nuka_boshi
2025-03-08 17:29:52
25563文字
Public 利吉さんで賽殺しパロ
 

【RKRN】転生したら母親が伝子さんだった利吉さん その2【シリアス死ネタ】

前回に続き賽殺しパロ。そろそろこの世界がなんなのか解説され始めます。
前回、まだまだジャブ程度だというのに利吉さんが勝手に発狂しやがったので、不甲斐ない利吉さんの為に予定を大幅に早めてお助けキャラを投入しました。こんなところで発狂するとは情けない。
とは言えあまりにお助けキャラを出しすぎると今後の展開に響いてくるので、なるべく理由を付けて行動を制限する予定です。
とりあえずまだまだしばらくは曇らせの前振りです。前振りですがネタバレ。今回も利吉さんがやっぱり曇ります。

(※ちょっと長くなりすぎたので章タイトル変更、というか分割。)



 市立図書館に着いたらそれで終わりかと思えば、伝子は私の事が心配だったのか、そのまま館内まで着いてきた。どうやら今日は午後からの到着で済むよう、予め学校に断りを入れてきたらしい。私には余計な事を、としか思えないが、本人としては恐らく大真面目なのだろう。
 仕方無しに私はこの世界の仕組みについてわかりそうな本を適当に数冊選ぶ。目的の本ではないが、伝子に余計な不信感を持たれるわけにはいかない。溜め息を吐きながらも私は適当な椅子に座り、本のページを開く。座り心地の良すぎる椅子が、どうにも居心地が悪かった。
「それじゃあ、お母さんはもう行くわね。一人で帰れる?」
「道はもう覚えましたから大丈夫ですよ、伝子さん」
 伝子はそれでも心配だったのか、カウンターの職員と暫く何かを話していた。……嗚呼鬱陶うっとうしい。さっさと消えてくれれば探し物に集中出来るものを。いつまで話をすれば気が済むんだ。頭の中を罵詈雑言ばりぞうごんで埋めながら、私は読みたくもない本に目を向ける。相変わらず、この時代の本には慣れない。紙は不気味なほどつるりとしているし、ページの一枚一枚が目が痛くなりそうなほどの鮮やかな色に染まり艶光りしていて、油断すると頭まで痛くなりそうだ。
 ふう、と溜め息を吐くと、どうやら伝子はいつの間にか帰ったらしい。私は本を棚に戻すと、滝夜叉丸から貰った紙切れを片手に、カウンターへと向かう。気になる本があれば借りれるようにと、貸し出しカードは伝子を言いくるめて入手済みだ。
「すみません、この本を読みたいのですが、貸し出し手続きは可能でしょうか?」
 受付の女性は、おや、と僅かに眉をあげた。
……どうしました?」
「あぁ、いえ。貸し出し手続きですね。ただこちらの一冊に関しては現在貸し出し中ですので……残りの二冊のみで宜しいですか?」
 ――貸し出し中。その言葉に私は息を呑む。
――借ります。それで、残りの一冊はいつ返却されますか?」
「そうですね……一週間後でしょうか」
 一週間。貴重な手掛かりを突然おあずけされて、私は思わず内心で歯噛みする。しかし、こういった場所ならば恐らく貸出記録簿の類も存在するに違いない。
――どんな方が借りたか、お尋ねしても?」
 出来る限り爽やかな笑みを浮かべて、私は女性に優しく問いかける。『山田利吉』は世間一般から見れば端正な顔の作りをしているはずだ。情報を持っている相手が異性であるなら尚の事都合が良い。上手い具合に情報を聞き出して、その本を借りた人物を特定し、盗むなり交渉するなりして入手すれば。
 しかし受付の女性は表情を崩す事なくキッパリと言った。
「申し訳ありませんが規則ですので。個人情報を漏らすわけにはいきませんから」
 ……どうやら職業意識の高い女性だったらしい。あまり深入りしすぎても不審がられそうだ。誤魔化す為にも「残念です、折角似た趣味を持つ方と友人になれるかと思ったのですが」と苦笑してみせると、受付の女性は少しだけ気が緩んだのか、なんでもないことのように言った。
「確かに、あまり日の目を見ない本がこうして立て続けに借りられるのは珍しいですからね。嬉しい限りですよ。……こちらの二冊、返却期限は一週間後になります」
 ……あまり日の目を見ない本、か。そういえば、滝夜叉丸も「殆どが崩し字だから他に借りる者も居ない」などと言っていた。ここまで見てきた本や看板も、楷書かいしょのものばかりだ。私達にとって当たり前の崩し字は、この世界では解する人間がそもそも少ないのかもしれない。カウンターから離れつつ、貸し出し記録簿を盗むか中身をちょいと拝見するかすることを考えたが、流石に厳しそうだと考え直した。どうやらこの図書館の記録簿は、電子の絡繰からくり(コンピューターというらしい)を使って行われているようだ。流石に未知の絡繰からくりを扱いきれるとは思えない。下手にいじって必要な情報を失っては元も子もないし、盗み見ようにも受付の女性が持ち場を離れる気配がない。最悪、今夜滝夜叉丸に聞けば残りの一冊の内容も分かるだろう。無理に聞き出す必要は無さそうだった。私は他に二冊、伝子相手へのカムフラージュ用の本を借り、そして本命となる本の一冊を開いた。
 最初に手に取った本は、まじないと数字について書かれていた。
 七代先まで祟ってやるというのろい文句があるが、それを超えるのが八という数字であると。
