nuka_boshi
2025-03-08 17:29:52
25563文字
Public 利吉さんで賽殺しパロ
 

【RKRN】転生したら母親が伝子さんだった利吉さん その2【シリアス死ネタ】

前回に続き賽殺しパロ。そろそろこの世界がなんなのか解説され始めます。
前回、まだまだジャブ程度だというのに利吉さんが勝手に発狂しやがったので、不甲斐ない利吉さんの為に予定を大幅に早めてお助けキャラを投入しました。こんなところで発狂するとは情けない。
とは言えあまりにお助けキャラを出しすぎると今後の展開に響いてくるので、なるべく理由を付けて行動を制限する予定です。
とりあえずまだまだしばらくは曇らせの前振りです。前振りですがネタバレ。今回も利吉さんがやっぱり曇ります。

(※ちょっと長くなりすぎたので章タイトル変更、というか分割。)



「君は、どうして――ッ! いやそもそもこの世界は一体、」
「待ってください、あまり時間がありません。まずは情報を整理しましょう。利吉さん、貴方が室町の世の記憶を思い出したのはいつですか? 私が知る限り、あなたは過去の記憶を持っていなかったはずですが」
 時間がない、という言葉に私は息を呑む。何か、重大な事情でもあるというのか。
……二日前からさ。落雷と地滑りに巻き込まれて、目が覚めたらこの世界だった。その後病院に一日拘束こうそくされて、今日の昼に無理を言って退院した。周囲からは、交通事故と精神的なショックで一時的に記憶を失った、という認識を受けている。この身体の持ち主の『山田利吉』の部屋にあった書物で、私たちの知る元の世界が室町時代と呼ばれているらしい事、ここが五百年後の世界ではないかという予想を立て始めていた所さ。……それで、滝夜叉丸くん。時間がないというのは?」
 端的たんてきにそう告げると、滝夜叉丸は困った様に視線を逸らす。
……いえ、このあと学習塾の予定が入ってますので……
 ピンと張り詰めた緊張の糸を一気に緩ませるその答えに、思わず私はずるっとずっこけそうになる。
「君は元の世界に戻ろうというつもりは無いのかっ!? なんなんだそのしょーもない理由はっ!」
 思わずそうツッコミを入れると、滝夜叉丸は少しだけ寂しそうに目を伏せた。
……私はもう、元の時代に帰る事は叶わなくなりましたから」
 ヒュッ、と喉が鳴る。やはり、今の私の身に起きている事象は、転生と呼ばれるものなのか。固く握ったこぶしに爪が食い込みそうになるのを感じながらも、それでも私は力を込めるのをやめられなかった。そうでなければ、今すぐにでもみっともなく取り乱してしまいそうだったから。
――大丈夫です。利吉さん、貴方にはまだ選択の猶予ゆうよがあります。……本当にこの世界を捨て、元の時代に帰らねばならないというのならば、貴方はまだ間に合う。この滝夜叉丸が保証します」
 いつになく真剣な眼差しで、彼はそう言った。しかし彼は言い終わると目をそっと伏せ、続ける。
…………それが例えどのような選択を迫るものであっても、手段を選ばないというのであれば、ですが」
 その言葉の意味が分からず、私は眉を寄せる。すると滝夜叉丸は手持ちの自分の鞄から一冊の冊子と筆のようなものを取り出した。冊子には途中までは何事か書かれていたようだったが、滝夜叉丸はそれを完全に無視。最後のページを開き、それが罫線のみしか存在しない空白であることを確認すると、取り出した筆のような物で墨も付けずにサラサラと何かを記していく。そういえばあれはこの時代に於ける筆の一つだと病院で教わったか。
……生憎、あれで喜八郎や三木ヱ門は何かと鋭い所がありますから、先程の利吉さんとの様子が私の周囲に伝わり動けなくなる可能性もあります。今夜接触するのは避けたほうが賢明でしょう。日中は私も学校があるので難しいですが、明日の夜ならなんとか時間も作れるはずです。利吉さん。明日の夜、家族や友人の目を振り切り、こちらへ抜け出して来ることは可能ですか?」
――え? あ、あぁ。これでも元忍者だからね、恐らく可能だろうが」
