nuka_boshi
2025-03-08 17:29:52
25563文字
Public 利吉さんで賽殺しパロ
 

【RKRN】転生したら母親が伝子さんだった利吉さん その2【シリアス死ネタ】

前回に続き賽殺しパロ。そろそろこの世界がなんなのか解説され始めます。
前回、まだまだジャブ程度だというのに利吉さんが勝手に発狂しやがったので、不甲斐ない利吉さんの為に予定を大幅に早めてお助けキャラを投入しました。こんなところで発狂するとは情けない。
とは言えあまりにお助けキャラを出しすぎると今後の展開に響いてくるので、なるべく理由を付けて行動を制限する予定です。
とりあえずまだまだしばらくは曇らせの前振りです。前振りですがネタバレ。今回も利吉さんがやっぱり曇ります。

(※ちょっと長くなりすぎたので章タイトル変更、というか分割。)

第二章 オムライス


 身支度を終えて外に出た時には、すっかり陽の傾きかけた街に、ポツポツと明かりが灯り始めていた。初日に見た細長い白い石は、どうやらこの時代に於ける灯りの類だったらしい。月明かりすら覆い隠すこの灯りは、私にとってはいつ見ても気味が悪いものだった。
 伝子がショッピングカートに幾つかの品を入れていく。これも好きだったわよね、と手に取る菓子類は、私には覚えのないものばかりだ。
 ただひとつだけ、なんとなくわかってきたことがある。恐らく伝子にとっての『山田利吉』が好きなものは、『山田利吉』が本当に好んでいたものではない可能性が高い。なにせ、彼女が懐かしそうに話題に出すものといえば、何かしらのカードだとか、玩具だとかが付いている菓子だとか。おおよそ十九歳の真面目な青年が好むとは思えないものばかりなのだ。恐らく息子と向き合えなかった分の断絶が現れているのだろう。この分だと、オムライスとやらも本当に『山田利吉』の好物だったのかどうか怪しいものだ。
 がやがやという喧騒の中で、私は山田伝子の話を聞き流しながらただひたすらに彼女の買い物が終わるのを待つ。――全く、彼女の話は時間の無駄でしかない。漸く清算を済ませ、店の出口に差し掛かったその時、伝子は突然「あらやだ、どうしましょ」と小さく口走る。
「何か買い忘れたものでも?」
「いえ、そうじゃなくて。急にお手洗いに行きたくなっちゃったから……
 もじもじと恥ずかしそうにそう言い出す伝子に、私は深く溜め息をついた。全く、何を言い出すかと思えば馬鹿馬鹿しい。家を出る前に用を足しておけば良かっただけの話だろうに。
「じゃあさっさとかわやを借りればいいだけの話じゃないですか」
「でも利吉を一人で残していくわけには……
 ああもう、本当に面倒臭い。
「待つくらい誰にでも出来ますから。私はここで待っていますから、さっさと行ってきてください」
 口に出してから流石に対応が雑になりすぎたかと思ったが、伝子の方は特に気にも留めなかったらしい。「そう? じゃあ、絶対どこかに行かないようにね」と数度念押しをすると、私に荷物を預けていそいそとかわやへ向かっていった。どうやらこうした対応は、『山田利吉』もしたことがあるのだろう。ならば、無理に自分を偽り歩み寄ろうとしなくとも、ある程度は不信感を抱かれずに済むのかもしれない……
 ふう、とため息を吐く。店を出入りする人々の喧騒けんそうに混じって、どこかから帰る途中なのか、足取り軽く談笑する子供たちが道を歩いていく姿が目立つ。大抵がピリッとのりが張った同じ服に身を包み、やれ今日の部活がどうだっただとか、やれ明日のテストの自信はどうだとか、お勧めの麻婆豆腐の店がどうだとか、トゲナシトゲアリトゲトゲは単なる俗名でありちゃんと実在する昆虫だとかどうとか、そんな取り止めのない話で楽しそうに盛り上がっている。幸福そうに笑う人々の声の中、私だけがただ一人、それを理解できない疎外そがい感。
