nuka_boshi
2025-03-08 17:29:52
25563文字
Public 利吉さんで賽殺しパロ
 

【RKRN】転生したら母親が伝子さんだった利吉さん その2【シリアス死ネタ】

前回に続き賽殺しパロ。そろそろこの世界がなんなのか解説され始めます。
前回、まだまだジャブ程度だというのに利吉さんが勝手に発狂しやがったので、不甲斐ない利吉さんの為に予定を大幅に早めてお助けキャラを投入しました。こんなところで発狂するとは情けない。
とは言えあまりにお助けキャラを出しすぎると今後の展開に響いてくるので、なるべく理由を付けて行動を制限する予定です。
とりあえずまだまだしばらくは曇らせの前振りです。前振りですがネタバレ。今回も利吉さんがやっぱり曇ります。

(※ちょっと長くなりすぎたので章タイトル変更、というか分割。)



……なんですか……これは……
 帰宅後。私は台所に面したリビングにて、震える手で銀色のスプーンを握って、目の前の物体を見ていた。
 皿の上に置かれた半円の物体は、一見するとまるでボーロのようだが、それとは全然違う未知の食物だった。バターの匂いが微かに香る、なめらかな黄色の生地と、その下に申し訳程度に見え隠れする赤い米。なめらかに、ふんわりと仕上がったオムライスとやらは、確かに美味しそう、ではある。実際ほかほかと立ち上る湯気からは食欲をそそる良い香りがしている。少し焦げてしまっているようだが、これもまあギリギリ許容範囲内だろう。量も、育ち盛りの『山田利吉』の為に用意したのか少し多めだが、まあこれもわかる。問題は、なめらかな黄色の生地の上に、デカデカと赤い調味料ソースでハートマークが描かれていることだ。ハートの中には器用なことに、丸みを帯びた文字で『りきち』と書かれている。それ以外にも小さなハートが至る所に散りばめられている。これならば、数個の毒の入った桶の中から安全な茶を選べと言われる方がまだ幾許いくばくかマシなくらいだ。
「何って、とーぜんオムライスよ。ほら、利吉、オムライス大好きでしょう?」
「いつの時代の話ですかっ!!」
 思わずキレてしまったが、正直仕方ないと思ってほしい。女装した父親と同じ顔から出される、まるで愛妻あいさい弁当を思わせる未知の食事。これでキレない方がどうかしている。自慢げに胸を張る伝子を見て私は確信した。――これは絶対に『山田利吉』の好物ではないに違いない。例え好物だった時期があったとしても、きっとそれは幼少期だとか、うんと幼い頃の話であって、この身体の持ち主の『山田利吉』だって絶対に遠慮するだろう。
 私は深くため息を吐くと、スプーンを取り上げヘラの代わりにし、赤い調味料ソースをぐしゃぐしゃと崩していく。「あぁっ!?」と伝子が悲鳴をあげるが、知ったことか。
「次からは、こういうことは、しないでください!」
ゆっくりと、一音節ずつ区切って言い聞かせるようにそう告げる。伝子は何か言いたげな表情を見せたが、しょんぼりと肩を落とし、自分の分のオムライスを机へ運んできた。
 私は無視して「いただきます」と小さく呟くと、オムライスを口に運ぶ。忍者であれば毒を警戒すべきかもしれないが、相手は私を自分の息子だと思い込んでいるのだ。流石に無用な警戒は必要ないだろう。
 口の中で真っ先に広がる卵の生地は、噛んだ瞬間とろりと卵液がとろけていく。卵生地はバターがたっぷり染み渡っているようで、こってりとした旨みが口の中を刺激していく。それだけだとくどくなるに違いないオムライスは、ささやかな塩気と、赤いソースによる酸味が合わさって絶品と評する他、言葉がない。たまにゴロリと顔を覗かせる野菜やキノコ、そして何より旨みをたっぷりと吸った玉葱たまねぎと、小さくしかし厚切りに刻んだ塩気のある肉がたまらない。……たしかに、あのハート文字さえなければ最高の一品だと言えるだろう。
 ふと顔を上げると、伝子は手にした自分の分のオムライスを机の対面に置いて、座ろうとしていた。伝子の分のオムライスは、特に模様や文字は描かれていない。適当に赤でいろどっただけ、といったシンプルそのもののオムライスだった。その上、私の分より先に作ったのか、湯気も殆ど出ていない。
「ふふっ、美味しい?」
 食事を運ぶ手が病院食の時より幾分か早い事に気付いたのだろう、伝子が嬉しそうに尋ねてくる。
 何故だかとてもバツが悪くなり、私は目を逸らす。
……というか、貴方の分が冷めてしまっているじゃありませんか。先に私の分を作っておいて別々に食べるか、一度にまとめて作る方が効率的だったのでは?」
 居心地の悪さを誤魔化す為にそう問うと、伝子はふふっと笑った。
「利吉ったらいっつも同じ事言うんだから」
 どうやら『山田利吉』も同じ事を考えていたらしい。しかしそれならば尚更、改善しないのは非効率ではないのか。そう考える私の前で、伝子は茶目っけたっぷりにウインクしてみせる。
「でも駄〜目っ! だって、一度目に作るよりニ度目に作った方が、バターがたっぷり染み込んで美味しいんだもの。利吉に最高のオムライスを食べて喜んでもらえるなら、お母さんは冷めたオムライスのほうが最高のご馳走なのよ」
 ……聞かなければ良かった、と咄嗟に思ったのは、この女のウインク姿と勘違いがあまりにも愚かしいからだ。私は断じて『山田利吉』ではないし、この女の息子でもない。そんな見ず知らずの他人の為に、わざわざ冷めかけた食事を摂るだなんて、滑稽こっけいの極みとしか言いようがない。
「全く、何が最高のオムライスですか。そんなことくらいで食事の味なんて変わりませんから」
 だから、早口の言葉が飛び出したのは、決して言い訳なんかじゃない。次に口の中に入れた時のオムライスの味が、最初食べた時より美味しくないような気がするのも、きっと焦げた卵のせい。山田伝子が料理下手なせいだ。違いない違いない、違いない……
 だから、私の心根はなにも変わらない。目の前の人物は、所詮どうでもいい、どうなろうと構わない赤の他人。いずれ私が出ていく予定の、最低最悪の世界の、まがい物の住人でしかないのだから。
 私は心なしか早めにオムライスを平らげると、赤いソース後が残る皿を片付けようと席を立つ。
「あら、利吉。今日は疲れたでしょう? お皿はそこに置いておいて。お母さん、片付けとくから」
 食べる手を止めて、伝子がそう微笑む。私は何故か一瞬言葉に窮したが、微笑み返して答えた。
「そうですか、ではお言葉に甘えて」
 『山田利吉』の部屋に戻るため、私はリビングを後にする。その背に、温かくてどこか寂しい視線がずっと向けられている事に、私は敢えて気付かないフリをした。

