桜霞
2022-10-01 17:50:07
46624文字
Public 【twst夢】フライパンは無敵
 

君がいる夏

#twst #twst夢 #not監督生 #女監督生 #オリ女主 2020/05/22にpixivに投稿したものの再掲です。







 浴衣ってどんなんなの、俺なに持ってけばいい? などと質問攻めをするフロイドを「後でまとめてお話するので、」どうにかいなし、先に裏口に回ってもらうことにして、ユウはようやく自分に用意された控え室で一息つくことができた。
 なんだかどっと疲れたような気がする。まさかアズール達に知られていたなんて思わなかった。そして分かりにくい好意を真っ向から全否定しまったことに、今更ながら胸がじわじわ締め上げられていくような気がする。そして勢いそのまま御三方を誘ってしまったけれど、きっとエース達は苦い顔をするのだろうなあ、と眉がきゅっと寄ってしまう。
 フロイドを待たせているので急いで着替え、荷物をまとめて外に出る。瞬間、「おわっ」と誰かがたたらを踏んだ。
「えっ、あっ、すみません!」
「あーいやこっちこそ、って、ユウくんか」
「あ、ラギー先輩」
 お互い、なぁんだという顔をする。ラギーはすっかり普段の寮服に着替えていた。彼もこれで上がりらしい。
「先輩は最後までいるんだと思ってました」
「今日は別ッスよ、俺も勉強したいんで。土日は夜いっぱいいるッスけど。ところで、さっきフロイドくんに絡まれてなかった?」
「あぁー……まぁ、ちょっと。へへ」
 いつものことですよ、とユウは曖昧に笑って誤魔化した。ふうん、とラギーの耳がピコピコ揺れる。

 ───うーん、疑われている。

 ユウは逸りそうになる心臓を無理やり落ち着かせて、「お兄ちゃんが心配することは何もないですよ」ちょっとおどけて言って見せた。一呼吸置いて、ふと相合を崩したラギーが、わしわしとユウの頭を掻き混ぜる。ユウもついつい連られて頬を緩ませた。
……でも、なーんか隠し事してるっしょ」
……えっ、」
 揺れるユウの頭を、有無を言わせぬ力でラギーの指が抑えている。痛くはないが、ユウは引き攣りそうになる頬を自然に装うので精一杯だった。ラギーはにこにこ笑っている。
「な、なんで、」
「おにーちゃんに隠し事なんか十年早いんスよ! ホーレさっさとゲロったゲロった」
「み゛ゃー!!」
 頭をがっしり掴まれてぐらぐら前後左右に揺らされて、ユウは思わず悲鳴を上げた。猫のようだったが、どっちかと言うとグリムくんに似てんな、とラギーは呑気にもそう思った。
 その背後に、のそりとウツボが現れる。
「遅いからァ、迎えに来ちゃった♡」
「オワッ、」
「んみ゛、」
 容赦なくどつかれたラギーが軽く吹っ飛んだ。連られてユウの頭も思いっきり揺れる。しかしラギーは上手く着地して「突然なんなんスか!」と元気に吠えた。
「うるせーな、小エビちゃんは今から俺とお話すンだよ」
 長い腕が肩に絡む。そのまま裏口の方へ押され、ユウはされるがまま足を進めた。気分は水の流れに弄ばれる藻屑かなにかである。
「俺だって聞きたいことあるんスから!! つーか最近思ってたんスけど距離近くねぇッスか!?」
「アー……収まりいンだよね」
「ユウくんそれでいいんスか!?」
「こっちの方が安全なので……
「マジの共生関係じゃねっスか……
 ラギーがうげえと顔を歪める。なんだかんだ、三人は揃ってオクタヴィネル寮の鏡を通って鏡舎に出た。
「じゃーねコバンザメちゃん」
「ちょっと待つっス! 俺だって聞きたいことあるって言ったッスよね!?」
「はァー?」
 心底からどうでもいい、そして面倒くさいという声を出し、フロイドは遠慮なくユウに体重をかけてもたれた。長い腕がぶらんと揺れる。
