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望月 鏡翠
2025-07-21 23:07:02
10761文字
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リアタイ
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シズメ 04
シズメ/三角 麻弓/南国期間
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旧校舎から新しく建て直されたシズメ高校は、学校内の備品も一通り新しいものが揃っている。新しい量産品の湯呑みと、まだ傷の少ないお盆。綺麗な戸棚の中に、古びた古文書が入っているのはチグハグに感じられた。誰かが見つけるようにと思ってここに置いたのだろうか。もしくは隠しておいたのかもしれない。
禄と顔を見合わせたが、手にしないでそっとしておくという選択肢は存在しなかった。学校内のアクティビティとして先生が置いてくれたものだって構いやしないのだ。 宝探しを楽しみたいし、自分も参加したい。
前回同じように古い紙を見つけたときは、持ち帰ろうとして崩れてしまった。今回は二人とも前回以上に慎重だった。
まずは写真を撮って記録する。カメラを持ってきていなかったので、スマホカメラで角度を変えて何枚か撮影した。
崩れてしまっても後で見返すことはできるくらいしっかりとデータをとったなと確信したあたりで、いよいよ手をかけて、そっと手で持ち上げる。
シズメ霊山山頂の祠と違って、ここの紙は破けなかった。
「やった!」
はしゃいだらその風圧で破れてしまうような気がして、二人は小声でガッツポーズをした。まだ何もわかっていないが、達成感が込み上げてくる。
「何をしているんですか?」
後ろからいきなり声をかけられて、飛び上がった。
指で挟まれた紙が縒れる。このままだと紙が破れる。そう思った麻弓は思わず手を放してしまった。
手から離れたあとひらりと舞い、声をかけた人の靴先に挟まって止まった。
給湯室の入り口に根地屋 碇杜が立っていた。
古びた紙を拾い上げ、首を傾げる。
「ああ、この辺りの昔話が書いてあるとかいうやつですか」
「そう。ここに入ってた! お宝発見」
禄が戸棚を指差す。
根地屋は納得したような声を出したが、顔には釈然としない表情が浮かんでいた。戸棚に古い紙が入っている心当たりがなかったのかも知れない。たぶん学校が始まってから、誰も開かず中を確認していないなんてことはないはずの場所だからだろう。
「これ、持っていっていいやつですか」
駄目だと言われたら写真しか手掛かりがなくなってしまうから、良いと言ってもらえますようにと両手で拝み込んだ。
「いいと思いますよ」
古びた紙が麻弓の元に帰ってくる。
「ありがとう、ねちや」
禄が天井に届いてしまいそうな長いそうな手を上げて喜んだ。
「クリアファイル余ってないですか?」
今にも破れてしまいそうな紙を、広げた両手にそっと落としてもらう。
根地屋は待っていてくださいと言い残したあと、傷がつきすぎて白っぽくなったクリアファイルをくれた。
「ありがとうございます」
「今は非常時だけど、職員室は人がいないときにあんまり出入りしないように」
「は〜い」
こっそりと中を探検していた二人は、そそくさと職員室を後にした。アイスを盗み食いしようとしていたなんて、先生には正直に言えなかったから、ちょうどいいタイミングで古文書が見つかって助かった。
空き教室に場所を確保して、見つけた古文書と辞書を並べる。途中でカメラにしか残っていない前に見つけた古文書も印刷して持ってきた。
「あ、アイスもらうの忘れてた」
それが最初の目的だったはずだ。
宝探しに成功したことが嬉しくて、すっかり意識から抜けてしまっていた。
「本当だ。後でまたもらいにいこ〜」
準備して椅子に座ったら、また片付けるのは面倒になってしまった。
古文書の最初の一文らしきところに取り掛かったが、そもそも読む向きがこちらであっているのかどうかすらわからない。崩字は読みにくくて、どこまでが一文字なのかすらよくわからなかった。
辞書を持ってきてはいたが、何かの役に立ちそうだと思ったから持ってきただけで、崩字の読み方なんて書いてない。
