河童の皿箱
2025-08-03 08:31:36
13128文字
Public 遊戯王:長め
 

Redone

時空怪盗がとある歴史のターニングポイントをやり直すだけ。


 はてさて紆余曲折。怪盗一行はようやく連絡を取り、耳の良い雅楽師も捕まえられた。あとは爆弾の回収に臨むのみ。けれど時計工の怪盗は相方の事情に深入りこそしなかったものの、その口調にひどく顔が緩んでしまうのを、なんとかなんとか堪えては、その指示に耳を傾け続けた。なんといっても相手は地獄耳。通信だっておそらく筒抜け。下手なことを言えば、せっかくの捨て身の尽力が無駄になってしまうかもしれない。
 タイムライン上の状況開始は間違いなく、開場と共に爆弾が出現した。やはり、前回とは違う場所に。耳元で胡散臭く囁かれる指示に従って、眼下で押しかけていく人々の波にのまれぬよう、慎重に。外周の屋根を伝い、時には時をわずかに止め、急いで駆けずり回っては、指示された場所へと向かう。助言通り、爆弾の解除ができれば、またひとつ。またひとつ。シップに転送し、天才少女にあとを任せる。
 けれど、前回とは違うことがひとつ。雅楽師がより協力的で、具体的な位置を告げるようになった。おかげで最後の、時計塔への出現までに時間の余裕ができた。最終出現は5つのはず。犯人も、設置に時間がかかるだろう。もしかしたら捕まえられるかもしれないと、人気のない時計等の扉を開けた。

 「よう、お連れさん」。時計工は身構える。そこで待ち構えていたのは、何かと聡い絵師と、この時計塔の作者たる人形師であった。事情と事情が重なって、彼らが自由に動ける状況になってしまった以上、もはや接触は避けられなかったのかもしれない。いや、接触は、そういう運命なのかもしれない。
 ふ、と息を吐き、けれど時計工は口を開いた。「君のことだ。僕たちが何をしているかは気づいているんだろう」。右手の時計を左手で少しいじり、時空のズレから脱出。本当の意味で、彼らに姿を現した。「あぁ。だから、最後の手伝いに来た。つってもホレ、コレだろ? 製作者がいるのが一番だと思ってな。スパイダー、手伝ってやれ」。絵師の一言で、人形師は時計工の側まで歩いて、じっと青白い目で見つめる。時計工が見えぬ顔をちらりと一瞥し、「よろしくね」と言えば、人形師もまた頷いた。
 回る回るは歯車に、揺れる揺れるは振り子の子。タイムラインを確認すれば、とうとう来きたる本番10分前。時計塔のあちこちで、チクタク、チクタクと無機質な、ひどく出来の悪い音が鳴り響く。けれど乱反射してどうにも場所がつかみきれない。すると、人形師は機械の隙間と隙間に体を入れ、程なくして顔を出し、奥を指さした。後を追えば、目的の時限爆弾がそこには仕掛けられていた。手順に従い、解除し、転送する。そうしている間にも、人形師は時計工が見つけられなかった隙間からスイスイ入り、また爆弾を探し当てた。
 ひとつ、またひとつ。次が、最後のひとつ。残り時間は5分。今度こそ、間に合う。「あそこだよ」、と指さす黒衣は、階段を降りていく。スタンバイの時間だ。これ以上彼らの助力は得られない。けれど、これ以上ないほどの助力に頷いては、急いで階段を駆け上がる。

 最後の爆弾が仕掛けられていたのは、この時計塔の心臓部。ゼンマイを自動で巻くための、永久機構のからくり箱のなかであった。慎重に開ければ、見事なパーペチュアルの配列に、息を呑む。ひとつも狂わせてはならない。時間はある。落ち着け。

 指先で捉え、乱雑に貼り付けられた醜い時計を、取り外す。

 箱を閉める。ギィ、ギィ、と、自動機構によってネジが巻かれ、時計に命が吹き込まれていく。ひとつの時計が、静かに時を刻む。これで、全部だ。ピンと張り詰めていた糸がふっと緩み、大きく息を吸い込んで、吐く。肩の力が、すうっと抜けていく。処理済みの爆弾を転送ゲートに放り込んでは、階段を降りようと下を見る。
 ギィと開いた時計塔。何処にいたのか、能楽師。そして、たくさんの楽器を引き連れた雅楽師。ほどなくして、さらに影がもうひとつ相棒が、見知らぬ男をひとり、拘束して連れてきた。
 「おぉ、ご無事でしたかお連れどの!」。妙に甲高い裏声と、通信機越しでは確認できなかった胡散臭い面にとうとうこらえきれなくなり、ブフゥと無様に吹き出しては、時計工は腹を抱えて笑った。「……てっめぇッ!」。目をつり上げて激怒する相方は、けれど暴れる何者かを抑え込みつづけた。
 「いや、いや、ごめん、ごめんねリューズ面白くってぷくく」。「ったく。もう時間ねぇからさっさと情報共有な。10分前、ワゴンがこいつの時計の音に気づいて、居場所が特定できた。んで、セアミンたちがひっそり後をつけててくれてな。おかげでようやくとっ捕まえた。こいつがテロの犯人だ」。押さえ込まれ、観念したかのようにぐったり倒れたその男は、会場内で時間を伝えて回っていたタイムキーパー。絵師はポツリ、「前会った時より目が濁ってると思ったが、まさかな」、と。
 「動機はあー、未来のことだ。約束通り黙っておく。こいつは俺たちが責任を持って未来に連れ帰る。おい、いつまで笑ってんだよリダン! おら、そっちは?」。「あぁ、ふふええとね、スパイダーの協力で、無事にすべての爆弾を解除できたよ。これで今回の状況は終了。これでもう過去のことになったから、僕たちのことを少しだけ話させて」。

 時計工は、P.U.N.K.へと向き合う。「お察しの通り、僕たちは正真正銘の未来人だ。僕たちの目的は、今から始まるショーを、コンベンションを、どうしても見せたい子が居てね。でも、その子はまだ小さくて。今日じゃないとダメだった。テロで狂わされた予定を元通りにしたかったんだ。でも僕たちだけじゃあ、この危機を脱することができなかったよ。力を貸してくれて、ありがとう」。
 P.U.N.K.の長たる絵師は、ケラリ笑った。「そりゃこっちのセリフだ。俺たちの命を救ってくれて、感謝する。んまあ、初めは何事かと思ったけどな。お連れさんの嘘、ヘタックソだったし、時計塔の上にいるアンタも見てたしそれでアンタらが敵じゃないって気づけた」。
 時計工の相方は、げぇと苦い顔をして、「そりゃどーも」、と。「ほら、さっさと行けよ。もう時間なんだろ?」、と続ければ、絵師は笑って頷いた。

 「なあ、せっかくここに来てくれたんだ。その子と一緒に見てってくれよ。過去に描かれた未来像をさ。損はさせねぇぜ?」。