kanaco
2025-05-18 17:20:58
23763文字
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【十二信】虎の子、風邪をひく/龍の子、熱をだす

《十二信》虎の子、風邪をひく
高い熱を出した十二くんと、看病する信一くん(P1~P4)
《十二信》龍の子、熱をだす
高い熱を出した信一くんと、プロポーズに挑む十二少くん(P5~P8)


龍の子、熱を出す

九龍城砦 10:00。
診療所に珍しく洛軍が駆け込んできた。

穏やかな性格で動じることも少ない男のひどく慌てた様子に、四仔は驚いて腰を浮かせた。落ち着かせて理由を聞き、腑に落ちる。
「信一がぐったりしていて、触ったらすごく熱いんだ」

ちっとも自分の部屋から出てこないから心配になって様子を見に行ったら、イスに座ってジッとしているのを見つけた。声をかけたが動きも表情も緩慢で、「どうした、洛軍」と平静を装い呼ぶ声は弱くて、可哀想に潤んだ瞳を怪しんで額に手を当てたら、熱があって。

診療所に来させるのは難しいだろうとドアに「往診中」の札をかけた四仔は、洛軍に詳細を聞きながら信一の部屋に向かった。信一は大人しくベッドに入っていた。四仔が来たことに気がつくと薄く目を開ける。いつもならばイタズラに軽口を叩く軽妙さも今は鳴りを潜めて、覇気のない表情が四仔を見つめた。洛軍が相手ならば多少なりとも気を張ろうとするだろうが、四仔相手では意味がないと諦めているのだろう。

相変わらずオロオロとする洛軍に水を汲んできて欲しいと頼むと、四仔は黙々と診察を始めた。
「39.0」
熱の高さを改めて示すと、信一があからさまに四仔から目を逸らした。怒られると思っているらしい。なるほど、自覚症状ありかと四仔は溜息をつく。

「高熱だが風邪ではないな。シンプルに疲れが出たんだろう。正直、不思議はない」

説教をしたいところではあるが、発熱するくらい疲れている友人に辛辣な言葉を並べるほど四仔は鬼ではない。それに信一が疲れをため込んでいることは、四仔も洛軍も分かっていたことだった。それでも信一を止められなかったのだ。自分たちにも非があると罪悪感すら抱いている。

龍捲風が亡くなった後の九龍城砦の復興は、様々な援助を受けたとはいえ、やはり龍捲風の右腕・九龍城砦の実質NO2であった信一の肩にそっくりそのまま圧し掛かった。四仔から見てもまだ20代半ばの若者が背負うような責任と仕事量ではなかった。しかしだからといって他にそれができる者がおらず、外部から来た人間を受け入れる態勢もなく、信一を頼らざるを得ない状況であった。

そのうえ信一は周囲が驚くほど円滑に復興や住民の今とこれからの援助、黒社会との折り合いをこなしていった。しなければならないことが明確になったと同時に、信一の切り替えは誰よりも早く、周囲を牽引した。養い親をあのような形で失い、親しかった人たちも多く亡くし、自分の指すら欠損した青年のそんな様子は、水上小屋で過ごした3ヶ月のことを覚えている四仔からすると、その明朗闊達なさまに違和感と恐怖を覚えたほどだった。しかしこれも、だからといって他に最適解があるかと問われると返答に窮してしまう状況だったのだ。

疲れてこんな高熱でんの?」
信一が火照った顔をして掠れた声を出す。洛軍が汲んできた水にタオルを浸し、絞って額や頬に当ててやる。素直に委ねて気持ちよさそうに目を閉じた信一に四仔は答えた。
「でる。過度のストレス、自律神経の乱れ、免疫機能の低下。お前トリプルパンチだろう」
「そっか」
「体が休息を求めているんだよ、信一」
信一の枕元に膝をついた洛軍が頭を優しく撫でた。
「信一は俺たちに心配をかけないように元気に振舞ってくれているけど、近頃すごく瘦せてる」
一回り小さくなってきた気がする、と洛軍は言葉を重ねた。洛軍の真摯な瞳に弱い信一が、その心配する気持ちを真っ向から受け取り困って眉を寄せる。助けを求めるように四仔を見たが、四仔は肩を竦めただけだった。

「洛軍が正しい。とにかく熱が下がるまではベッドから出るな。下がっても2日は休め」
「そうも言ってられない。仕事は山積みなんだから」
「だめだ」
「でも

端的に意見を跳ねのけた四仔と、食い下がろうとする信一の視線がピリリと絡む。
「とりあえず今日と明日は休もう、信一」
洛軍がそれに割って入るように目を穏やかに緩ませながら言った。ただしその目の奥が厳しいことを言う四仔よりも有無を言わせぬ圧力を帯びる。信一はそれでも不満そうに口元を歪めたが、2人の言うことが正しいことも心配も理解はしているのだろう、やがて小さく「分かった」と頷いた。洛軍がにこやかに笑い、洛軍と交代するようにして四仔が信一の頭を少しだけ乱暴に親しくクシャリ、と撫でた。

「仕事の中で優先順位が高いものを信一の部下たちと手分けるよ」と洛軍が言う。
住人たちも数日でもいいから大人しくしていてくれるといいが

それを聞いた信一が洛軍に目を向けた。
「今日、燕芬姐に会ったか?」
「水を汲みに行く途中で会った。信一が倒れたから俺も仕事を休むかもしれない、とお願いしたが
「ああ、うん。それならたぶん、大丈夫だと思う」
何のことだろう、と洛軍と四仔が顔を見合わせる。

「なぁ」
「「うん?」」
「今日は大人しく寝ているからさ、お願いがあるんだけど

十二が来ても、この部屋に入れないで欲しい。

信一がそう、浮かぬ顔して言った。