです。
スバルとカグヤの考えと関係も少しずつ変わっていきます。
注意書きは1ページ目に続きます。
#スバカグ


3.

 春の台地。
「よし、これであらかたこの辺りのケガレの場所は書き込めたんじゃないかな?」
 目的が果たされ満足そうなひなの姿に、カグヤは微笑みながら答えた。
「そうですね」
「少なくとも上空から目視できる場所は潰せたんじゃないかな」
 マウロの言葉にひなが不服そうに眉をひそめる。
「マロさん、目視しようとするのはいいけど低空飛行し過ぎだよ! 墜落しないかヒヤヒヤしちゃった。寿命が縮まったらどうしてくれるの?」
「オレの腕を信じていないのかい? ひーなちゃん! オレは悲しいよ!」
「泣き真似してもダメー!」
「確かにあれは危なかったです。マウロさんて、本当に怖いもの知らずというか……
「冒険に危険はつきものだからね!」
「自分から危険を作ろうとしなくていいから」
 じろりとひなに睨まれるが、マウロは全く気にした様子はない。
「今日の夕飯は何にしようか?」
 彼のたくましさは見習うべきだとカグヤは感心した。
「カグヤさん、くれぐれもマロさんの真似はしちゃダメだよ」
 何か悟ったらしいひなが注意してきた。


 春の里で物資を補充することにした一行は、いろは茶屋へ立ち寄った。
「お帰りなさーい、みんな!」
「おかえりなさーい!」
「皆さま、ご無事で何よりですわ」
 茶屋で働く三人娘に迎えられ、カグヤたちは各々好きなものを注文する。
「春の里はお変わりないですか?」
 カグヤに問われ、いろはは笑顔を見せた。
「うん、大丈夫。定期的にムラサメさんやサカキさんが見回りをしてくれてるし」
「そっか、良かったね、カグヤさん」
 早速団子を頬張るひなにカグヤは頷いた。
「はい。名残惜しいですが、休息を取ったら夏の里へ向かいましょう」
「そうだね。はあ、お団子美味しいー」
「ひなさん、お団子包むから持っていって」
「本当!? ありがとう、いろはちゃん!」
 束の間の休息を楽しむマウロとひなを残し、カグヤは里の入り口へと向かう。
 旅立つ前に施した結界の状態を確かめるためだ。
……あれ?」
「どうかされました? カグヤ様」
 後をついてきたうららかに、カグヤは尋ねる。
「私が出発する前より、結界が強くなっている気がします。うららかさん、何かご存知ですか?」
 ああ、と春の神が朗らかに笑う。
「それは、スバル様とモコロン様の加護ですわ」
「スバルとモコロンの?」
「はい。カグヤ様が強化して下さった結界のことを知ったおふたりがお力添えを」
「そうですか」
 無意識に札をそっとなぞるカグヤの様子に、うららかは目を細めた。


 春の里を出て、夏の海辺を回っていたときのこと。
「ひゃー、あっついねえ。ここら辺で休まない?」
「そうですね、そうしましょう。マウロさん、水はいかがですか?」
「いいね! グラーツェ、カグーヤさん」
「水と言えば、結構飲んじゃってるからどこかで補充しないとね。近くに水場ってあったっけ?」
「そうですね……
 ひなに問われ、カグヤが記憶を探っていると、マウロが声をかけてきた。
「あれ、井戸じゃないかな?」
「え?」
 マウロの指し示す方を見遣ると、確かに井戸があった。どうやら出来て間もないようだ。
 こちらとしてはありがたい。早速井戸へ近づくと立て看板が目に入った。
『誰でもご自由にお使いください――夏の里有志』
「へえ、夏の里の人たちが作ってくれたんだね」
「ブラーヴォ! アズマの人々の心配りには感動してしまうよ」
 ひなとマウロの隣で、カグヤは考え込む。
「カグヤさん? どうかしたの?」
 ひなに問いかけられ、カグヤはかぶりを振った。
「いえ、何でもありません」


