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mishiadd
2025-08-15 15:39:53
32031文字
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曇天に唾を吐く
【本編軸】「俺でなんて興奮できないくせに」「言ったな?」とかいう若気の至りすぎる売り言葉に買い言葉でギッスギスの最悪で険悪な関係性のままなぜか肉体関係を持ってしまうクソデカ感情グッチャグチャ恋愛白書【剣伊】
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五、
魔力が足りないのだと高飛車に請われれば、そうなった原因はほぼすべて伊織にあるのだから、伊織に断る権利などあるわけがなかった。
――
それにしたって、限度があると思う。
遠慮のない男だとは常々思っていた。否、カヤや同盟相手にはそれなりの配慮を見せたりもするのだから、セイバーのこの態度の悪さは特別に自分にのみ向けられたものであることは、伊織もうすうす感づいていた。
悪態や皮肉も甘んじて受けよう。物理的に財布の中身が空になるまでは、本人が食べたいというものもそれなりに喰わせてやる。
……
だがこれは。
伊織の体調にも障る。もしかすると魔力不足などというのは単なる方便で、伊織をへとへとに疲弊させて戦場に出さなくすることこそが、セイバーの真の狙いなのかもしれなかった。わからない。
とにかく、伊織の立場としては魔力供給を断るわけにはいかない。しかし、こうも頻繁に続くと流石に腰に影響が出てきていた。
確か、魔力供給というのは粘膜の接触を伴えばいいのだと言っていた。更に言うと肌が触れ合うだけでもいいが、粘膜に比べて効率が悪く時間がかかる。
――
であるならば。
互いに妥協ができる筈の折衷案として、伊織はセイバーに提案してみた。
「口吸いだけで代替できないか」
「は?」とセイバーが伊織を見る。呆れたような顔で大きな目を眇め、それから言った。
「きみ、口吸いが好きなのか」
「好き嫌いの話ではない。
あれ
だって、俺もおまえも好き好んでしているわけではないだろう」
ん、とセイバーが一瞬言葉に詰まる。きょと、と目線を彷徨わせて天井を見上げながら、「
……
そうだな」と硬い声で言った。
「正直に言ってしまうと、いい加減腰がつらいのだ。俺の都合ですまんが」
「
……
きみの鍛え方が足りぬのだ。
……
で、口吸いであればいいと?」
「うん」
頷きながら、伊織が羽釜から炊き立ての米を茶碗によそう。畳に腰を下ろしているセイバーの前に置かれた膳にそのまま置いてから、自分も膳の前に座った。朝餉の支度が整った。
かちゃかちゃとセイバーが箸をつける。先程までの不機嫌な表情が吹き飛んで、上機嫌で言った。
「ん、この干物は美味いぞ、イオリ。後で茶漬けにする」
「それはどうも」
伊織が肩を竦める。かちゃかちゃとこちらも食べ始めると、やがてぽつりとセイバーが言った。
「それでも別に構わぬが」
「うん? 茶漬けには好きにするといい」
「そうではない。
……
口吸いだけでも別に構わぬが」
ああ、とようやく思い至った顔をした後で、伊織が目に見えてほっとした顔をする。それを見てまたぞろ機嫌を損ねたように唇を軽く突き出したセイバーが、もごもごと口に干物を含んだまま言った。
「その分、時間が掛かるぞ。それは、わかっているのだな?」
「うん? うん。
……
二倍か三倍か知らんが、それでも身体的には楽だろう」
ふうん、とセイバーが目を眇めて横目で伊織を見る。その不躾な視線に気づいた伊織が、「なんだ」と問うた。
「いや。
……
きみ、身体が楽かどうかだけで決めるのだな」
「ん?」
「その
行為の中身
自体は、きみにとってはどうでもいいのか」
「う
――
ん」と伊織が呆けたような顔をする。それから、ん、と怪訝そうに眉を顰めて言った。
「他に
――
何かあったろうか。身体が楽かどうか以外の論点が。
……
これは、おまえにとっても良い話である筈だ。したくもない俺とのまぐわいを回避できる手段が他にあるのだとしたら」
セイバーが伊織を見る。ただ黙って真っすぐに見据え、ぐっと口許を一文字に引き締めている。
「うん?」と伊織が片眉を跳ね上げてセイバーを見返す。
――
やがて、「
……
そうだな」とセイバーが言った。
「
その通りだ
。
――
珍しく、私ときみの意見は合致している」
「だろう。
……
よく考えてみたら、よしんば時間が掛かるとしても口吸いであればまとまった時間である必要はない。暇を見つけてそのたびにさっと済ませてしまえばいいのだから、うん、随分楽になるのではないだろうか」
いやに得心したように伊織がひとりで勝手に頷いている。その横で白飯を掻き込んだセイバーが、ぱちん、と箸を膳に置いた。
「『
暇を見つけて
、
ちまちまと
』。
――
イオリ、きみの
自信過剰
にはほとほと恐れ入るよ」
「自信
……
過剰
……
?」
セイバーの言葉の意味を捉えかねた伊織が訝しげに眉根を寄せる。まだ朝餉を終えていない伊織に、セイバーが手を伸ばす。
――
常ならば着物の合わせ目に伸びていたところで、伊織の肩を掴んだ。
まだ汁の残っている椀を気にして、伊織が身を引く。空いた距離を詰めながら、伊織を障子の際に追い詰め、そのまま折り畳まれた布団の上に押し付けた。
