望月 鏡翠
2025-07-21 23:07:02
10761文字
Public リアタイ
 

シズメ 04

シズメ/三角 麻弓/南国期間



 シズメ高校を囲む海は、まるで南国のように変化していた。
 というとものすごく暑いような気がするが、正直今の日本の酷暑と比べると、対して差がないように感じられる。
 つまり、暑くて湿度があって、日差しが眩しくて、野外にいると倒れそうになるということだ。
 温度が変わりにくい海の環境に影響するのは夏の暑さではなく、一年を通じた気温と海流。気温よりも顕著に変化しているのは水温で、この辺りが年中暖かい地域の海なのだとわかる。
 学校が南国の海に流れ着いたのか。それとも向こうからこちらにやってきたのか。
 南の海は美しいし、写真撮影も捗ったが、ひとつだけ困ったことがあった。
 魚はたくさん網で掬える。しかし、何が食べられる魚なのか全くわからないのだ。図鑑で種類はわかるのだけど、それが食べられるものなのかどうかまでは書いていない。
 ここが現実だったら、南国の魚市場の情報やエスニックフードをすぐに検索できるのに。鮮やかな魚が見た目が毒々しいのだが、実際に毒があるものばかりではない。ただ美味しいかどうかはまた別の話だ。
 唯一使えるインターネットもどき、SizMicで料理の画像をアップしている人に聞いたり、魚の画像をアップして食べられるか募ってみたり。魚料理をしたことがある人でも、初めて見る食材を扱うことになり、困惑は大きい。
 無理をして魚を食べなくてはいけないほど、困窮しているわけではない。
 食料の備蓄はたっぷりあるのだから、お湯を沸かせばカップ麺が食べられるしお米だって菓子パンだってあるし、インスタントのスープや味噌汁を合わせることだって可能だ。
 ただ、少ない情報をつなぎ合わせて試行錯誤したり、料理に詳しい人と頭を突き合わせてああでもないこうでもないと相談したり、そういうことをするのが楽しいのだ。
 最初は魚を捌くのに不慣れだったし、慣れてきたあたりで、海の様子が移り変わってしまった。それでも少しずつ上達していた。
 沖縄の方でよく食べられているらしい魚を、小骨ごと唐揚げにする。
 油って素晴らしいものだ。油に通しただけで、こんなにも美味しい匂いを発しだす。お腹が空いてきた。
 もう何回目かになるから、炊飯器のスイッチを入れてあらかじめお米も炊いている。
 SizMicに投稿したら、気になった人が食べにきてくれる。
 そうでなければ、近くにいた知り合いに声をかける。廊下に出るとたまたまそこに見知った姿を見つけた。
「あ、遥先輩!」
 手を振る。
 田口 遥は部活は違うが、砂浜のゴミ拾いに参加してくれたこともあり、麻弓は親しさを感じている。
 この海には陸地があるが砂浜がない。かつて砂浜だったところが海底に見えるだけだ。この場所では、波があってもプラスチックゴミが流れてくることなんてない。ゴミが流れ着くのも、世界がどこかと繋がっている証だったのだ。
 ああ、やっぱり唐揚げとか食べたいな。
 現実を思い出すと肉料理が恋しくなる。
「みすまゆちゃんだ。どうしたの」
「ご飯作ったので、食べにきてくれませんか?」
 ご飯は、温かいうちに食べた方が美味しい。
「え、いいの?」
「もちろん。アクエリのお礼です!」
 家庭科室に田口を招き入れた。
 今回、食卓に登った魚は、全部一度は料理したことがあるものだ。安心して食べてもらえるものが揃っているはずだった。