葉咲透織
2025-05-19 16:18:27
12537文字
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帰還ifシャアシャリ、全部まとめてみた

帰還ifシャアシャリ企画のために、これまで書いたものをまとめました(一部pixivのリンク)女体化と戻ってこなかったifは抜いてあります。さすがに……。



Who are You?/献身


「あなたは、誰ですか?」

 エグザベ少尉の宝石のような瞳が、私を射貫く。そして彼は、「あっ」と声をあげた。

「いえ、あの、その……
「ええ、わかりますとも。ニュータイプとは、確かにそういうこともあります」

 直感、予知、精神感応エトセトラ。様々な心の能力に優れたニュータイプの中でも、大抵のパイロットは直感に優れていることが多い。フラナガンスクールとやらを首席で卒業した彼もまた、パイロットとして配属されているということは、そういうこと。

 直感に秀でたニュータイプは特に、考えるよりも先に、言葉が出てきてしまうことがある。私にも、覚えがあった。

「まぁ、本当に私のことを忘れてしまったのかもとは思いましたがね」

 ははは、と笑うと、エグザベは肩を落として唸る。

「ううう……申し訳なくありません。でも、僕が中佐のことを忘れるわけないじゃないですか!」
「冗談ですよ、冗談。ほら、いきますよ」

 戦争中とは違い、少し緩んだ空気のソドン内を、私たちは連れ立って移動した。





 「お前は誰だ……か」

 やはり、ニュータイプ相手はやりにくい。エグザベ少尉は、私と同じで感応はやや劣るというが、あの若さだ。あともう一段階くらい化ける可能性は十分にある。警戒しなければならない。

 他の部下たちとの関係も上々だ。シャリア・ブルの教育が行き届いており、信頼しあうクルー同士の雰囲気もよい。

「私だけが異質なわけだが……

 クッと喉が震えた。部屋に備え付けられた鏡を覗き込む。

 灰がかった緑の髪、同色の目。髭は昔よりも面積を増やし、貫禄となって佐官らしさを演出する。停戦して長く、実際の戦闘に出ることはほぼなかったはずだが、見せかけだけでない筋肉も備わっている。

 器は、ソドンクルーが知る男と同じ。中に入る魂だけ、人を、最も人たらしめる魂だけが、違っている。

 シャア・アズナブル。あるいは……

 ――それが私の名前だ。

 月面都市めがけて落ちるソロモンでの作戦の際に、不思議な声と光を見た。時を見た。そう感じた。それから私は意識の一切を失い、次に目覚めたときには、シャリア・ブルが笑っていた。

『なんとなく、こうなりそうだと思ったんです』

 私の勘も、捨てたもんじゃないでしょう? と、私の知らない顔で。

 彼は私を抱き締めた。肉体ではなく、魂で。私の身体はどうなってしまったのか、死んだという自覚はない。精神生命体、というのが自分で出した結論だった。

 『どうか、私をお使いください。キャスバル様。あなたと私が誓った世界を創るのは、やはり私ではなく、あなたなのです』

 言って、彼は私をその身に受け入れた。再び意識を閉じ、次に開けたときには、私はもう、シャリア・ブルになっていた。

「シャリア……

 鏡に問いかけても、彼の気配は感じられない。

 確かに、私の理想を実現するためには、命がいくつあっても足りない。だからといって、君を私の残機にすることなど、考えたことはなかった。

「いつから考えていたのだ、大尉」

 答えはもちろん、返ってこない。鏡に映るのは、しかめ面の「私」の顔だけである。




※※※


 たぶん、最初からわかってたんです、こうなることは。

 飛び込んできたのは光。赤い、尾をひく星。私の心に落ちてきて、熱い抱擁を交わしました。実際に肉体同士を触れあわせた記憶はついぞありませんが、なんだか初めてではないような気がしたのは、魂のやりとりは経験があったからでしょう。

 私は、あなたを諦めたことはありません。どんな形でも、世界はあなたを必要とする。たとえ肉体が存在しない状態でも、魂は永遠不滅だから。

 でも、それではニュータイプにしか届かない。あなたが目指し、私が夢見た新たな世界を創るには、オールドタイプにもあなたの考えを行き渡らせなくてはならない。

 私が通訳することも考えましたが、やはりノイズが入ってしまうでしょう。私も人間ですから、感情というものがあります。あなたの言葉に、私の心は不要なのです。ストレートに、聴衆の心を撃ち抜くための銃は、あなただけのものです。

 ですから、大佐……キャスバル様。

 私の身体をお使いください。あなたと私が誓った世界を創るのは、やはりあなたでないと。

 ああ、心配はなさらないで。私、ソドンではちょっとした無茶をやる指揮官で通してきましたから、中身があなたと交代したとしても、きっと違和感はありません。おおいに彼らを使ってあげてください。役にたつことは、保証しますよ。

 ふふ。戦争中のあなたにはびっくりさせられることが多かったですけど、内心でひやひやしてたんじゃないですか? 私はいつも、無茶振りの言い訳ばかり考えていましたよ。

 あぁ、もう時間です、キャスバル様。どうか、よろしくお願いいたします。私の願いを、私たちの誓いをどうか、実現してください。

 ……それから、これはできればでいいのですが……いいえ、やはりなんでもありません。

 ゼクノヴァの際に、あなたは時が見えるとおっしゃいましたが、私にも見えるでしょうか。

 それはきっと、美しいのかもしれません。ですが、あなたの創る未来の方が、もっとずっと理想的で、涙が出るほど美しいに違いありません。

 キャスバル様、ご武運を。私の身体と能力、うまく活かしてくださいね。

 なんて、天才パイロットであるあなたには、言うまでもありませんでしたね。




(できれば私のことを、ずっと覚えていてください。私の最期を知るあなたにしか、これは頼めないことなのです)