河童の皿箱
2025-08-03 08:22:10
13184文字
Public 遊戯王:長め
 

とある少年が持つサイキックについての報告書

Gボーイとファイアと娑楽斎が実験するだけ。


 バチリ、拳と拳に弾ける火花。ガチン、と拳が打ち付けられれば、完全なる炎には遠く及ばぬ火打石。かつて神と例えた魂をその身に纏い、少年は光り輝く大海と対峙する。
 対する絵師は、戦場たる荒野を黒い霧で覆い尽くし、その内側を蛍光色の水で充しては、大波小波を呼ぶ鯉を使役し、踊るような軽い足取りで、火花の猛攻を難なく凌ぐ。けれどその間も目を凝らし、戯画を憑依させた少年を観察し続ける。
 少年の茶髪には、かの戯画のような赤髪が混じっている。戯画の武器をその腕に嵌め込み、鯉を打ち倒せずとも劇的に向上した身体能力は、的確に鯉の隙間から術士たる絵師を虎視眈々と狙っている。なにより、こちらが手を打てばあの火花は徐々に、しかし確実に強くなる。なるほど、ヒロイックだ。
 そして、本の力、絵の力を纏うといえど、絵の影響を受けるわけではなさそうだ。水を描こうと、火花は一切衰えを見せない。では、これならどうか。絵師は鯉の陰から炎を描いては放つ。けれど、火花はやはり強くなり、炎を真正面から捉え、掴むように打ち消しては、さらに勢いを増した拳は、とうとう鯉の身を貫いた。

 光として霧散していく鯉。けれど、そこに痛烈さはなく、血もなく崩れた鯉の絵は、少年を囲うようにくるり、楽しげに泳いでは、消え去った。「手合わせ、ありがとうな」。絵師が握手を求めれば、少年もまたそれに応えては「こっちこそ、ありがとう」と、握り返す。そして絵師は、少年の後ろに立つ、実態を持たぬ戯画へと目を向けた。「その状態で話せんのか?」と尋ねれば、けれど戯画は苦笑しては首を横に振り、少年を指差した。「話せはできるし、いろいろ戦い方のアドバイスももらってるんです。でも、この時はぼくとしか話せないみたいで」。ふむ。絵師は頷き、次の問いかけを投げた。
 「疲れてるだろうが、いくつか質問させてくれ。この状態でテレポートはできるか?」。旅の中で少年に仕込んだ、サイキックの基本技能のひとつ。言われるままに、少年は脳裏に円を描き、そこに飛び込もうとする……が、首を横に振った。「サイコキネシスは?」。差し出された筆に触れず、手をかざすも、やはり微動だにせず。「テレパシー」。……これもダメだ。また少年が首を横に振れば、絵師はうんうんと頷き、「大体の特性は理解できたぜ。お疲れさん」、と背を叩いては黒き霧を晴らした。

 「さ。今日はもう休んで良いぜ。あぁ、夕飯は美味いとこ見つけておいてくれよ? 俺はレポート書かねぇと」。そう言って、絵師は車に戻って行く。少年もまた変身を解けば、相棒たる戯画が土を踏み、ぐぐいと体を伸ばしてみせた。「ドライブってのも、楽しいもんだな」。「ドライブっていうより、旅行だけどね」。少年がふと、自らの手を太陽に透かしてみれば、そこにはもう、ヒーローの拳はなく、さえなくて細っこい、大して綺麗でもない自分の手があった。
 「……ほんと、リブロマンサーって不思議だね。こんなにいろんな場所に行って、いろんなことをしてるのに、何にもわからないなんて」。少年はぽつり、戯画へとこぼした。「ぼくは、別にヒーローたちみたいな、壮絶な過去があるわけじゃない。人体改造とか、怪しい薬飲んだとか、全然そんなことないんだよ。夢見てた、のはあるけど。でもきっとそれってたぶん、誰でも考えることで。……ねえ、ファイアスターター。どうして、ぼくの声に応えてくれたの?」。

 「なぜって」。戯画はきょとんと。しかし笑って答える。「俺は声に応えたんじゃねぇ。お前の勇気に火をつけられたんだ」、と。