 その後、夏地方を巡ったカグヤたちは各地で井戸が新設されていることを確認した。何故急に増えたのかは夏の里へ寄った際に判明する。
「ああ、あれな。スバルが言ってきたんだよ」
 夏の神であるマツリが簡潔に答えてくれた。
「いやー、夏地方って暑いじゃん? アタシは平気だけど、人間たちは水がないとネッチューショー? になっちゃうから水分補給できる場所を作りたい、って」
 アタシの力でドッカーン! って掘れるバクダンを使って作ったんだ、と大したことではなさそうに言う。
「普通そんなに簡単に井戸は掘れないんだよ。アズマの神様ってすごいなあ」
「さすがマツーリだね!」
「フフーン! もっと褒めていいぞー」
 ひなとマウロの感嘆の声に、マツリは胸を張る。
「やはり、そうでしたか」
 カグヤの言葉に、ひなが首を傾げた。
「カグヤさん、スバルくんがやったんじゃないかって気づいてたの?」
「はい。春の里でも私が張った結界を強くしてくれていましたので。誰かを助けるために、自然と手を貸せる人なんです」
「ふーん。そう言うこと、すぐ分かっちゃうんだ。本当に仲良しなんだねえ」
「そうですか? 別に普通のことでは……
「少なくともひなは全然気づかなかったな。多分マロさんも気づいていなかったと思う。ひなたちもスバルくんとは仲良くしてもらってるけど、カグヤさんほどスバルくんのことを知らないからね」
 からかうでもなく発せられたひなの言葉に、カグヤは面映い気持ちになった。スバルは色々な人たちと親しくしているが、彼のことを一番知っているのは自分なのかもしれない、と思うと嬉しかった。


 秋の野原。夏の暑さと打って変わって心地よい気候にカグヤたちはひと息つくことができた。道中の色とりどりの木々が郷愁を誘う。
「春の里の皆さんはお元気でしょうか……
 ぽつりと零すカグヤに、ひなは彼女の顔を覗き込んだ。
「カグヤさん、ホームシックになっちゃった?」
「ほーむ……?」
「ああ、ええとね、春の里に帰りたくなっちゃった?」
 ひなの言葉に、初めてカグヤは自分が春の里に帰りたがっているのだと気が付いた。
「そうですね、ひなさんに言われて気が付きました。私、春の里に『帰りたい』と思っているのですね」
「嬉しいなぁ」
「? どうしてひなさんが嬉しいと思うのですか?」
「だって、カグヤさんは春の里にいたいって思っているってことでしょ? てことは、ひながアズマに住んでいる間は春の里に行けば、カグヤさんに会えるってこと! そりゃ嬉しいよー」
 旅が終わっても何度も会いに行くからね! とひなに言われ、待っています、私も遊びに行きますねとカグヤも微笑む。
 この旅で、カグヤとひなは更に仲良くなった。眠れない夜はホットミルク片手に他愛のない話をするようになった。
 カグヤは武芸や舞以外のことはからきしだったが、博識なひなの話は興味深く、目を輝かせて聞き入った。
「ひなさんにとっては久しぶりの帰郷ですね」
「うん! みんな元気にしてるかなー。あ! ヤチヨさーん!」
 ヤチヨが手を振っていることに気づいたひなが、大きく両手を振る。
「お疲れさまー! 良かったらご飯食べて行って」
 わーい! と足取り軽く店へ向かうひなの姿に、カグヤは顔を綻ばせた。
「あら、マウロさんは?」
「飛空挺のメンテナンスをしてから来るって」
 ヤチヨと話しながらひなが席に着く。
 既にクラマとカイがヤチヨの店で始めていたので、ひと声かけてカグヤもひなの隣に腰掛けた。
「ああ、おかえり」
「よっ! お疲れさん!」
「こんばんは。お二人ともお元気そうで何よりです」
 カグヤが頭を下げると、神達は何とも言えない顔をする。
「? どうかしましたか?」
「お前も大変だな……
「まあ頑張れよ」
 何が何だか分からないカグヤだったが、どうやら心配してくれているようなので礼だけ言っておく。
 酒呑むか? とカイに言われたが、すぐに発たないといけないため丁重にお断りした。これ以上鬼神のツケを増やしてはいけないし。
「ああ、そうそう。カグヤちゃん、スバルくんから預かり物があるんだけど」
 ヤチヨに声をかけられ、彼女から荷物を渡される。包みを開けると厚手の服が3着入っていた。
「防寒着ですって。これから冬の里に向かうんでしょう? 風邪ひくといけないから、って3人分預けていったのよ」
 カグヤの後ろで『こういうところが……』とか、『まあこれならセーフじゃねぇか……?』とか聞こえてくるが、何のことだろうか。
 カグヤはありがたく受け取り、ヤチヨにも感謝を伝えた。
 途中でツイランとコタロウが合流し、整備の終わったマウロも加わって居酒屋ヤチヨは満員御礼となった。
 久しぶりの賑やかな食事に、カグヤも自然と食が進んだ。本来静かな環境を好む彼女ではあるが、気心の知れた相手との食事は楽しかった。そこまで馴染んだことに驚きはするが、嫌ではなかった。