どこから取り掛かればいいのかもわからず、最初に禄がギブアップして机に突っ伏して、麻弓も嫌になって辞書を閉じてしまった。
「まゆみわかったあ?」
「な〜〜〜〜んにもわかんない」
きっと日本語なんだろう。すごく昔に書かれた言葉に違いない。以上。
少し机に向かっていたら、肩が凝ったような気がして腕を伸ばして大きく伸びをする。教室のドアが開いた。
「ああ、使っている人がいたんですね」
学校内を巡回しているところだったらしい根地屋が、教室のドアから顔を覗かせていた。時計を見るとまだ少ししか時間が経っていない。
職員室に立ち寄って用事を終わらせて、出てきたところだろう。
後でいこうと思っていたが、向こうから来てくれるならちょうどよかった。
「先生〜、アイス食べたい」
「ねちや〜、これ読める?」
手を上げた禄と声が重なった。
そういえば、彼の担当科目は国語だ。古い字も読めるだろうか。
彼のいる場所から、机の上までは見えなかっただろうが。今さっき同じ紙を見せたばかりだから、何の要件かわかったらしい。
「少し待っていてください」
「アイスも〜」
先生が戻ってくる前に、隣の机をくっつけてスペースを広くしておいた。
根地屋先生は、生徒が持っていなさそうな国語の資料とアイスの箱を持って戻ってきた。残り三個だけだったから、箱ごと持ってきたらしい。
「先生も一緒に食べる〜」
空き箱をゴミ箱代わりにして、剥がしたビニールを突っ込む。
「崩し文字、全然読めない〜」
「二人に任せる〜」
「先生、わかります?」
古文の便覧か、もっと別の専門資料だろうか。見たことがない本が出てきたのは心強いが、相変わらず麻弓には目の前の紙が何と書いてあるのかわからない。
「古文書の実物を解読するのは初めてだったんです。教科書の古文には大抵、答えがついていますから」
「そうなんだ?」
禄が語尾を跳ね上げる。身長が違うと口の大きさも違うのかも知れない。アイスがどんどん減っていき、もう木の棒が見えていた。
「先生同士で協力しあって解読しているので、力になれると思います。ひらがなよりも、漢字に注目するといいですね」
漢字よりもひらがなの方が読みやすそうな気がしていた。
「今は草書体にもある程度形式があります。ただ昔のひらがなは、漢字の形を残したままのものもあって、それをさらに崩しているので、今の感覚で読み解こうとすると区別が難しいです」
その点、画数が多い漢字で特に使用頻度が少ない文字などは、崩されずにそのまま残っていることが多いということらしい。
解説をもらいながら、古文書と見比べると何となく単語くらいは拾えるようになってきた。
まずは地名。クリアファイルの上から付箋を貼り付けて、解読できた単語をチェックする。
やはりこの辺りの伝承を取り扱ったもので間違いないらしい。何度も出てくる単語は根地屋が海だと教えてくれた。紙が破れていたから、解読できた内容は完全ではないがなんとなく、雰囲気は読み取れた。
ラジオで話していたのと同じ、このあたりの伝承の話だ。
村が海に沈み始めるくだりや、子供を助けるために犠牲になった人々の話が続いたときは、不穏な物語だと不安になった。
だけど、その話は再会の約束のような、別れに対する希望のような、そんな話のような気がした。
「民話
……
? 伝承
……
?」
内容を大雑把に読みといた根地屋は何かを考え込んでいる。他の文献の内容も合わせて考察しているのかも知れない。
「つまりハッピーエンドってこと?」
アイスを食べ終わって手をぷらぷらとさせていた禄が首を傾げる。
「エンドかどうかはわかんないけど、怖い話じゃなさそう」
「エンドじゃないの?」
「え〜、ここから海に沈んだ人たちが戻る編とかあるんじゃないの?」
そちらの方が、今現在海に沈んでいる側としては安心できるというものだ。
「改めてこの土地の郷土史を調べてみるのもいいかも知れませんね」
「きょうどし〜!?」
分厚くてカビ臭い本を想像したのだろう。禄が悲鳴を上げた。
「どこにあるのかわかんないから先生一緒に探してくださいよ、郷土史の本」
空き教室の次は、図書館だ。
二人で根地屋の腕を引っ張った。
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