kanaco
2025-05-18 17:20:58
23763文字
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【十二信】虎の子、風邪をひく/龍の子、熱をだす

《十二信》虎の子、風邪をひく
高い熱を出した十二くんと、看病する信一くん(P1~P4)
《十二信》龍の子、熱をだす
高い熱を出した信一くんと、プロポーズに挑む十二少くん(P5~P8)




龍捲風が去ってドアを閉めると、信一と十二は2人きりになった。

ベッドに近づき、ぐったりと横たわっている十二の顔を覗き込む。先ほどまでは顔色が白いことに違和感があったが、今や蒸気して赤く色づいていた。苦し気に浅く息を吐き、額にはじんわりと汗が滲んでいる。

信一は部屋の明かりを絞って落ち着く空間を作り上げようとした。それから氷水で冷やしたタオルを丁寧に絞って、ベッドに腰かけると病人の額にそっと当てる。汗を吸ってあげようと額、頬、首へと順番に優しく押しあてていく。そのひんやりとした感触に十二が目をゆっくりと開いた。

「十二」
名前を呼ぶと信一を探して視線が漂う。

「水飲めるか?」と問いかけると十二がかすかに頷いた。背中に手を添えてやって上半身だけ起こすのを手伝う。コップに常温の水を注いでやって渡すと十二は素直にそれを飲んだ。喉が潤ったのが気持ちが良かったのか、表情が和らいだのを見て信一は少しだけ安堵した。

「四仔から薬貰ってきた。食後の薬だからまず腹に食べ物入れよう」
「ぜったい苦いやつだ

悲しげに眉が動く。いつもの天真爛漫さや自信に満ち溢れる快活さが鳴りをひそめて、しおらしい表情をみせる十二は随分と幼く見える。

(これ完全に子供返りしているな)と信一は思った。

自分と2人きりな上に体調がすこぶる悪く、完全に甘えたいモードに入っている。それも普段の“相棒”や“恋人同士”の間柄ではなく、“幼馴染”……というよりは“兄弟”にも近かったころの温度感だった。ただし信一はもうずっと前からその頃の気分に戻っていた。十二の体調不良を目に止めた時には既に、だ。

「まぁ、頑張れ。ほら龍兄貴お手製、応援の“擦りおろしリンゴ”があるぞ」

懐かしの器を見せれば今度は嬉しそうにした。そしてそのまま手を出さずにすっかり待機状態だ。信一が食べさせてくれると全く疑わずにスプーンを待っている。

信一は内心でクスクスと笑うとリンゴをスプーンでひとすくいすくった。口にそっと運んでやれば十二が何の迷いもなくパクリとスプーンを口に入れる。リンゴの優しい甘みが口に広がったのか、熱で火照った顔のまま十二がホワリと笑った。

……うまい」
「良かったな。回復したら龍兄貴にお礼言おうぜ。それに四仔も洛軍も心配してたよ。お大事に、だって。虎兄貴には龍兄貴が連絡いれてくれたから心配いらないから」

十二の体調を気遣いながら、スプーンをゆっくりと器に戻す。再びひとすくいし、また口元へ運ぶ。十二はゆっくりとしたペースでも着実に食べ進めていった。時折スプーンの動きを待つように視線が追っていくのも、スプーンを差し出せば口を素直にパックリと開けるのも雛鳥のようで可愛らしく、信一はなんだか楽しくなってくる。気がつけば器は空になっていた。少量ではあったがこれだけ食べれれば大丈夫だろう。

「じゃ、次は薬な」
「うう」
「四仔が心配して出してくれてるんだから、ほら」
そう促せばためらいながら薬を口に入れ、一気に水で流し込む。
顔を思いっきり顰めて出来上がった顔はあまりにも渋い変顔である。
……なに、このあじ」
信一はケラケラと笑った。
「偉いな」
そういって頭を撫でてやれば、それを享受する十二がもっと撫でろというよに頭を擦りつけ、しかし頭を振ると眩暈がするのかやがて大人しくなった。

