nuka_boshi
2025-03-08 17:29:52
25563文字
Public 利吉さんで賽殺しパロ
 

【RKRN】転生したら母親が伝子さんだった利吉さん その2【シリアス死ネタ】

前回に続き賽殺しパロ。そろそろこの世界がなんなのか解説され始めます。
前回、まだまだジャブ程度だというのに利吉さんが勝手に発狂しやがったので、不甲斐ない利吉さんの為に予定を大幅に早めてお助けキャラを投入しました。こんなところで発狂するとは情けない。
とは言えあまりにお助けキャラを出しすぎると今後の展開に響いてくるので、なるべく理由を付けて行動を制限する予定です。
とりあえずまだまだしばらくは曇らせの前振りです。前振りですがネタバレ。今回も利吉さんがやっぱり曇ります。

(※ちょっと長くなりすぎたので章タイトル変更、というか分割。)



 図書館から帰宅し、伝子が用意していた食事を適当に済ませ、私は家の外に出た。『神の世のカケラ』が何かはわからない。何処にあるかも、どんな形をしているのかもわからない物を恐らく八日目の朝を迎えるまでに探し出さねばならないのだ。今は少しでも手掛かりを探すしかない。それがどれほど心もとないものであれ、何もしないよりはマシだった。
 家の外に出るまでに、山田家の中は凡そ調べた。カケラとやらが何かは知らないが、ある程度のものの位置は把握できた。ならば、今夜滝夜叉丸からの情報を得た後ならば、少なくとも山田家に探し物があればすぐ対応できるはずだ。最初に目覚め、翌日を病院で過ごし、翌々日に滝夜叉丸と会い、そして今日が四日目。残された時間があと三日ほどしか無い可能性がある事を思えば、今は少しでも情報を集める必要がある。
 伝子から預かった鍵で自宅を施錠せじょうし、道路へ一歩踏み出した瞬間、私は大きな声で呼び止められる。
「あっ、利吉さーん!」
 パッと顔をほころばせて駆け寄ってくるのは、乱太郎としんべヱだ。……この忙しい時に面倒なのに捕まってしまった。とはいえこの二人は妙な所でさとい。下手な対応をすればこの内心も見透かされてしまう可能性がある。私はにこりと人好きのする笑みを貼り付けて、「乱太郎にしんべヱじゃないか。どうしてここに?」と問いかける。
「どうしてって、ちょうど今学校が終わったから利吉さんに会いに来たんです。今日からは他所で大会があって、マスコミもそっちへ行くだろうから一日時間が取れそうだったので……。しんべヱもちょうどお見舞いを持っていくって言うから僕もついでにと思って」
「はい、利吉さん! これ、ボクの大好きなお店のマトリッツォです! すっごく美味しいんですよ〜!」
「しんべヱ、よだれよだれ。あとマトリッツォじゃなくてマリトッツォだから」
 じゅるじゅると涎を垂らしながら菓子箱を差し出すしんべヱに、乱太郎が苦笑する。私はそれに愛想笑いを浮かべたあと、ふと一つの案を思いついた。
「そうか、ありがとう。せっかくだから三人で食べようか」
「えぇっ、でもぉ……これ利吉さんへのお見舞いだし……
「みんなで食べたほうが美味しいさ。それにしんべヱ、これ大好きなんだろ?」
 私がそう問うてやると、しんべヱはおずおずと頷いた。やはり、世界が変わっても食べ物には弱いというかチョロいというか。
「ちょうど外の空気を吸いたくなって出てきた所でね。天気も良いし、どこか静かなところでみんなで一緒に食べれたらと思うんだけど……二人とも、どこか良い場所はないかな?」
 穏やかに笑ってみせると、二人は満面の笑みを浮かべて「それならあの公園にしよう」「いやそこは人が多いから別の公園の方が」などと言い合っている。これは何も、優しさから言っているのではない。私にとってここは殆ど敵地のようなもの。地の利もなく、ただ闇雲に何かわからないものを探し回るよりは、その場所に住む人間に案内させる方が賢明だ。特に幼い子供は、探究心が強く大人も知らない思わぬものを見つけてくる事が多い。利用しない手はなかった。要するに、都合よく『山田利吉』に懐いているこの二人を、孫子の兵法で言うところの因間――敵国の民間人に間諜かんちょうをさせるもののことだ――に仕立て上げようというわけだ。
