河童の皿箱
2025-08-03 08:31:36
13128文字
Public 遊戯王:長め
 

Redone

時空怪盗がとある歴史のターニングポイントをやり直すだけ。


 黒衣の手にある盗聴器。彼らがここに入る前に自分で仕掛けたソレは、今になって自分の首を絞めようとしている。一点、幸いであったのは、この会話はすでに仲間たちに届いており、状況を理解しているということ。そして今自分がやらなくてはならないのは、通信の回復だ。
 絵師は笑った。「おおっとすまねぇ、俺たちゃ有名人だからよ。こういうこともよくあんだ」。絵師は黒衣から盗聴器を受け取り、ざっくりと観察をしてから、また黒衣の手に戻す。この反応ならば、無理してあれを取り返すほうがリスクがあるだろう。「いやはや、皆様は我が未来にも」。そう新たな嘘で塗り固めようとして、「待った」、と絵師が手で制した。
 「過去は語るものだが、未来は作るもんだ。先々知っちゃーつまんねぇ。黙っててくれねぇか」。サングラスによって目は伺えず、赤い化粧によって顔色も分からない。ただただ飄々と笑う男と、隣で微笑むばかりの糸目の男。そして離れた場所で様子をうかがう能楽師が3人と、盗聴器を持って去った黒衣。声色だって常に一定で、けれど調子がついていて。つい耳が行くが、その実には表情も感情も読めぬ壁がある。
今までになかったような強い語感につい怯み、閉口しかけるが、なんとかこじ開ける。
 「これはこれは、どうも失礼いたしました」。「話が分かるじゃねぇか。っし、分かった。ワゴン、話を聞いてやれ。ただし、手伝えるのは本番10分前までだ」。一体どういう風の吹き回しか。けれど絵師が席を立ち、雅楽師の肩をポンと叩いてはぐいとこちらに押し出して、雅楽師の表情がわずかに崩れた。
 「娑楽斎」。「準備はだいたい終わってるし大丈夫だって。後は俺に任せときな。困ってるやつを見過ごすなんて、男が廃るだろ?」。「私には彼が見えないのだが」。「んじゃ、これでも被っときな」。そういって透明人間に被せたのは、絵師の愛用するスカジャンであった。ド派手な龍が背中に刺繡されたそれは怪盗の趣味ではなかったが、けれど非常に良い生地が使われているし、刺繡もまた緻密でよくできている。自分の事情を呑み込んで、大人しく袖を通す。これは、良心でできた拘束具だ。外に出れば、こんな派手なジャケットがひとりでに浮くことになる。受け入れなければならない。
 「セアミン。開場までに外でやんなきゃなんねぇこと終わらせてくるぞ。スパイダー、一旦時計塔を見て来てくれ。んで、未来のアンタさん。その男前と良い服だ。ツレ、居んだろ? 連絡入れるなりしてやれ」。そういって、絵師は能楽師たちと人形師を引きつれ、退室していく。残されたのは、不自然に浮かんだスカジャンと、その正面に顔をしかめる雅楽師のみ。

 「全く。お人よしも困ったものだ」。雅楽師がぽつり零せば、けれどふっと微笑んで、「ところで、ひとつ。本当にお連れは居るのか」、と。怪盗は頷く。「居ります。外に、もうひとり」。答えれば、雅楽師はふむ、と考えこむようなしぐさをしてから、また頷いた。「その服はあいつの大事なものだ。汚されては困る。外で騒ぎになってもいかん。私が音を聞き、貴方が連絡を取って、その方に探してもらうこととしよう。良いだろうか?」。その提案にも、怪盗は愛想よく頷く。「どうも、心の底から感謝いたします」、と。

 なんとか協力まで漕ぎつけられた。連絡も取れそうだ。怪盗は自前の通信機に手をかけ、スイッチを入れ、けれどと引っかかることがひとつ。

 絵師は、本当にこの姿を見ただけで連れが居ると判断したのか? 

 実際、連れは居る。連れに連絡も取らなくてはならない。だが、今の今までその存在には一言も触れてこなかった。なのに、彼は言い当てて見せた。艶めく生地の内側、自前の服。あいつと、揃いの服。

 いや、まさかな。

 怪盗はこれ以上は考えるだけ無駄と思考を投げ出しては通信回線を開き、連れに声をかけることとした。