「なんか……
ポツリと十二が言う。
「昔みたい」
「だな」

信一が肯定すると十二がぼんやりしたように前を向く。それから十二の両腕が信一にまっすぐ伸びてきた。そのままグイッとベッドの上に引きずり込まれそうになって慌てて手に持っていた器とスプーンをオボンの上に戻す。弱っている人間の力とは思えないほどの強さが信一を引っ張って、結局はそのままベッドの上に乗り上げた。

2人分の重みにベッドが軋しみ、十二が信一ごとベッドに上半身を沈めた。

「いや、まてまて。この体勢無理だろ。一回放せ」

腕を叩けば拘束が緩まる。信一が体を起こすと、それでもまだ未練がましく掴んでいた十二の右手がポトリとベッドに落ちた。十二が昔のように一緒に寝たがっていることを察して、信一は叶えてやろうとする。
「十二、ちょっと壁側に寄れ。俺らもうあの頃の背丈じゃないんだから図体が収まらないよ」
そう言えば、いそいそと十二が一人分の隙間を作る。

信一はその空いた布団へと体を滑り込ませた。大の男2人が並ぶとさすがに狭い。しかしそれが目的だったと言わんばかりに、狭さからすでに触れあっている体をより密着させようと十二が引っ付いてきた。十二の火照った体と自分の首元にかかる熱い息が可哀想で、信一は顔を曇らせてギュっと体を抱きしめたやった。十二の体の力がより抜けて嬉しそうにすり寄ってくる。この体勢ではより汗をかいてしまいそうなことが気がかりだが、苦しさや重たい気持ちが緩和されるのであれば今はそれを優先させてやりたい。

十二が寝やすいように体をトントンと一定のペースで優しく叩いてやりながら、
「こういう時って普通は、風邪が移るから離れてろ、とか言わねぇ?」
からかい口調で言う。

「いっしょがいい」
小さくて消え入りそうな、しかし間髪入れない声が信一の耳に届いた。

信一はその言葉を飛躍して受け取り、しばし逡巡した。

一緒、ね

十二が九龍城砦に来てから子供だった信一と十二の行動範囲はほとんど同じだった。それこそ“いっしょ”という言葉がピッタリだった。龍兄貴の下で経験や感受性を共有し寄り添ってきた。

しかし変化はしていくものだ。少し成長して信一は龍兄貴の下のまま、十二は虎兄貴の下へと分かれた。秋兄貴も含めて3人の兄貴たちが決別するような姿は全く想像できないが、自分たちは今、別々のシマの人間だ。関係性さえ、幼馴染から親友へ、相棒、そのまま恋人へと名前を変えていった。

一緒に旗をあげよう、と十二は誘う。しかし信一にそのつもりはない。十二はいつか黒社会の重鎮にまで上り詰めるだろう。いつまでも一緒にいたい、というのは信一にとっても本心だ。しかしいつまで一緒にいられるのだろうか、とも思う。環境も気持ちも変化していく。それは不安や心配などではない。黒社会に所属するがゆえに、いつ何が自身に起きるか分からぬ自分たちの立場における、ただの現実だった。

でも願うことだけは自由か。
「そうだな。いっしょがいいな」

そう返事をすると十二の瞳が一瞬ギラリと煌いた気がした。その瞳に自身が捕らわれた気がして信一はゾクリとする。十二のこの獣染みた瞳が信一は嫌いではない。他者に意思決定を許さない、支配者の強い瞳だ。信一は優しく笑いかけた。

「どこにもいかないよ」

言って安心させるように髪を撫でれば、十二の瞳がゆっくりと閉じる。信一は髪を撫でるついでに前髪をかきあげて、露わになった十二の額にキスを贈った。十二の表情が緩む。

熱が少しでも早く引くことを願ってしばし十二の体をあやしていた信一は、やがて十二の体の熱に促されて自分も自然と目を閉じた。