 菓子類を食べれる静かな場所、というのも、何も親切心だけで言ったわけではない。人通りの少ない共有スペースに敢えて候補を絞る事で、今後他人に見られたくない行動を起こす際の候補地をいくらか頭に叩き込んでおこうという打算によるもの。利用できるものはなんでも利用する、それは忍者の鉄則だ。
「利吉さん、今案内するね!」
 パッと花開くような笑みを浮かべて私の手を引く二人を、私は困ったような笑みを貼り付けて追いかける。――全ては元の世界に帰るため。わずらわしさに悪態をつくことはあっても、取り乱したり挫けたりする事は、もうしない。

 その公園は、閑散かんさんとした住宅街の中に紛れ込むように、こじんまりと存在していた。まるで、狭い隙間に入り込む猫のよう。ともすれば見落としてしまいそうな、小さな公園だ。申し訳程度の遊具が二つと、小さなベンチが辛うじてあるだけの寂しい場所だった。――この奇妙な世界に断絶を覚える私の気持ちを象徴するかのような場所だ、と思えた。
 私は笑顔を貼り付けて、しんべヱが寄越したマリトッツォ(本当にそういう名なのかすら怪しいが)を皆と一緒に口にした。
 ふわりとした生地は、今まで食べてきたどのボーロよりも柔らかい。牛乳と砂糖の類から作られたのだろうか、あふれるほどに挟み込まれたクリームも、夢心地のする上品な甘さだ。
「ねっ、美味しいでしょ? 退院したら絶対食べてもらおうっておもって、ボク、パパにずっとお願いしてたんだぁ!」
 あまりの美味しさに目を見張る私の前で、しんべヱは無邪気な笑みでそう胸を張る。――もし、私の知る元の世界の福富しんべヱがこれを口にしたならば、どれほど喜んだ事だろう。自身もたくさん食べたいのを我慢して、乱太郎ときり丸に分けてやるに違いない。きっと土井半助と共に暮らしているきり丸は、「あげるだなんてドケチの沽券に関わる!」と言いつつも、なんやかんやで半助の分も残そうとするのだろう。けれどなかなか踏ん切りが付かないきり丸を、乱太郎としんべヱが後押しする。嗚呼、目に浮かぶようだ。
――おいしいよ、ありがとう」
 室町の、――元の世界が懐かしい。あの世界に、早く帰りたい。そんな郷愁きょうしゅうが心を締め付ける。
 私の声に元気がないと思ったのか、しんべヱが少し心配そうな顔をする。
「あっ、そっか! 利吉さん、大丈夫ですよ。山田先生の分、ちゃんとここに残してありますから!」
 乱太郎の的外れな言葉に、しんべヱはパッと笑顔を取り戻す。
「あーなるほど〜! 確かに、山田先生に黙ってこんな美味しいもの食べちゃ、悪い事したかなって思っちゃうもんね! 乱太郎アッタマ良い〜!」
「いやいやそういうわけじゃないから!」
「「またまた利吉さん、テレちゃってぇ〜」」
「照れてないからっ!」
 全く、この二人はいつもこうだ。私はため息を隠すために残りわずかなマリトッツォにかじり付く。
「ところで利吉さん、昨日は山田先生と、何食べたんですかぁ? きっと退院お祝いで、とびきり美味しいものご馳走してもらったんでしょ?」
「もー、しんべヱったら。食べ物のことばっかりなんだから」
 呆れ返る乱太郎と共に苦笑しつつ、私は「そう大したものじゃないよ」と返す。しかし目をキラキラさせるしんべヱは、恐らく答えを聞くまで解放してくれなさそうだ。仕方なしに私は答える。
……オムライスだよ。伝子さんの手作りの」
 途端にしんべヱだけじゃなく、乱太郎までが目を輝かせる。
「「最っ高のご馳走じゃないですかー!」」
「そ、そうかい……?」
「だって利吉さん、オムライス好きでしょ?」
 思わず返答に窮する。恐らく、この時代の『山田利吉』はオムライスを好きではない、はずだ。しかししんべヱはまるで疑う余地もない笑みで、言ってのける。
