葉咲透織
2025-05-19 16:18:27
12537文字
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帰還ifシャアシャリ、全部まとめてみた

帰還ifシャアシャリ企画のために、これまで書いたものをまとめました(一部pixivのリンク)女体化と戻ってこなかったifは抜いてあります。さすがに……。



ランナウェイ、アローン


 仮面はたやすく、表情を隠す。目は口ほどに、とはまったくの事実である。

 だから、シャアがありえないほどに疲弊していることに気がつく部下もいなかった。八面六臂の活躍をする、エースパイロットにして、誰も考えつかない作戦をひらめき、現状を打破する指揮官。肩書きで皆が自分のことを超人かなにかだと思っているようだが、実際のところ、シャアは只人であり、二十歳の若者にすぎない。

 プレッシャーもある。何もかもが嫌になって叫びたくなるときもある。

 いっそ、モビルスーツに乗ったままで死ねたら、と思うことすらある。

 気分が底まで沈んだとき、しかし、最近は引っ張りあげてくれる人間がいた。

「大佐。お疲れですね?」

 質問ではなく確信で、シャリア・ブル大尉はシャアの手から直近の戦いにおける陣形の再考案についての資料を取り上げた。

「ドレン大尉! 大佐が死にそうなので、休ませます」

 お手をどうぞ、とやられて、シャアは無意識に載せた。おや、と眉を跳ねさせた年上の部下に、気恥ずかしくはあるものの、やってしまったからには堂々としなければと、ぎゅっと握り返した。

……シャリア・ブル大尉も休んでもらって構わないから、よそでやってくれるか?」

 ドレンの小言は、脳を通りすぎていった。




 自室に連れていってくれたシャリアは、すぐに「私はこれで」と退室しようとするものだから、シャアは慌てて引き留めた。

「私がいたら、ゆっくりお休みにはなれないでしょう?」

 首を傾げるのは無意識だろうか。

「いや、君がいてくれた方がいいのだ」

 肉体的にというよりも、精神衛生上の話である。駄目か? と、こちらも大尉を真似て小首を傾げれば、甘えられるのにとことん弱い彼は、「ぐ」と息を詰まらせて、部屋に留まってくれた。

 せっかくここにいることを選んでくれたのだから、もてなしをすべきではないか。

 シャアが酒でも用意するかと動いたところで、シャリアはその動作を予測して即ガード、抱えあげてベッドへと連れていった。

「意外と大胆だな、大尉」

 これは無論、冗談である。自分たちは恋人でも、その場かぎりのセフレでもない。

「あなたがそういう面白くないことを言うときは、本当に限界のときです。はやく寝なさい」

 布団を被せて、幼子を寝かしつけるようにぽんぽんと胸元を叩くなど、いったいどこで学んだのか。まるで、私の母になるために生まれたような男だな、と支離滅裂な思考になっている。

 やがて眠気が訪れて、うとうとしているときに、シャアの一番心地よいと思う声が囁き、夢へといざなってくる。

「あなたが本当に駄目になる前に、私がお連れして逃げますから」

 この世の果てまでも一緒に――……起きているのに夢を見るような声だった。



「などと言っていたくせに、君がひとりで逃げるなんて」

 五年ぶりの再会を喜んだのも束の間、シャリア・ブル中佐はシャアの前から忽然と姿を消した。いつから計画していたのか、おそらく自分を探し始めた当初から、そのつもりで準備していたのだろう。

 せっかく、あの日には劣るがいいワインを用意してきて、さて口説こうかと思っていたのに。

 事故に遭ってからは半分眠っていたようなもので、考える時間はたっぷりあった。結論を言えば、シャアは最初から、シャリアのことが好きだったのである。
 ひとりしかいないのに、ふたつのグラスに酒を注ぐ。彼の分の縁を指で弾いた。キン、と高い音がする。


「私の逃避行にも、付き合ってもらうぞ、シャリア・ブル」

 見つけてしまえば、彼は自分の想いを受け入れてくれる。

 若さゆえに、シャアは傲慢であった。