kanaco
2025-05-18 17:20:58
23763文字
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【十二信】虎の子、風邪をひく/龍の子、熱をだす

《十二信》虎の子、風邪をひく
高い熱を出した十二くんと、看病する信一くん(P1~P4)
《十二信》龍の子、熱をだす
高い熱を出した信一くんと、プロポーズに挑む十二少くん(P5~P8)



九龍城砦内にて龍捲風と信一がリビングとして使用している一室からそう離れていない場所。そこに人の出入りがない一室がある。

「十二って自分の部屋があったのか」
友人を背負い、当の部屋に案内された洛軍は意外そうに言った。
「泊まる時はいつも信一の部屋に行くから、ないのかと思ってた」
「子供時代に使っていた部屋なんだ。今も部屋の掃除くらいはさせてるし、こっそり使ってる時はあるみたいだけど。まぁ使用頻度は低いだろうな」

洛軍は信一が整えたベッドの上に十二を丁寧に転がしてやると、部屋の全体を見まわした。あまり使っていないというのが分かるように質素かつ整えられた生活感のない部屋だった。ただ、タンスや机の脚部分にシールが貼られていたりと名残は見られる。部屋にホコリが溜まっているような様子はなく、ベッドの上のシーツもキレイにされていた。

「物もほとんどないな」
「俺の部屋にわざわざ持ち込んでるからな」
うちに物が増えて困る、と信一がぼやく。
「仲が良くて良いことだ」と洛軍が優し気に笑う。

「何かあれば遠慮なく言ってくれ。お大事に」と言って洛軍が出て行った。
それと入れ替わるように遠慮がちにドアをノックする音がする。

「信一」

ドアを開ければ、大きなお盆を持った龍捲風が立っていた。おそらく診療所へ向かう信一たちを見かけた部下の誰かが状況を報告したのだろう。よくできた報連相だ、と満足な気分になる。お盆の上には水差しとコップ、氷と水が入ったボウルと数枚のタオル。そして信一にとっても懐かしい“擦りおろしリンゴ”がのっていた。
「さすが兄貴~!ありがと。出された薬が“食後”指定だったんだよね」

信一や十二が熱を出して、お粥さえ食べる元気がない時に兄貴が作ってくれる“擦りおろしリンゴ”は信一の好物の1つだった。十二もそうだろう。病気の時にだけ登場する特別なごちそうは龍兄貴の労わりと愛情を分かりやすく”ひしひし”と感じるからだ。どんなに食欲がなくても、これだけはお腹の中に入って優しく溶けていく。

届け物を受け取りながら嬉しそうに笑う信一みて、穏やかだった瞳により深みをみせる龍捲風は部屋の中を覗き込む。

「様子は?」
「見事な熱発。39.5まで上がってる。目が覚めた時に変なテンションにならないといいけど。でも四仔が薬飲んで寝れば大丈夫っていったから、平気だと思う」
「そうか」
「薬、スペシャルブレンドだってさ」
フッと優しく笑いながら龍捲風が、それは怖いな、と言った。
「虎には俺から連絡しておこう。どのみちこの状態じゃ動けないだろうからな。ちゃんとなだめておくよ」
「お願い。あ、兄貴は部屋に入ったらダメだよ。それにこの後は俺にもしばらく接近禁止ね。兄貴に風邪が移ったら大変なんだから!」
「お前が面倒を?」
「ふふ、昔みたいだね」

ふんわりと笑いながら小首を傾げて、甘えた瞳のままに信一が龍捲風の判断を伺う。看病をするということは少なくとも明日まで仕事は休みの状態となるだろう。それはもちろん構わなかった。

ただし龍捲風としては「自分よりも信一に風邪が移る方が心労が増えるのだが」という気がかりがある。それでも信一が完全に“おねだりモード”できている以上、養い子の気持ちは固いということだ。実際、十二が熱を出す度に毎度面倒を見ているのは信一であり、今更ながら禁止するのもおかしな話でもある。

「まぁ、好きにしなさい」
返事に信一が頷く。その頭を優しく撫でてやって「ただし、お前が少しでも体調が悪くなったらすぐに言うんだぞ。十二の体調に変化があってもすぐに連絡しなさい」と念を押す。

くすぐったそうに笑う信一は「うん、ありがとう兄貴」と素直に返事をした。