「ァんだよ、めっちゃ食らいつくじゃん」
「せんぱい、こえびがつぶれます」
「アハ、ほんとだ! オレ転けそー!」
「ほんとにこけますよあたまうちますよ」
「オレが頭打ったらオレのユカタ小エビちゃんが作ってね」
「ちょ、それは勘弁してください……!!」
 ユウが踏ん張って長身体躯を支えようと奮闘する。それを眺めやり、ラギーは「ゆかた?」と首を捻った。
「アレっすか、リンさんが寝間着兼部屋着にしてる……なんでフロイドくんが作るんスか?」
…………
…………
 フロイドは小エビの方を見遣った。ちょっとだけ顔を歪めたユウはしかし、結局ひとつ大きく息をついて、フロイドにきちんと立ってもらうと、ラギーに向き直った。
 そしてかくかくしかじか、これまでの経緯を説明する。
 エースの発案で夏祭りをテスト明けにすること。そのために浴衣を作って、一人一品持ち寄ってバーベキューか何かをし、ヨーヨー釣りなどの屋台をちょっとだけ再現すること。食べて遊んで、なんてことはない、いつもの面子でのお祭りだ。
「なぁ〜んだそーいうことだったんスね〜!!」
 話を聞いたラギーは、それはもう満面の笑みを浮かべた。
「オレのタダ飯センサー、じゃなかった、勘は今回も外れなかったと!!」
「コバンザメちゃん、もしかして小エビちゃんとアズールの話聞いてた?」
「そこで聞いてたって言うバカいるんスか? まぁ俺はバカじゃねえっスけど……
 つまりは聞いていたということだ。フロイドはカラカラ笑い、ユウはとうとう溜息をついた。
「何となくそんな気はしてましたけど、はぁ……まぁ、もうこうなったらいいです。エース達がなんて言うか分かんないけど……
 祭なのだ。人は多い方がきっと楽しい。ただなんとはなしに、今回も今回とて一年生だけでのつもりだったから、ざっくばらんに「こうかな」と思っていた予定のようなものが崩れていくのがちょっとだけ不安なのだ。

 ───まぁ、いつものことだけど……

 ユウはさっさと気持ちを切り替えた。人生諦めも肝心なのだ。特にタダ飯に関して、ラギーが決して譲らないのは骨身に染みている。
「フロイド先輩、後でアズール先輩とジェイド先輩もウチに来てもらうように伝えてくれませんか? 今日、皆で集まって勉強会しながら採寸する予定だったんです」
「いーよォ」
「ラギー先輩もウチに寄ってってください」
「了解っス!」
 三人はそのままのんびりとオンボロ寮への道を進んだ。生ぬるい風が頬を撫でる。じんわり暑いが、不快というほどでもない。フロイドはほどなくしてユウから離れ、先の方を一人ぷらぷら進んだ。故郷の夏祭りを説明するユウの声がぼんやり響いてついてくる。
 夏だから、まだ遠くの方で西陽が赤々と空を染めている。けれどもふと頭上を見上げると、どこか霞んだ宵の帳に、それでも星がちかちかと瞬き始めた。あちー、と、自分の声がどこか他人のそれのように溶けて消える。
 海では味わえなかった感覚だ。どこか寂寥を感じるのに、満ち足りているような気さえする。
 小エビがフロイドの脇をすり抜けるようにして小走りで駆けて行った。ブザーを鳴らし、じゃらじゃら鳴る鍵束の内からひとつを取り出して鍵穴に差し込む。すっかり習慣づいた手癖だった。
「ただい、まっ、わ、あれ、」
 ユウよりほんの少し早く、内側から扉を開けたのはレオナだった。えっなんで、と三人が揃って瞠目する。
「遅かったな。さっさと上がれ」
 まるで我が家であるかのような振る舞いで、レオナは身を翻した。弾かれたようにしてラギーがいの一番に寮へ駆け込んだ。
「えっちょ、レオナさん!? オレ今日ここ来るって言いましたっけ!?」
「言ってねえな」
 ぽかんとしているユウをよそに、がちゃりと談話室の扉が開かれる。