布団に身を沈めながら、伊織がセイバーを見上げている。ほんの少しだけ、透き通ったガラス玉のような瞳に、不安の色がよぎっていた。
ぺろり、とセイバーが己の下唇を舌先で舐める。にいい、と口の両端を意地悪く持ち上げた。
「
口吸いの方が楽だ
などと
――
もう一度、この私の目を見て真顔で言ってみるのだな、言えるものならば」
◆
くちくちと、濡れた粘着質な音だけが長屋の中に響いている。
ん、と時折伊織の鼻から弱々しいような声が抜け、口を離した瞬間に、ふ、とセイバーの荒い吐息が洩れる。再び唇を合わせようとしたセイバーに、伊織が訴えた。
「セイ、バー。
……
もう、一刻はとうに過ぎている
……
」
「
時間が掛かる
、と言った筈だ。それはきみもわかっていた筈だな?」
「もう、正午もとうに過ぎて
――
せめて、買い出しに
……
」
「いつもはそんなこと言わぬではないか」
どことなく苛立った語気で、セイバーがぼそりと言う。折り畳んだ布団の上に伊織の上半身を押し付けたまま、彼の両の手首をまとめて掴んで伊織の頭上で縫い留めている。
伊織の腰のあたりに馬乗りになったセイバーが、制止も抵抗もできない伊織に一方的な口づけを繰り返している。
――
酸欠なのか、はあはあと伊織の息も上がってきていた。
「セイバー、一度
――
休憩を
――
ん
……
」
くちゅ、と再びセイバーが伊織の唇を食む。どちらのものとも知れない唾液でてらてらと濡れた唇が、散々擦られ吸われて真っ赤に充血し、痛々しく腫れていた。ぴくん、とセイバーの掴んだ両手首が小さく震える。そのまま、ぬるりと何度目かもわからず舌を差し入れ、ぬるぬると口蓋を擦り、伊織の舌に舌を絡めて吸った。
セイバーの手の中で、伊織の両手が震えている。口づけたままセイバーが伊織の双眸を見遣ると、きゅっと強く瞑った眦の端に、小さな涙の粒が溜まっていた。
――
ぺろり、と伊織の下唇を舐める。ぴくん、と目に見えて伊織の全身が震える。
ちゅぽ、と音を立ててセイバーが己の舌を伊織の口の中から引き抜く。身体を起こして伊織を見下ろした。
――
いつもの
光景と大差のない顔をした伊織が、はあはあと肩で呼吸をしながら、ほんのりと頬を紅潮させている。焦点の合わない透き通った月夜の瞳が、障子から射し込む午後の光を反射してちらちらと光っていた。
ぺろり、と自分の口の端に溜まった唾液を舐め取って、セイバーが不敵な笑みを浮かべて言った。
「ほら、イオリ。
……
口吸いの方が楽だと、そう言ったのはきみであったが?」
「
――
……
」
「私は、このまま口吸いを続けても構わぬぞ。
……
私はな
」
ぎり、とセイバーが歯を食いしばるようにして嗤う。空いた手が伊織の着物の合わせ目に伸びかけて、思い留まる。フ、と鼻で荒い呼吸を洩らし、再び身を屈めて伊織の顔に己の顔を近づける。
「
私は一向に構わぬが
――
きみこそこのまま、
生殺し
でよいのだな?」
「
……
」
「うん? イオリ。
――
このまま、いつまでも、
口吸いだけでよいのだな
?」
すっかり疲れてだらしなく半開きになっていた伊織の赤い唇が、きゅ、と引き結ばれる。ぎり、と涙の滲んだ双眸で、セイバーを睨みつけた。
「
……
どういう意味だ、セイバー」
「どう、とは。
――
きみが、この方が『楽』で、『手っ取り早い』と言ったから、『本当に
きみは
それでいいのだな?』と確認している」
「なぜ俺の意思を訊く。今まで俺がどう思っているかなどおまえが気にしたことなど一度だってなかったろう」
「そういえばそうだ」といった顔で、セイバーがきょろりと大きな瞳を巡らせる。それから、伊織を見下ろして言った。
「それで? どうなのだ? イオリ。
……
このまま、口吸いだけでよいのだな?」
「
――
おまえこそ」
「うむ?」
両腕を頭上に戒められたまま、伊織が口の端を持ち上げて不敵な笑みを浮かべる。はは、と嘲笑うように言った。
「おまえこそどうなのだ。
……
口吸いにとうに
飽いている
のはおまえだろう、セイバー」
「
――
言ったな」
セイバーが伊織の両手首の戒めを解くと同時に、伊織の肩に両手を掛ける。力任せに伊織の身体を布団に押し付けながら、噛みつくように伊織の唇に吸い付く。無遠慮に舌を絡めて激しく吸い、舌根に痛みを覚えた伊織の身体がびくりと震えた。
反射的にセイバーの身体を押し遣るように伸びた伊織の手を、セイバーの手が捕らえる。空いた方の手が
――
伊織の着物の合わせ目に掛かる。
ぴたり、とセイバーが動きを止める。伊織がセイバーを見た。互いの、互いを睨みつけるような苛烈な視線がかち合った。
「
――
埒が明かぬのだ」
ぼそり、とセイバーが言った。
「このままでは、埒が明かぬから
――
だから、
手っ取り早く終わらせる
。ただ、それだけだ。そのためだけだ」
「ああ。
……
こんなに時間が掛かっていたのでは代案の意味がない」
「私は面倒は嫌いだ。さっさと終わらせよう、イオリ」
言って、セイバーが伊織の着物の合わせ目を緩める。そのまま伊織の首筋に噛みつくと、伊織の両腕が伸びてきてセイバーの首に絡みついた。
「は、あ」と熱い吐息が伊織の唇から洩れる。
――
衝動のままに、セイバーが伊織の肌をきつく吸い、引き裂くような勢いで伊織の襦袢を剥ぎ取る。
――
結局、
どちら
の方が時間が掛かってしまったのか、わからなかった。
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