河童の皿箱
2025-08-03 08:31:36
13128文字
Public 遊戯王:長め
 

Redone

時空怪盗がとある歴史のターニングポイントをやり直すだけ。


 はてさて、意気揚々と乗り込んだ怪盗たちであったが、見渡す限りの人人人。開場していないとはいえ、会場には数え切れぬほどのスタッフと、招致されたアーティストがずいずいと行き交う。目標時空より相関点が僅かにズレた時空から観察ができるとはいえ、せいぜい姿が視認できなくなる程度。衝突すれば確実に違和感を覚えられてしまう。リーダーたるリダンが現状、秘密裏の消極的干渉を掲げている以上、無闇な接触は避けたい。
 開場中央の広い広い庭の中心、カラクリ時計の塔を囲い込むように設けられたステージへと運び込まれていく追加の音響装置。音響と照明のチェックをしているのだろう、何度か轟音になったり、消音になったり。目が痛くなるような光もパカパカと点滅を繰り返し、装飾のために組まれた足場は早急に片付けられていく。次々と他のアーティストたちも現着し、誰が来ている、誰が来てない、衣装は、化粧は、忘れ物は? 申請した機材以外が必要だと言い出す者もおり、怒号や悲鳴も飛び交って、あれやあれやのてんてこまい。
 周囲の動きに細心の注意を払いつつ、隙間を縫うは、怪盗の片割れ、リューズであった。蝶のような形状のマシンを腕に留め、共有されたタイムラインを確認しつつ、行き交う人々にじっと目を凝らし、またはスタッフが持つリストを観察する。探しているのは、当然未来人であった。
 現状、爆破テロの犯人の情報は、未来人であること以外、一切判明していない。未来の指名手配書のリストはあらかた頭に入れているが、犯行は過去にて行われ、これもまた信用に欠ける。強いていうのであれば、この時代のP.U.N.K.に強烈な恨みを持つ者ではないか,と推察自体はできるが、ではP.U.N.K.がどういう人物らで、誰から恨みを買うのかと幼き頃の天才博士に問われれば、しかし怪盗らは閉口せざるをえなかった。

 P.U.N.K.は、後世にも長く語り継がれる伝説のグループである。PONTシティのビル街に驚愕龍を描いては、瞬く間にこの街の話題を掻っ攫い、一躍時人となった。活動頻度は高く、招致された場所での公演のほか、PONTシティでは予告一切無しのゲリラライブを開催。人々の心を掴んで離さず、鮮烈なる色、音、光の中で激しく舞う姿に熱狂の嵐は冷めやらず、誰もが追い求め続けてきた。
 だが、彼らP.U.N.K.についてわかっていることはほとんどない。人々から見た彼らの姿は、それはそれは豊富に残されている。しかし、彼らは公演情報を集約する公式ページこそ作ったものの、自らのSNSを開設せず、果てはインタビュー記事すら見つかっていないのだ。後世に描かれる彼らの姿は全て、人々が見た彼らの姿に過ぎず、彼ら自身が何者なのか、ましてや、時の人として注目される前の情報ともなればさらに極端に乏しくなり、いったいいつデビューしたのかすら判然としていない。 

 それさえ分かれば、ちったぁ目星がつくかもしれねぇのによ。探索の末、ひとまずこのステージ周辺と、招致されたアーティストの中には、未来に指名手配される人物はいないだろうと結論づけた。そうこうしている間にも時は進み、アーティストたちが順番に登場しては、立ち位置や動きを。それに合わせてスタッフがやるべきことを、ひとつひとつ確認していく。
 ここはこんなもんか。怪盗は呟くこともなく、さっさと移動するかと踵を返し、曲がり角で。

 衝突した。

 漏れそうになる声をなんとか堪える。マズったか。勢いのついた予想外、けれどなんとか踏ん張り、急いで離れようとするも、「待てよ!」と腕を掴まれた。
 まずい、まずい。しかし、掴んできた腕は赤いペイントが施され、ゴツくて逃げられない。意を決して目を向ければ、ショッキングピンクのサングラスと目が合う。民族衣装風にアレンジされた舞台衣装、見覚えがある。ぶつかったのは、渦中の浮世絵師であった。
 「その、ぶつかっちまって悪かった。忙しいだろうに」。怪盗は口を開こうとして、咄嗟に閉じる。なぜこの男はこちらの姿が見えているように喋るんだ? ちら、と手袋の甲の時計を見ては、会場の時計と見比べる。確かにズレに入っている、問題はない。
 「娑楽斎、誰と話している?」。後ろをついてきていたのだろう、隣に立った雅楽師が次に口を開いた。こちらの腕を掴んだまま、「え」、と振り返る絵師。「いや、あぁ鼓動が……居るのか、そこに。私には、見えぬ」。見えないこともバレた。力の緩んだ今なら逃げられる
 けれど。
 そんな一瞬の迷いの間に、絵師は怪盗を人気のない道に引き込み、ぐいと壁に押さえつけた。「……あんた、何モンだ?」。絵師はまっすぐに不可視の目を覗き込んだ。情報が少ないとはいえ、彼らはサイキックであるそれは知っていた。だが、まさか、ここまでの視覚を持っているだなんて。衝突自体は事故であったが、これは警戒を怠った自分の責任だ。
 こうなった以上は、もう抵抗はできない。怪盗はフゥと息を吐いては、両手をあげ、無抵抗を示せば、けれど絵師は怪訝な顔して警戒を続けた。

「ここだと邪魔になる。楽屋に来い」