「おっ、帰ってきたな。おかえり」
「お邪魔してマース!」
「トレイ先輩、ケイト先輩!」
 ひょこひょこと顔を覗かせたのはトレイとケイトだった。その奥から「おかえりー」「バイトお疲れ!」といつもの面子の声が聞こえてくる。
「かんとくせー、悪り、バレた」
 エースがどこか複雑そうな顔をしながら声を伸ばす。ユウも苦笑して、「私もバレたァ」とフロイドを掌で指し示した。ぺか、と鮫歯を剥き出しにしてフロイドが笑う。エースは内心思いっきり「ゲェ」と顔を歪めたが、どうにか「なんだよ、お前もかよ」と不貞腐れる装いをするに留まった。
「ということは、お前も夏祭りの話を聞いたんだな」
「後でジェイドとアズールも来るよォ」
「だよね〜! 逃す筈がないよね〜こんな楽しそうなこと!」
 思いっきり一年生達のお楽しみに乗っかった上級生達がワハワハ笑う。ひよっこ一年達は「ほんとにウチの先輩たちってこんなんばっか」と揃って遠い目になった。そこへ、レオナに呼ばれたリンが顔を出し、ぱっと瞳を丸くさせた。
「おっ、来たなァ〜五尺野郎!」
「新人ちゃーん! オレも夏祭りやるー!」
 フロイドが元気に手を挙げる。リンは階段を軽く顎でしゃくって見せた。
「寸法測るからジャケット脱ぎな。ユウ、おかえり」
「ただいまです! えっとあの、後でジェイド先輩とアズール先輩達も来ます……
「あっはっは! まぁそんなこったろうと思ったよ!」
 採寸用の長いものさしで肩を叩き、リンは軽快に笑った。その横を、フロイドがジャケットを脱ぎながら通り過ぎて、階上へ進む。
「まぁ祭なんざひとがいてなんぼだろ。派手に行こうぜ、派手にな」
 ぱち、とウィンクが飛ぶ。ユウは内心「きゃあ!」と悲鳴をあげた。リンのウィンクはカッコイイ。破壊力抜群だ。
「夕飯は温めたら下で食べな。上はちょっと採寸に使うから」
「はい、分かりました」
 二階のキッチンエリアではラギーが料理をよそっているところだった。リンさんちの今日のご飯は、コメ、お吸い物、ナスと豚肉の炒め物、トマトとキュウリのイタリアンドレッシング和えだ。
「はい、これユウくんの」
「ワーイ! ありがとうございます!」
 どうやらラギーの分も用意されていたらしく、二人は揃って階下に降りた。談話室に入ると、ローテーブルの上がばたばた音を立てて片付けられる。
「バイトお疲れ、ふたりとも」
「ありがとござます!」
「ドーモっす。おふたりは一年のお目付け役ってところっスか?」
「まぁ、それもあるな」
「リドル先輩には……
「あぁ、リドルの分の浴衣は俺が採寸してリンさんに連絡することになったよ」
 トレイの言葉に、ユウは「やっぱりバレたんだなぁ」とちょっとだけ遠い目をした。隠してはいなかったとはいえ、こりゃあ「ちゃんと勉強してるのか」とこってり絞られたに違いない。エースとデュースはちょっとだけぶすくれて、そしてしゅんとして、もくもくと課題を進めていた。
 しばらくするとユウやラギーのように食事を抱えたフロイドが談話室に降りてきた。再びばたばたと机の上が騒がしくなる。長い足でヒョイとソファを乗り越えて、フロイドはユウの隣に収まった。
「イタダキャース!」
 リンの料理は香り高い。空腹を刺激する香りというやつだった。フロイドは酒が欲しいなァと思いながらナスと豚肉を白米と一緒にかきこんだ。タレが白米に染みてとてもうまい。
「幸せそうに食うっスねえ」
「コバンザメちゃんも人のこと言えねーっしょ」
 ラギーの皿の上にあった食材は須らく綺麗に平らげられていた。米粒ひとつどころかタレすら残っていない。絵に描いたような食べっぷりだ。
「正直なんでタダ飯が用意されてたのかわかんねーしそれがちょっとトラウマっスけど腹括ったっス」
「ンっふ、」
「?」