「ボク、山田先生から聞いてるもん。利吉さん、山田先生にご飯作ってもらう時は、いつだってオムライスをリクエストするって。好きじゃないって言って絶対認めないけど、本当は利吉さんの一番好きなメニューなんだって」
 ……山田利吉の、好物……
 そんなことを言われても、私にはさっぱりわからない。『私』が来る前の『山田利吉』の話などされたところで、『私』には他人の話も同然だ。まがい物の『山田利吉』が何を考えていたかなど、分かるはずもない。
 しかしどうも乱太郎たちの反応を見るに、『山田利吉』の好物がオムライスだというのは二人の共通見解らしかった。
「利吉さん、良かったですね〜。で、オムライスの絵柄は何だったんですか?」
 絵柄がそんなに重要だろうか、と思ったが、そう言えば乱太郎は絵を描くのが好きだったなと思い出す。仕方なしに、肩を竦めながら「ハートだったよ。私の名前とハートマーク」と返すと二人は「なるほどー」と顔を見合わせた。
「そっかぁ。その手があったねー!」
「うんうん、今の利吉さんに作るならそれしかないよねー!」
「な、なんの話だい?」
 目をキラキラと輝かせて頷き合う二人に、私は思わず問いかける。二人だけで分かり合われても、こちらは何が何だかさっぱりわからない。
「何って、利吉さんの好きなものの話ですよ。僕たち、山田先生が安藤先生に話してるの聞いた事あるから知ってるんです。山田先生って、オムライス作る時、必ずケチャップで利吉さんがその時好きなものを描いてるんですって」
 乱太郎が胸を張りながらそんな事を言い出す。しんべヱも、ニコニコと言葉を続ける。
「山田先生、『利吉ったら最近は「母親なら言わなくてもわかるでしょう」とか言っちゃって、好きなもの秘密にしちゃうから大変なのよ』って安藤先生に愚痴ってて。でも山田先生、利吉さんと一緒に過ごす機会があんまりないから、これだけは絶対外すものですかって燃えてたの! ボクそれ聞いて、利吉さんと山田先生、本当に仲良しだなーって思ったもん!」
 ……知らない。そんなものは、『私』じゃない。
「今の利吉さん、記憶が無くなっちゃってるじゃないですか。だから山田先生、一体何を描いたんだろうなぁって僕気になって。でも、利吉さんの名前とハートマークって事は、きっとこれからいろんな事を思い出してほしい、利吉さんにいっぱいいろんなものを好きになってほしいって意味ですよね! さっすが山田先生!」
 満面の笑みでそう言い切る乱太郎に、私は昨夜のオムライスを思い出す。あの時、ケチャップが足りないとわざわざ買い出しに行った事。あれやこれやと、『山田利吉』の好きなものと称していろんなものを買った事。そして、オムライスに散りばめられた沢山のハートマーク。……その全ては、長年会わなかったが故の断絶ではなかった。
 そうだ。ケチャップなんて、わざわざ買いに行かなくたってきっと他の料理にできた。あんな風に絵を描かなければ、足りたかもしれない。それでもわざわざ私を連れて店まで買いに行ったのは、たまにしか会えない、突然変わってしまった息子のため。息子の好きなものが何で、一体何をすれば喜ぶのかを知るために――
 ……だが、違う。それはきっと『私』などではない。私がこの体を乗っ取る以前に居た『山田利吉』の話であって、『私』に向けられたものでは断じてない。『私』にとっては、この世界は紛い物の、いずれ捨てる世界だ。私は元の世界へ帰らなければならない。例えその世界に居場所が無くとも、帰らなければならないのだ。――山田伝子の親子ごっこに付き合う義理など、……どこにもない。
 けれど。――あの時、私が伝子のオムライスに描かれた絵をぐちゃぐちゃに消したのを見た時。彼女の想いをそうと知らずに拒絶した時。彼女は一体何を思ったのだろうかと、考えずには居られなかった。
……そうだね、これからゆっくり、いろんなものを知っていけたら良いなと思ってるよ。もちろん、君たち二人のことも含めてね」
