akinoshiroihana
2025-04-14 21:38:13
11167文字
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名刺置き場1

2022入院頃~、ゲッター



東京都府中市分倍河原◯✕……

「なんだいこいつは」
「ああ、それは隼人とは違うタイプの患者さん用の教材さ」

高校で割とやんちゃしていると聞いて心配しなくもなかった年上の従兄は、どういうわけかこの高齢化の御時世なかなかつぶしの効きそうな言語聴覚士になっており、どういうわけか従弟の入院騒ぎを聞き付け駆けつけた。

「随分怖い顔だから患者さんが駄々捏ねないで助かってるかもしれないな」とは東映仕様小松崎監督絵の御面相の竜馬の言だが、
「俺の名前Hayato Jin名義で検索してると子記事で出て来るこいつの解説にはちゃんと"handsome"って書いてもらってあるんだぜ」
一応な、と隼人は肩を竦めた。

おい竜二、患者にコッソリ菓子出すんじゃねえよ、不摂生で頭の血管切れた爺さんたちはすぐに気付いちまうんだから、「隼人くんいいにおいがするね」ってしつこいったら。言えばその状況を脳内で再現してしまったのか、みるみる鬼の形相になる「竜二」氏だったが、寝巻き姿のままの、見る目のないものにはのっぽのモヤシ扱いさえされる隼人に滔々と窘められると、ほどなくしゅんとなり落ち着いた。「出来ねえ奴じゃないが、ここ一番て時にどうもさ」とは隼人による従兄氏評である。

「で、なんなんだいこれは」
「視覚に障害が出てしまった患者の診察用だよ、特に視野が狭まってしまった場合のフフフ」
「別に悪役演技はこの際いらねえ」
———横書きのこれを「東京都の府中」と読めるか、「京都府」の耳慣れない地名だと思って読み始めてしまって「変だぞ?」と気付くかというのが患者自身の自分の現状への見極め時かな、ほかには「あめだまをなめる」なんていうのも考えてみた
「へえ、おまえさんにしちゃ気が利いてるn」
「ああそうか、この前のはちょっと非常措置だったかな」
目玉はな、うん、すまない、と苦笑い気味にも開けっ広げな竜馬に謝られ、なんの話かと隼人はしばしぽかんとし、傍らの竜二氏も強面の精悍な笑みの下に「なんだかぜんぜんわからないんですが」的な表情をまるっとしまいこんでいた。

が、

リハビリステーション、銀色の歩行訓練バーを止まり木のようにして身体を休めていた「誰か」、暖かい日だからと屋外の歩行訓練訓練コースまで大きく開け放たれた扉、強い風、目に見えて金色に舞うまでに砂塵だの花粉だの埃だのが渦を巻いて彼をとらえ、その白い手で顔を覆わせ
『いいって、こんなの自分で』
『ダメだバカ、いま転んだらおまえの身体はまともな受け身が取れない』
じっとしてろとの囁きの後、ステーションの喧騒の片隅であったなにかしらを思い出した様子で無言のまま頬を染める従弟と、とても優しい目でそれを見守る流なんとかいうその学友の図に、竜二氏はまたも鬼の形相になっていくかと思いきや、それで青くなったり白くなったりぶるぶる震え。
はたして彼は自分の作品により、重大な気付きを得てしまったらしかった。

霜月の末、静かなる冬の終わりはもはや遠からず

南無。