 ――構わない、どうせこの世界は私が帰るべき本当の世界の前には、ただの欠陥品でしかない。まがい物の世界など、解する必要もないのだ。
 そうやって私が深く考えるのをやめたその時だった。喧騒けんそうに混じって聞き捨てならない大きな声が聴こえてきたのは。
――そう! 今は懐かしき室町の世、忍術学園に於いて私は教科の成績も一番なら、実技の成績もナンバーワン! 忍たま期待の星、学園のスーパースターとして私は皆の羨望せんぼうを一身に浴びていたのだ!」
 間違いなく聞き覚えのある、年若い少年の声。そして、室町、忍術学園という単語。道行く多くの人々はそれが良くあることなのか、まるで気に留めた様子もない。隣にいる少年の一人が「あーもうやめろよこんな往来で恥ずかしい」と頭を抱えているが、私にはそれどころではなかった。ドサリ、という音が足元からして、私は自分が驚愕のあまり手荷物を落としたことに気付く。
 三人の少年たちが怪訝けげんそうに振り返り、私は息を呑んだ。――彼らは、間違いなく私の知っている人物だ。
「君は、忍術学園の……!」
 乱太郎たちの数個上の先輩にあたる、忍術学園生、平滝夜叉丸。自惚うぬぼれと自慢話が少々度がすぎることから他人に嫌厭けんえんされがちだが、実力は確かな学生だったと記憶している、若き忍者だ。よく見れば隣で怪訝けげんそうに困惑している少年、田村三木ヱ門も、表情を変えずに瞬きしている少年、綾部喜八郎も、彼の同級生として数度顔を合わせた覚えのある子供たちだ。
 滝夜叉丸は、私が言葉を発したのと同時に、思わずと言った様子で小さく呟いた。
――確か、山田先生の……
 それだけ呟くと滝夜叉丸は、何か痛みに耐える様な、涙をこらえるような、強張った表情で口を閉ざす。唇を噛み締める彼の表情は、私の初めて見るものだった。――それだけでわかる。嗚呼、彼もやはり私と同じだ。私の元居たあの世界の記憶を、彼もまた持っているのだ。
「おやまあ、滝夜叉丸に同類が居ましたか」
 唐突に、どこかマイペースな声が私たちの緊張を打ち破る。ふわふわの髪と、変わらない無表情。綾部喜八郎だ。
「巻き込まれてはかなわない、逃げなくては〜」
「えっ? お、おいちょっと待て!?」
 喜八郎は状況についていけずに困惑する三木ヱ門の手を引くと、その場からさっさと離れようとする。私が呆気に取られている前で、喜八郎は戸惑いつつもその場にとどまろうとする三木ヱ門にわざとらしく耳打ちしてみせた。
「滝夜叉丸が二人に増えるということは、自慢話も二倍。それでもいいなら残ったら良いと思うけど……
「ウッ……それは確かに嫌だ……
「コラァそこ! 内緒話は聞こえないようにやれ!! 私のありがたい話を嫌とはどういう了見だ!」
 滝夜叉丸が先ほどの表情などまるで無かったかのように、目を吊り上げて怒る。喜八郎は表情を変えることも無く、完全に棒読みで叫んだ。
「うわー、怒った! 逃げるが勝ち〜!」
「うわあぁぁ僕まで連れていくな〜っ!」
 あの中性的な見た目のどこからそんな力が出るのか、と突っ込みたくなるほど無理矢理に、喜八郎は三木ヱ門を引きずっていく。「待たんか喜八郎〜っ!」と叫ぶ滝夜叉丸は、本当にただのフザケている学生そのものだ。しかし、二人の背が遠ざかったのを見届けて、彼は振り返り私に向き直り、聞いたこともないような穏やかな声で言った。
……お久しぶりですね。貴方も覚えているんですね、利吉さん」
 その瞳に、声に、確かな望郷ぼうきょうの念と敬意がこもっていることを感じずにはいられない。
 最早疑いようが無かった。彼は、――平滝夜叉丸は、間違いなく私と同じ境遇の人間だ。