河童の皿箱
2025-08-03 08:31:36
13128文字
Public 遊戯王:長め
 

Redone

時空怪盗がとある歴史のターニングポイントをやり直すだけ。


 テクノロジー・コンベンション。空中都市PONTシティを会場に開かれるその大規模な催し物は、世界各国の技術者を招集し、科学と技術の粋を集めに集めたものであり、『未来が集う場所』として大きな期待が寄せられている。この催しが生み出す経済的利益は数兆に上るとも言われ、円形の会場に数多あるそれぞれのパビリオンでは、開催に向けて建設や搬入等の準備が進められていた。
 このコンベンションの開会式には、PONTシティを代表するアーティスト、P.U.N.K.のパフォーマンスが予定されており、この地に根付いたファンたちもまた、浮足立つような思いで開催を今か今かと待ち続けている。
 会場中央にそびえたつは、P.U.N.K.所属の浄瑠璃人形師、スパイダーが造り上げた時計塔。半導体を一切用いず、歯車とカラクリの組み合わせだけで造り上げた、完全アナログ式の時計塔。一体どこで作られたのか、ここに運び込まれてすぐに組み立てられ、あっという間に完成した。
 スケジュール通りに行けば、開会式の開始に合わせ、時計塔に吊り下げられた梵鐘がその音を響き渡らせては、P.U.N.K.が登場する予定。そう、その予定なのだ。

 時計塔の上。未だ動く気配のない大鐘は、双龍の大口によって繋ぎ止められ、会場を一望できるそこには、スタッフカードを下げていないふたりの男が居た。方や、怪盗のような姿の。方や、それよりは少し質素で動きやすそうな姿の。
 『次こそは、上手くやらなくちゃ』。インカムから聞こえる若い女の声。シップを降りる直前、まだ大人ではない彼女はあまりにもひどい顔をしていた。原因は寝不足、もっといえば、先日、いや、先取りした翌日の結末を、彼女は受け入れられなかったのだ。
 「パーペチュア、肩の力を抜いて。大丈夫だよ、おおよその動きはわかったから」。怪盗が静かに、インカムの向こう側をたしなめれば、向こう側からは大きな息が聞こえてくる。深呼吸をしたのだろう。相棒に目配せすれば、眼下に列をなす集団が現れ、注視する。

 青い髪の男を先頭にして歩く、不可思議な集団。少し背の高い糸目の男と、3人の幼さの残る子らと、真っ黒な衣装に身を包んだ何者か。そう、彼らこそが、オープニングセレモニーを華々しく飾る芸術集団、P.U.N.K.である。
 「来たな」。ふたりの怪盗は目を合わせ、頷く。彼らはこの後すぐに楽屋入りし、準備をし始める。はじめに荷物の確認、次に衣装、一旦出て、リハーサルして、もう一度楽屋に戻る。
 ことが動き出すのは、セレモニー開始まで約30分を切った頃。会場内への入場案内が始まるタイミングで、この会場には時限爆弾が仕掛けられる。もともと仕掛けられているのが作動するのではない。突如として、出現する。

 「おさらいするよ」。憔悴するインカムの向こうと、苦い顔をする相棒をさておいて、モノクルをかけた怪盗は状況確認を開始する。「パーペチュア。もう盗聴は始まっている。彼らの会話の中から、確実に爆弾の場所の情報を拾い集めるんだ。リューズ。君は彼らが盗聴器を外そうとしたり、リハ以外で楽屋から離れようとしたら対応して。前回みたいにテレポートで脱出されたなら、それはもう仕方がない。でも、ワゴンだけは楽屋に留めるんだ。そうじゃないと、爆弾の位置を特定できないからね」。

 彼らは、特にリーダーたる浮世絵師 娑楽斎はとかく動く。違和感があれば確認に出向くし、能楽師 セアミンの気まぐれもある。正直、読めるものじゃない。けれど彼らは、全員で動こうとする傾向がある。だから、動きを留めるならば監禁するのが一番だと判断を下した。そして、雅楽師 ワゴンは、地獄耳の持ち主。どれだけ小さな音でも聞き分け、拾うことができる。
 爆弾を仕掛けているのは、未来人だ。毎回同じ場所に仕掛けるとも限らない。さらに、この塔から一望する広い広い会場内、爆弾1つにつき当てられる時間は長くても約5分。とても、ふたりの足のみでフォローなんてできない。だから、ワゴンの耳が頼りだ。

 前回は、最後には警戒され、時計塔内に仕掛けられたまではわかったが、5つのうち、2つが見つからなかった。間に合わなかったんだ。
 怪盗らは思い返す。爆発と共に精巧な時計塔が崩れ去る様を、崩れる塔に下敷きになる観衆を。塔に立つ彼らだって……

 何故、犯人は爆破テロを企てるのか。今日この日、休みの父に連れられて、幼き日の時科学者が、遠くから遥々ここまで来るからだ。この世界の未来を見に。犯人はこれを阻止し、時の科学者の誕生を消し去ろうとしている。
 避難させるだけならば、爆破予告でも出してやれば、法律上確認せねばならず、観衆もスタッフも、出演者である彼らも、避難できる。けれど、それでは意味がない。彼女の父の休みは、この日しかないのだから。

セレモニーを中断させず、爆破もさせない。この梵鐘をスケジュール通りに鳴らし、彼らをここへ招き、コンベンションを十全に開始させる。何度でもいうよ。ここは『時計盤』に至るまでの、歴史のターニングポイントのひとつ。……武力で強引に過去を変えるなんて、許してはいけない」

 凛と。怪盗は背筋を伸ばす。どこまでそれらしい綺麗事を並べ、正義面しようが、こんな危険な綱渡りをしなくてはならないのは、時を遡るとはいえ多くの命を見殺しにするのは、いち未来人の身勝手に過ぎない。だが、現地人に未来を告げるなど、気狂い以外の何者でもない。けれど。
 目の前に立つ相棒は、笑って頷いた。「今度こそ。時を知らせてやろうぜ」、と。そうだ、彼だけは。
 インカムの向こうの息遣いが変わる。『頑張る』、と。そうだ、彼女だけは。
 己が胸に言い聞かせる。ひとりじゃないんだ、と。
 
「開場3分前には持ち場について。それまでは、犯人を探すこと。いいね?」
「あぁ」
……うん』
「よし。行こう」