 フロイドは首を傾げたが、思い当たる節のあるユウはうっかり肩を震わせた。どうやらあの丹精込めて作られたカツ丼はよほどラギーの印象に残っているらしかった。
「レオナがラギーの分を頼んでたとかじゃないのか?」
「まっさかァ! あの人ンな性分じゃねーっスよ!」
「それって笑顔で言い切ることじゃなくない!?」
 ケイトが笑う。トレイは苦笑した。そんなことないだろう、たぶん、とフォローするのが難しかったのだ。
「それにしてもなんでレオナさん、今日に限ってここに来たんスかね? オレはおこぼれに預かれてラッキーっスけど、いつもならオレが帰って飯食い終わって勉強始めるまで寝てるッスよ」
 不思議そうにあっけらかんとしているラギーに答えたのは意外にもフロイドだった。
「なんかね、新人ちゃんと話あるみたいだったよ」
「へ? リンさんと?」
「何話してんのか聞こうとしたら『ガキはメシ食ってろ』って言われてえ、ムカついたから絞めようかと思ったけど新人ちゃんが『ハタチの現役高校生がなんか言ってら』つっててちょーウケた」
「ちょーウケねぇ……
 レオナもレオナだがリンもリンだ。レオナに対して容赦がない。だからと言ってレオナはリンに手を上げはしないだろうが、その後のご機嫌取りに奔走するハメになるだろうラギーは顔をしわくちゃのハイエナにした。だってレオナは機嫌が良くないと勉強を見てくれないのだ。試験前はさすが三度も留年してるだけあって頼りになる知識量を披露してくれるのに。
 結局、主に我が身の行く末を案じるあたり、ラギーもラギーで人の事をとやかく言えた身ではなかった。
「あのう」
 そこへ、ユウがひょこりと手を挙げる。
「リンさんとレオナ先輩の話、長引きそうでした?」
「知らね。なんで?」
「ちょっと、リンさんには秘密にしたいことがあって」
「お?」
 なんだなんだ珍しい、と皆が目を丸くしてユウの方を見やった。
 オンボロ寮では報告・連絡・相談を欠かさないことが唯一絶対のルールだ。それ以外は何をしてもいいわけではないが、特にユウはこのルールを忠実に守っていた。最近は「まぁ後出し連絡でもリンさんなら許してくれるかも」と怠けることはあったけれども、大人に甘えるこども、学生のちょっとだけ生意気なご愛嬌というやつだ。
 そのユウが、リンには秘密にしたいことがあるという。珍しい事態以外の何物でもない。
 一体何が飛び出してくるのか、興味半分、好奇心半分で皆が耳をそばだてる。
「こんだけリンさんのご飯食べてオンボロ寮に泊まりまくってる皆さんにも、是々非々、ご協力頂きたいんですが」
 そして一部のメンバー以外が視線を明後日の方向へ逸らした。
 視線を逸らさなかった一部のメンバーがラギーやフロイド、一年生達を順繰りに見やる。
「皆さん自覚があるようで何よりです」顰めつらしい顔で、ユウが重々しく頷いた。
「この一年、ほんとにリンさんが居てくれたお陰で、私、普通に過ごせたんです。皆とご飯食べるの楽しいし、夏祭りめちゃくちゃ楽しみだし。そういう風に思えるようにしてくれたの、きっとリンさんなんです」
 だから私、リンさんに何かお礼したくて。
 はっきり言ったユウに、フロイドは首を傾げた。
「料理作ってあげるやつは?」
「喜んでもらえました。先輩にはお世話になりました」
 ユウが深々頭を下げる。フロイドは「んー」と生返事をしながらユウの後頭部をパスパス掌で叩いた。
「リンさんにお礼したくて。だからリンさんにも夏祭り楽しんでほしくて。私、リンさんに『浴衣、新しいの作りましょうね』って言ったんです」
……うん?」
「おぉ……?」
 察しのいい連中が、違和感に気付く。マブ故にデュースも少しだけ困惑した表情で何度か目を瞬かせた。
 遅ればせながら、エペルやセベクも気が付いた。
