河童の皿箱
2025-08-03 08:22:10
13184文字
Public 遊戯王:長め
 

とある少年が持つサイキックについての報告書

Gボーイとファイアと娑楽斎が実験するだけ。


 絵師の話はこうだ。極東の地では、ありとあらゆるものを神として崇めているのだと言う。絵師からすれば、天使も悪魔も先祖も等しく神であり、本だの車だの水すらも、それぞれに神を宿しており、それを大切にしているのだと。
 神とひとくちにいえど、その力の強さは様々。精霊や妖精に近いニュアンスで、けれど国産みの神も、太陽の神も、先祖の神も、なんなら大陸より伝わりし仏や、少年の国で深く信仰される唯一神もすべてひっくるめて、ぼんやりとしたイメージのもと、纏めて『神』と呼ぶのだそう。

 「つまり、俺にとってはファイアスターターも神なんだ。『Fire Starter』という物語に宿った神がお前。そしてとある少年が何かの拍子にファイアスターターと言う神と契約して、招来してるってのが、俺が現時点でしてる捉え方だな」。絵師は極力、言葉を選び、噛み砕いて、その考えを伝えた。
 戯画は「何を馬鹿なことを。俺が神なわけねぇだろ?」なんておどけるも、けれど少年は理解を示した。「それが、娑楽斎さんの力の使い方だから?」、と。その返答に戯画が目を丸くしては、絵師が頷く。「その通り。俺らはさぁ、伝統芸能をフィーチャーしてるわけよ。俺がやってる浮世絵っつぅのは元々大衆文化んー、観光地特集組んでる新聞とか、アーティストのグッズとかだが、仲間がやってる雅楽と能楽がな、神への捧げ物って一面があるんだ。あと、単純に俺らの国の神様はお祭り騒ぎが大好きで。賑やかにしてりゃあ、神様はどんどん集まってくる。そして俺は、それが見えちまうんだ。良い神も、悪い神も、全部な」、と。
 「俺は、そうして集まってきた神様達とごくごく短時間の契約を結んで、俺は筆で作り上げた仮初の肉体を捧げる。それを依代に、神様にちょこっと現世を楽しんでもらって、俺の願いをすこーしだけ叶えてもらう。要は一緒に遊んで、どんちゃん騒ぎしてくれやってな。契約が終わったら神様には、神様が住んでる世界、幽世にお戻りになってもらう。俺の実体化能力は、だいたいそういう仕組み。俺たちにとっての、神事んー、こっちで言うなら、シャーマニズムの要素が入ってるってわけだ」。
 つらつらと、そんな仮説を述べた絵師であったが、ふとふたりがこんな話について行けているか、チラリと横を見、ようとして、けれど車がガタンと揺れれば、確とハンドルを握るしかなくなった。どうやら、悪路に入ったようだ。ガタガタ揺れる車の中、あんぐり口を開いて何が何だかな戯画に対して、少年はうんうんと頷いた。「ウツシヨ、カクリヨGodではないけれど、Godも含めてSpirit……うん。そういう話、聞いたことある」、と。そんな言葉に、今度は絵師が目を瞠った。「ちっせぇ島国の、すげぇ独特な宗教観の話だぞ?」。けれど少年は臆することもなく、「知ってるよ。ぼくの国でもそういう世界観の作品があったし、そっちの国の世界観を参考に作ったんだってインタビューだって見たし、調べたことあるし……ほ、ほんとだよ! わかってるもん!」と、胸を張って笑ってみせた。

 ……どうやら、本当に理解しているようであった。少年ゆえの純粋さか? そこまで神に縋ったことがないからか? 絵師はひたすらに考えたが、戯画は否と首を振った。
 「さっすがギークボーイ、だよなぁ?」。それを告げられれば、「なんで言うの!」とプンプン怒る少年。顔を真っ赤にしてカミングアウトした戯画をポコポコ叩き、そして絵師は脱力した。

 絵師が仕掛けた話は、紛れもなく宗教の、それも極めて特殊な多神教の話である。一神教の文化圏に住む相手にするべきではないのは、和を尊ぶ故郷では常識であった。どこぞの敬虔なるシスター達や、聖殿に仕えし水遣いには、悪魔を崇拝する邪教、禁術の使い手と勘違いされていた時期もあったし。とはいえ、スピリチュアルの一面が強い、自らの持つサイキックの知識を共有するともなれば、この話題は避けられぬわけで。

 ともかく、フランクに捉えてくれる相手で助かった。