 漢字で書かれる八という字は、現在を示す上の方向から、末――つまり未来を示す下へと広がっていく。要するに永続的な発展を意味する『末広がり』の数字であるということらしい。
 もちろん、ここまでは私にとっても馴染みのある知識だ。今更、改めて読む内容ではないだろう。半ば肩透かしを食らった気持ちで読み進めていくと、少し気なる事が書かれていた。
 どのような呪いも、命の対価でしかみそげない罪も、拒む力も、絶望も。永劫に続くものはあり得ない。時間で朽ち果てないものは存在しない。例えそれが神により閉ざされたものであったとしても、八という数字と、確固たる意志の力がそこにあるならば、「奇跡」という鍵となって打ち破られると。
 ふと脳裏を過ったのは、妄想の類だ。あの日、この世界へ堕ちる切っ掛けとなった落雷に呑まれた日。私は確かに、雷鳴に存在ごと全てを掻き消してはもらえないものかと願った。あがないがたい罪にまみれ、誰にも合わせる顔がなかった私は、人との繋がりを拒んでしまった。――ならば、この奇妙な仮初かりそめの世界は、私の罪が生んだ世界なのではないだろうか。そして、八という数字は、その罪を祓うまでの期間だということではないか。
 楽観的に考えるならば、八という数字を越えれば、罪が赦され、元の世界へ帰れる事になる。だが私にはどうにも嫌な予感がした。そもそも罪を祓うという事は、何を意味するのか。もしや、期限を過ぎれば、元の世界の記憶を忘れ、この世界の人間と成り果てるのでは? 
 ――馬鹿な、滝夜叉丸は過去の記憶を覚えていただろう。しかし彼は同時に、自分はもう帰れなくなっていると言わなかったか。落ち着け、落ち着け。
 私は必死に目を背けようとするが、しかし嫌な想像ほど脳裏から簡単に振り解けないものもなく。冷たい汗が流れるのを感じながら本を閉じる。
 ……こよみはアテにならない。今の世と私の世のこよみは全く違うものだからだ。今の世の一月ひとつき、今の世の一年は私の知る世界のそれとは違っている。しかし、世界が変わっても変わらない指針が、私には一つだけ思い浮かんだ。――太陽だ。陽が昇り、そして沈む。これだけは、たとえ時を越えても常識の全てが変わっても変わらない。――――ならば。
「まさか、太陽が八度目に昇る時が、タイムリミットなのか……?」
 漏れ出た小さな呟きが、全身の血を冷ましていく。――滝夜叉丸がまだ猶予があると言っていた意味、わざわざこの本を読ませた意味を考えれば、あり得ない話と笑い飛ばすのは危険だった。
 ……落ち着け。これはきっと、私の妄言の類。蓋をされたサイコロの目を、手掛かりなしに半か丁か当てようとするようなもの。滝夜叉丸に真意を確認するまでは、分かる筈がないのだ。
 長く深いため息と共に、全身を重くする不安を体の外へと無理矢理押し出す。――大丈夫だ、絶対に挫けるものか。私はもう一冊の本を手にとった。
 二冊目の本は、どうやら貸し出されてしまった本の続きになっていたらしい。しかしあまりに字が汚く、誤字が多い。恐らくこれを書き記した者は学が無かったか、文字を書く事に慣れていなかったのだろう。忍術学園の一年生のぐちゃぐちゃの答案を読み慣れている土井半助ならともかく、私のような一般の手紙や書物に慣れている者にとっては、難解と言わざるを得なかった。その上欠けている情報があるのだから、解読はより困難を極めるものとなっている。
――神の世のカケラ……? どういう意味だ……?」
 何かの誤読や暗号を疑うものの、他に代わりとなる単語が浮かばず、私は訝しむ。仕方なしに読み進めていく。
 『神の世のカケラを神へと還すには、そのもののもつ意味を完全に喪わせれば良い。完全な形で、カケラを宿す物を壊す。古来より人が神に供物を捧げる方法を用い、神の世へ鍵となるカケラを還す。さすれば、異邦より来たる迷ひ人は、己が故郷へ帰れるだろう。』……簡潔にまとめるならばおおよそこんなところだろうか。
 完全なる形で何かを壊すことで、神への供物を捧げる。それを聞いて真っ先に浮かんだ方法が一つあった。――つまり、焼いて灰に還すという事だ。死者を弔う時に、死者の愛用品を天に贈る為焼くのと同じこと。あまり一般的と言えない内容な気はするが、……他にそれらしい解も無さそうだ、間違いないだろう。
 『ただし、先の本に記した事からも分かる通り、カケラが宿る対象が――であった場合、――の形が失われた時点でその意味は失われる』……。続く記述は書き損じなのかなんなのか、肝心なところが欠けている。……足りない一冊はあまりにも大きな痛手だった。せめてもう一冊の本があれば、そこから照らし合わせて何か掴めるかもしれないというのに……
 私が元の世界に帰るのを邪魔する何者かがいるようで、気味が悪い。しかし、諦めてなるものかと私は心を奮い立たせる。とにかく、何かを探し出し、おそらく焼けば良いという事だけは分かった。一歩前進だと思うしかないだろう。せめて、カケラとやらが簡単に燃やせるものであることを祈ろう。巨岩きょがん家屋かおくの類だった日には、準備だけで一苦労だろうから。
 いつのまにか、時刻はとうに午後二時を回っていた。汚すぎる文字を追うのに、些か時間をかけすぎたらしい。我に返った途端に空腹が押し寄せてくる。……仕方ない、一度引き返そう。私は貸出の許可を受けた数冊の書を手提げ袋に詰め、山田伝子の家へ向けて歩き出すのだった。