 あの、リンさん大好きを普段から隠そうともしないユウが。リンさんについて話をしているのに。すとん、とその表情を抜き落としているのである。
「リンさんは……リンさんらしい答えをくれました……
 ユウをよく怒らせているエースやグリムにはひどく見覚えのある表情だった。───これは、ユウが本気で怒る一歩手前の顔だ。
「───曰く。『私は帯を作るだけでいい』『今着てるやつの手直しもしたかったし。ちょうどいいから、リメイクして、ちゃんと見れるようなやつにするよ』とかなんとか、抜かしてくれやがりまして………!!」
 憤怒の炎がぱちぱち爆ぜる。ごくりと固唾を飲む男共は、うねりをあげる怒りに煽られて、ユウの髪がゆらりとなびいたのを、はっきりと、視た。
「いつだって私達を最優先に考えてくれるリンさんらしいです……とても素敵で……尊敬できる……大人……ですけど……
 ユウは、すぅ、と息を吸って整えた。
「わけがわからないよ!!! こんなのぜったいおかしいよ!!!」
 ガタタッ、ローテブルが衝動に任せて揺さぶられて変な音を立てる。ユウが壊れた、とエースが呟いて腰を浮かせた。
「だって絶対綺麗な浴衣着たいじゃないですか!? リンさんですよ!? 自分に似合う浴衣くらい絶対分かってるんですよ!! それなのにあんなボロボロヨレヨレを着るってんですよ!?」
「ど、どうどう、監督生、」
「お、落ち着いてユウくん、ねっ、」
「黙ってください!! 浴衣美人なリンさんを見たいって思って何が悪いんですか!!」
「そんなこと一言も言ってないけど!?」
「うわー、小エビちゃんがアズールみてーになってる」
 おもしれー、とフロイドがケラケラ笑う。ちょ、マブ!! とケイトが慌ててエーデュースを呼んだ。
「これどう止めるの!? 止まるの!?」
「自然災害と一緒っすよ、収まるまで収まんねーっす」
「どうせ私のこれもエゴですよ!! 私ばっかり貰ってる気がして辛いんですよ!! でもリンさんいつまでも私を甘やかす!!」
「今日は一段と元気だな」
 言いつつ、デュースは麦茶をコップに注いでやった。暴れた後の水分補給は大事だ。特に夏は。
「もう私も堪忍袋の緒が切れました!! 絶対リンさんに似合う浴衣作って、サプライズでプレゼントして、『参った』って言わせます!!」
 どっかん、最後の爆発が終わる。
 ぜえはあと息を荒らげたユウは、注がれた麦茶を一気飲みした。いい飲みっぷり、とエペルがぱちぱち手を叩く。
 直後。
「話は聞かせて頂きましたよ!!」
 バァン、と集中線を使いまくって登場したのはアズールだった。傍にジェイドも控えている。大きな音に驚いてユウは思わず座ったままエビのように飛び跳ねた。
「ユウさん、その話、僕にも必ず一口噛ませて頂きましょう。あの方に『参った』と言わせたいのは、貴方だけではないことをお忘れなく」
 深海の商人がにやりと笑みを深めてみせる。ユウは数度瞬いて、「先輩、」震える声を発した。
「いったい、どうやって入ってきたんですか……? 鍵かかってましたよね……?」
 にっこり笑顔のまま、ジェイドが小首を傾げる。
「鍵、開いてましたよ」
「あ、オレ、開けといた」
……び、びっくりした……
 ジェイドと顔を見合せたフロイドがにやりと笑う。エネルギーを使い果たした小エビはようやく落ち着いて、「そういうわけで生地選びとか採寸とか型紙作りとか裁縫とか手伝って頂きたくて」ようやく本題を口にした。
 ユウの変貌ぶりに苦笑したトレイが、いの一番に「そういうことなら断れないな」と声を上げる。
「生地選びは、ケイトとユウでやるか? ケイトはそういうの、得意だろ」
「えっ、まっかせて!」
「それなら、エペルにも手伝ってほしいな。ヴィル先輩仕込みのセンスを存分に活躍させてほしい」