 受け止めきれない感情を無理矢理無視して、私は二人に笑いかける。
――そこでなんだけど、今日はみんなで宝探しをするのはどうかな?」
 ぐちゃぐちゃに絡まった感情を無理矢理押し込めて、私は悪戯いたずらっぽく笑ってみせる。――しっかりしろ、山田利吉。忍者であれば、本心を隠して任務に挑む事もある。このくらいできて当たり前だ。
「たからさがし?」
 不思議そうに首を傾げながらも、好奇心を抑えられない様子の二人に、私はそのまま笑顔で告げる。
「そう、宝探し。二人が思いつく限りの、神々しくて価値のあるお宝を考えて、それを発表するのさ。一番素敵なお宝を見つけた人が勝ち、っていうのはどうだい?」
「わー面白そう〜!」
「でもどーやって一番を決めるんですか?」
「みんなで見せ合って、自分以外のこれだと思う人に投票したら良いだろう? ほら、他の人のお宝を審査するのも勝負のうちって事で」
 ……そう。これは、『神の世のカケラ』とやらを探すのをこの二人に手伝わせるための方便だ。忍者として、使えるものはなんでも使う。――形も何も分からない以上、手掛かりになるかは怪しいが、それでも万が一という事はある。遊びという名目で手伝わせて、損はないだろう。
「よーし、頑張って探すぞ〜!」
「ふふっ、僕も負けないよ!」
 とてとてと駆け出したしんべヱを見て、乱太郎も負けじと微笑み走り出す。しかし乱太郎は、ふと思い出したように立ち止まり、振り返った。
「あっ、そうだ利吉さん! 記憶思い出せない事、あんまり落ち込まないでくださいね! 山田先生、多分利吉さんに喜んでもらいたくて作ったんだと思うんです。だから、とびきり素敵なお宝探してくるから、そしたら思いっきり笑ってくださいね!」
 にぱっと笑顔でそれだけ言うと、「それじゃっ」と言い残して風のように走り去っていく。どうやらオムライスの件で私が気持ちの整理を着けれなかった事を見抜き、しかしそれを記憶喪失のせいだと誤認したらしい。
――相変わらず、どうでもいい時だけ妙なところで鋭いな」
 自嘲気味な呟きは、誰にも拾われずに霧散していく。その声に、思った以上に覇気がないことが、私を余計に惨めにさせた。
 ――早く、この『山田利吉』から解放されたい。きっとこの世界の誰もが、私をおかしくなったと思っている事だろう。正直、滝夜叉丸という同じ境遇の存在が居なければ、私だって自分の頭がおかしくなったのではないかと疑いたいところだった。
 ……けれど。この世界の人々にとっては、それで説明がつくのかもしれない。少なくとも『私』が目を覚ますまでは、『山田利吉』は『山田利吉』で、この世界では正しい存在だったハズだ。どこにでもいる、ささやかな悩みを抱えていて、それでも日々を前向きに生きようと努力していた、家族の事を愛していた普通の青年。それをある日『私』というこの世界の『利吉』とは異なる人間が現れて、身体を乗っ取ってしまったというべき状況なのかもしれない。
 そう考えると、……この世界の『山田利吉』には申し訳ないことをしてしまったと思う。きっと彼は、私とは違う。愚かな誰かに、自分の望みとは全く違う行動を取られて、大切な人の心を無遠慮に踏みにじられたなら。それは一体どれほど辛いことだろう。もっとも、今更謝っても遅いし、私自身だって望んだ事ではないのだが。
 ――せめて、せめてこの体を本物の『山田利吉』に一刻も早く返そう。もしかしたら彼は今、私と入れ替わって室町の世にいるのかもしれない。私と同じように、元の世界へ帰りたいと嘆いているのかもしれない。だから、せめて、異物である私が一刻も早くこの世界を去って、そして皆に『山田利吉』を返すのだ。きっとそれしか、詫びる方法はないのだから。
 大きく吐き出した息はあまりにも重く、身も心もむしばむようだった。しかしそれでも私は、挫けない。為すべき事を為す為に、立ち止まるわけにはいかないのだ。