「では、明日。――いえ、ご家族が寝静まった頃の方が都合が良いですね。明日から明後日に日付が変わる午前零時、この場所で落ち合いましょう」
 そこまで言い切ると、彼は筆を止め、何かを記した一枚を迷い無く破り取った。どうやら必要な事を書き終えたらしい。紙を十字に畳んで私に手渡してくる。
「それまで何もすることが無いのもまた辛いでしょう。こちらは、かつて私が調べた本の内、今の貴方の参考になりそうな本を記しておきました。少々手続きに時間がかかるかもしれませんが、市立図書館で借りることができます。どうせ殆どが崩し字ですから、他に借りる者も居ないでしょう。貸し出しカードの在処ありかに関しては、理由を適当にでっち上げて伝子さんに聞けば良いかと。いざとなれば、身分証さえ手に入ればカードを無くしたとでも言えば受付で再発行できますから」
 反論の隙も与えず早口でそう言うと、滝夜叉丸は私の落とした手荷物の袋をそっと拾い上げる。
――ごめんなさぁい、待たせたわね、利吉。……あら? その子は?」
 野太い声に振り向けば、そこにいたのは山田伝子だった。滝夜叉丸はにこりと微笑むと、明るい調子で話しかける。
「これはこれは、尼崎東小の伝子先生ではありませんか。生憎と学年は違うものの母校で何度かお見かけしておりました! ところで、こちらは息子さんですか? 知的な目元がとてもよく似ていらっしゃる」
 伝子は息子のことを褒められたと思ったのか、少しだけ頬をほころばせ「まぁ、うふふ。ありがとう」と返事をした。――全く、いけしゃあしゃあとよくもまぁそんな言葉が出てくるものだ。私が感心と呆れの混じった視線を向けるが、滝夜叉丸は全く悪びれもなく続ける。
「いえね、その息子さんが少々顔色が悪く見えたので心配になりまして。なんでも慣れない場所にいて少し人混みに酔ったのか、気分が悪くなったご様子。そこで少し荷物を置いて休んだ方が良いと助言したのですが、お母君を待っている所だから問題ないと。――こうして合流できたならばもう安心ですね」
「まあ、そうだったの? 利吉」
 困惑した様子でそう問いかける伝子に、私はとりあえず話を合わせて頷いた。ここで下手に否定するよりは、話を合わせておいた方が、万が一後日滝夜叉丸と会っている所を見られても、「以前具合が悪い時に助けてくれた少年だから」と言い訳が立つ。
「伝子さんが戻らないのに勝手に離れるのもどうかと思いまして……
「そんなの気にしなくても辛い時は休めば良かったのに。……とにかく、貴方もありがとう。助かったわ」
「いえ、当然のことをしたまでですから。人混みに酔ったりする時は、誰にでもあります。少し精神的にピリピリしているのかもしれませんね。――これはあくまで私の経験談なので参考にはならないかもしれませんが、なるべく早く寝て、一人でゆっくり落ち着ける時間を数日ほど作れば、そのうち安定すると思いますよ」
 口から出まかせでそう告げると、滝夜叉丸は「失礼、差し出がましい事を」と苦笑してみせる。……要するに、私が夜間に行動しやすい様に上手く嘘を吹き込んでくれたというわけだ。ありがたい。
「いえ、本当に助かったわ。わざわざありがとう」
 滝夜叉丸は拾った手荷物を伝子に差し出し、「せめて荷物だけでも持つと伝えたのですが、見知らぬ他人が相手ですから困惑させてしまったようで。取り落としてしまったので中のものが無事だと良いのですが」などと人の良い少年を演じる。流石は天才を自称していた忍者だっただけのことはある、と言った所か。
「それでは私も用がありますゆえ、そろそろ失礼します」
 ぺこりと深く頭を下げ、彼はきびすを返してスタスタと歩いていく。「たまたま優しそうな子が通りかかってくれて良かったわ」だの「利吉、本当に大丈夫なの? 近いから歩きでも良いかと思ったけど、車にして正解だったわ」だのと伝子が一人で喋り続けるのを聞きながら、私は胸の奥に僅かな希望が灯るのを感じずにはいられなかった。
 ――まだ、帰れる。手掛かりが、ある。自分の境遇を知る第三者からはっきりとそう言われた事は、今や唯一の救いと言っても過言では無かった。