 『山田利吉』の部屋に戻り、無理矢理に心を落ち着かせる。
 この奇妙な世界から抜け出すのが非常に困難な事くらい、とうの昔に分かっていた。今の私は蜘蛛くもの糸を伝って極楽ごくらくを目指しているようなものだ。しかし、どんなにか細い糸であれ、そこに蜘蛛くもの糸は垂れている。――つまり、まだチャンスはあるのだ。
 ――滝夜叉丸。かつての私の世界を知る同胞。何故彼が『自分はもう元の時代に帰る事は出来なくなった』などと言ったのかはわからない。だが、彼は確かに言った。私には、山田利吉にはまだ猶予ゆうよが残されているのだと。しかしそれは同時に、私が元の世界に帰るまでの明確な期限があるということで――
 …………余計なことは考えるな、山田利吉。少なくとも、手掛かりはあるのだ。お前は元・プロの忍者だろう。どんな手段を使ってでも目的を果たす。それが忍者だろうが――
 握りしめたこぶしを開き、私はポケットに突っ込んだままだった紙切れを慎重に開いた。そこには三冊の本の題名が書かれている。……図書館とやらに行けば借りられると言っていたな。貸し出し手続きだとか図書カードがどうとか言っていたが、まあ良いだろう。明日は市立図書館にて忘れてしまった知識を勉強したいとでも言いくるめてしまえばいい。
 お風呂が沸いたわよと声をかける伝子に適当な返事を返しながら、私は伝子を言いくるめる為の言い訳を考えていた。