「ええ!? ボクはそこまで詳しくないけど……うん、でも、ボクにできることなら協力するよ」
 不意に、そうだ、とデュースが手を挙げた。
「ファッションのことなら、クルーウェル先生にも聞いてみるか?」
「ばっか、勉強しろ駄犬!! つってキレられんのがオチだよ」
「う、そ、それもそうか……
「え、でもリンさんの私服選んでんのクルーウェル先生だよ。っしゃダメ元で頼んでみる」
「マジっすか……勇気あるっスね……
 ラギーは素直にドン引いた。そしてオレはパス、と諸手を挙げる。
「オレはそーいうのマジよく分かんねーし。その分、当日に持ってく料理を一品増やすんで、それで勘弁してほしいっス」
「え、ラギー先輩には採寸頼もうかと思ってたんですけど」
「ユウくん、さてはオレを殺したいんスね?」
 ンなもん死地に決まってるじゃねえっスか!! ラギーがぐわりと牙を向いてがなった。
「妖精の女王(ティターニア)の冠に飾られた魔法石をすり替えたアンタが何言ってんですか」
「それはそれ!! これはこれ!! あの人にゃ絶対バレるんスよ!! オレの勘がそう言ってる!! あの人はスリをしかけちゃいけねえタイプっス!!」
「人のタイプによらず人のもんスっちゃいけないんですけどね」
「それはその通りだな」
「ラギーくん、今の録音をどっかに流されたくなかったら協力した方がいいかも☆」
 頷くトレイの横から、ケイトがにこやかに脅迫した。これだからハーツラビュルはとラギーが頭を抱える。
「可愛い妹のお願い聞いてくれないんですかお兄ちゃん」
「可愛い妹は兄貴を死地に送ろうとはしねーんスよ」
「えっ二人ともいつの間にそんな仲良くなったの? けーくんのこともお兄ちゃんって呼んでいいんだよ!」
「ユウはとっくにうちの子だと思ってたんだがな……そうか……残念だ、リドルが悲しむな……
 トレイ先輩までボケに回っちまった。エースが頭を抱えてジャックは顔を掌で覆った。
「なーに言ってんのォ、小エビちゃんはオレらの小エビだしぃ」
「何せ気持ちを確かめあった仲ですからね」
 小エビと肩を組んだフロイドの後ろにジェイドが移動する。マブたちは「えっ」と腰を浮かせた。
「えっ待ってオレらそれ聞いてねーぞ」
「確かめあった……!? 気持ちを……!?」
「これは……詳しく話を聞かなきゃいけないみたいだな」
「へー、何の話?」
 スコン、と綺麗にその声が響く。
「、」
「っ!」
 皆が息を詰まらせて、声のした方を見た。そこにはレオナと共に談話室に顔を出したリンの姿があった。
…………
 場の空気がびしりと固まる。「あんたたちねぇ、」リンは呆れたように口をへの字にした。
「盛り上がるのはいいけど、ちゃんと勉強しなさいよ。やった気になるだけなら意味無いんだから」
「ご心配なく。ちょっとした息抜きですよ」
 にこやかに微笑んだアズールが言葉を添える。リンは「おめーは胡散臭いんだからこういうところでフォローに回るんじゃない」あっさりばっさりアズールを切り捨てた。
「ジェイドも念の為に採寸するから上においで。アズールもね。トレイ、ケイト、あんた達、泊まっていくなら言いなさいよ。毛布出すから」
「はーい!!」
「お気遣い、ありがとうございます」
 それじゃ行くよ、とリンはあっさり身を引いた。アズールとジェイドも素早くそれについて行く。足音が完全に遠ざかって、「行った?」「行った」アイコンタクトが交わされた。
……っぶねー……!!」
「バレたかと……早速バレるかと……
「あ? なんだ、なんか企んでんのか」
 どういうことだ、とレオナがラギーに視線を寄越す。
 どうやら本当に聞こえていなかったらしい。獣人の耳よりリンのそれがいいはずがない。生徒たちは揃って息をつき、ほっと肩の力を抜いたのだった。